嘘だと言ってよ。
リンベル達に情報収集をお願いしてから一週間が立った。
今日のボクは全く授業が手につかない。
理由ははっきりしてる。
この授業の前にリンベルが、近寄ってきて「あとで」と言ったから。
調査の結果を、知らせてくれるんだ。
ガーネットは、絶対、恋愛とか、そういうのは、知らない。
もし、何かあるとすれば、デュオからの一方的なものだ。
ガーネットはそれでちょっとぼーっとしてるだけ。
だからボクは、デュオからガーネットを守ればいい。それを再確認するだけの話だ。
じれったい時間が流れる。
合わせて、気に障ることがあった。
前の奴らが、たまにチラチラと振り向いてボクの方を見てくる。
これは、ボクが授業を受ける時によくあることではあった。
『そんなに面白いか? "獣憑き"が授業を受けてることが』
そんな意志を込めて睨み付けてやると目線は簡単に散っていく。
の、だが――。
今日は頻度が多い。あまりにも。
だけど、しばらくしたら気付いた。
――ボクが、授業に集中出来てないだけだと。
ああ、もう、腹が立つ。
集中できなくても授業を受けた方が気がまぎれるってことかよ。
ボクは全く気乗りがしないまま、ノートを広げた。
授業終わり、いつもと同じように、リンベル達の気配を待つ。
結局、ノートは、ほとんど真っ白だ。
だけどそれどころじゃない。こっちの方がボクには一大事なんだ。
ああ、早く、早く来てくれ、リンベル――。
「ノエル様」
来た!
「リンベ…いてっ」
ボクが立ち上がって振り返ると、何かが顔に当たった。
それの向こうで、リンベルが目を伏せている。
「なんだよ、このバケツ」
勢い余ってリンベルの持つバケツにぶつかったんだ。でもなんでこんな物を?
「これ、持っててください」
「え、別にいいけど」
バケツを受け取って、中を覗いた。
なんだろう。紙が敷いてあるな。
「う、うんっ、けほ。では、調査報告をします」
リンベルは咳払いをしてから、しゃべり始めた。
「私達の調査の結果、ガーネット様がデュオ様と密会を重ねている、といった事実は見当たりませんでした」
「おおっ」
そうか!やっぱりボクの心配しすぎ――。
「――ですが」
浮かれ始めたボクの心は、リンベルの声に引き戻された。
「……私たちは調査の中で、とある情報提供者と出会いました。その方は、中庭に座っていました。まだ学園生活に慣れることが出来ず、静かな場所に行きたかったそうです。そこに、デュオがやって来ました。何か慌てているようだったそうです」
デュオ?デュオなんか関係ない。そうだろ?
――なんで、そんな話?
「彼女はその様子に何か不穏なものを感じ、急いで立ち去ろうとしたのですが、その時。デュオ様を追うように、天文棟の方から、一人の女性が走ってきたそうです。その女性は、背が高くて、綺麗な人だったと、言います」
ちょっと、ちょっと待て。
そう言おうとしたけど、声にならなかった。
「その方は、デュオの胸の中に飛び込んでいった、そうです」
喉の奥が気持ち悪い。
「情報提供者の方は遠巻きに見ていて会話までは分からなかったそうですが、綺麗な女性の方は……困惑する様子のデュオに、すがりつきながら、泣いており、その……デュオが……」
綺麗な女性なんていくらでもいる。
ガーネットじゃない。ガーネットじゃない。ガーネットじゃ――。
「真っ白なハンカチを、渡したそうです」
……。
「おええええええ……」
噓だろ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だろ。噓に決まってる。そんなの。そんなの。噓だって言ってよ。
「……正解やったな、バケツ」
スイカの声が遠くに聞こえる。
だけどボクに、その声に反応する余裕なんか無かった。
彼女の為ならどんな相手にも戦う。
ガーネットがのびのびと過ごせるなら、どんなことでもする。
でも、だけど。もし、可能性の一つとして。
ガーネットが、デュオに近付きたいって思っているとしたら。
邪魔なのは、ボクだ。




