星空の観察者は動き出す。
私、リンベル・アストレーは、星空の観察者です。
ウエストリアでの専門を天文にするという意味ではありません。
私は双子星を見守る者。優しく煌めくガーネット様。激しく輝くノエル様。
お二人のことを陰ながら支える。それが、今の私の目的です。
いつか来る日の為にスイカさんと二人で準備をしていたのですが、まさかこんなに早く活動を開始するとは思いませんでした。
調査内容は、ガーネット様とデュオ・ヴァルナートの関係について。
……正直言って、あの夜以降の二人に関係があるとは思えないのですが。
しかし、ノエル様はあの"決定的場面"を見ていないのですから、見解が違っても仕方ありません。
ここは、心配性なノエル様に、結局何もなかった、と報告する為に頑張りましょう。
まずは、作戦会議から。
今私たちがいる中庭は太陽が真上に照る時以外は日当たりが悪い。
あまり人通りの無い棟と繋がっていることもあり、どこか忘れられたような雰囲気で、人が寄ってきません。
密談にはもってこいという訳です。
「しっかしノエ様は過保護やなぁ。ガー様が誰かを好きになってもほっときゃええのに」
そう言ってスイカさんはパンを口に運びました。
「仕方ないですよ。デュオ・ヴァルナートの噂を聞けば、誰でも心配になります。ガーネット様とデュオ・ヴァルナートは因縁あり、ですから」
「それにしてもやで。ガー様がハンカチを眺めてたから不安になった、調査してくれってのは飛躍しとる。そんなんまるで……」
スイカさんはそこでふと、止まりました。
「……まるで?」
「まるで、ウチのおとんとおかんや」
スイカさんはパンにもう一度かじりつき、しっかりと噛んで、飲み込んでから言いました。
「ある日、おとんがおかんにイヤリングを買ーてきた。似合うと思うてって」
「わあ、素敵な話ですね」
「おとん、浮気しとったんや。おかんはそのイヤリングが、罪悪感のもんやと気付いたんやな。おかんはすぐに動いて、現場を抑えて、そらもーえらいことになった」
スイカさんはパンを包んでいた紙をがさがさ丸め、それから私の顔を見て言いました。
「ああ、ちゃうちゃう。気にしてへんよ。そん時は修羅場やったけど、今でも二人は仲良うしてます。言いたかったのは、女のカンって奴の話や」
「女の、カン」
「あんねんよ、相手の事をずーっと見てる人にしか分からんもんが。人から見たら小さなことやけど、ピンと来るもんがある」
「……ああ、分かるかもしれません」
思い返せば、私も昔、生まれ育ったグレモラでそんなことがあった気がします。
「ノエ様は、ガー様のことがよっぽど好きなんやなぁ」
スイカさんはバスケットから二つの杯と容器を取り出しました。
「リンちゃん。お茶、温める?」
「お願いします」
「ほい」
スイカさんは容器の中を杯に注ぎ、両手で握りました。
やがて、ほかほかと湯気が。
固有魔法。私には使えないけど、こうして実際に見てみると凄い便利。
きっとスイカさんの血筋の源流には貴族が居るのでしょう。
聞く気はないですけど。
私は渡された杯を傾けました。爽やかな、若摘みの緑茶。
しばし、二人で並んで静かなティータイムです。
お茶が冷めて生ぬるくなってきた時に私は切り出しました。
「とにかく、私たちのやる事は決まっています。デュオ・ヴァルナートとガーネット様の接点を探る。そして、出来ればハンカチの出所を見つける」
「んー、雲を掴むような話でまんなぁ。新入り情報屋には難易度高すぎるで」
「そうでしょうか。目立つお二人です。もし接触があれば必ず誰かの目に留まっているはず」
「せやったらもう噂になっててもおかしくないで。ノエ様はともかく、ウチらの耳には届いてるはずや」
確かに、その通りです。では、残る可能性は。
「デュオ・ヴァルナートに口止めされているか……簡単には話せない物を、見てしまったか?」
「……そういうことやな。よっしゃ」
スイカさんはくーっと杯を干して、立ち上がりました。
「目標は、喋りたいけど喋れない秘密を抱えている人や。とにかくその線で当たってみよ。何もなかったら、それでええってことで」
私も急いでお茶を飲み干し、バスケットにしまいます。
「スイカさん、お茶、ありがとうございました」
「えーよえーよ」
スイカさんはバスケットの蓋を閉めながら言いました。
「ぜーんぶ、ウチが好きでしとるんやから」




