知らない人だ。こんにちは。
「ここに女が居て石を投げたら当たるかもしれねぇって、分からなかったのか?」
「すみませんねぇ、今の私にはあなたしか目に入らず。ですが、『今度』は逃げませんでしたね、デュオ様」
「っ!」
男の人はデュオさんを見てくすくすと笑った。え、なんだろ。良い雰囲気ってこと?
「デュオさん、この方はお知り合いですか?」
デュオさんに聞いたんだけど、男の人が答えた。
「もちろんですよ。常日頃からデュオ様にはお世話になっております、お嬢さ――」
男の人は途中で止まって、私の顔を見た。
ん? なんだろ。
「おやぁ。おやおやおやぁ? これは、デュオ様に『遁走貴公子』の仇名を授けた、ガーネット様じゃないですか」
あだな? とんそうきこうし? またよく分からない話。
男の人はまたデュオさんに笑いながら喋った。
「デュオ様、何故ガーネット様と接触を? もしかして口止めでもするつもりだったのでしょうか? いえ、きっとそうですよね。ガーネット様に何を言われたのかは知りませんが、それは間違いなく貴方の弱み。であれば口を塞ぎたくて仕方ないはずです。何と言ってお願いをしたのですか?」
「――よく喋るな、オーフェン」
「おや、私の名前を?」
「ああ。初等学習院で見た顔だな。確か、上級生か。静かで頭の良さそうな奴だと思ってたんだが。がっかりだ」
デュオさんは一歩踏み出した。
「ベラベラ喋る奴は、ただのバカだ」
「バカとは――」
「え! それって」
ベラベラ喋る奴。それってわたし!
だけどデュオさんはすぐに身体をねじって私に小さな声で言った。
「お前には言って――いいから今は静かにしてろっ」
「はい。静かにですねっ」
私は唇に指を当てた。しー、だね。
「こそこそと、何のお話をしているのですかぁ?」
あ、オーフェンさん、近くに来てる。
「てめぇには関係ねぇ」
「つれないですねぇ。ですが、構いませんよ。どうせ貴方は何も喋ったりしないでしょうし。だから」
オーフェンさんは、私に向けて言った。
「ガーネット様にお聞きします。あの時、デュオ様に何を仰ったのか。私に教えてくれませんか?」
「はい。いいですよ。あの時はですね」
「おいガーネット――」
「二人だけの秘密の話を、していたんです」
オーフェンさんに謝らないと。
頭を下げてね。
「ごめんなさい。それ以上説明することはできません」
「うっ、うは、そういうことだ、オーフェン。下がりな」
デュオさんの言葉に、オーフェンさんは首を振った。
「……ですがねぇ。デュオさんにお聞きするよりは、ガーネット様にお頼みした方が、聞き出しやすそうなのでねぇ」
それから、オーフェンさんはまた笑った。
「力ずく、でも、聞いてみましょうかねぇ」
オーフェンさんがそう言った瞬間。
風が、ごうって吹いた。




