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蚊です。転生したら人間でした  作者:


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34/35

蚊。

「デュオさん、デュオさん、やめてください、デュオさん」


 私はデュオさんの背中を引っ張った。けど、デュオさんは全然気にしてない。

 デュオさんは今、オーフェンさんの胸元を掴んで、無理やり立たせてる。

 目の前で起きた、初めて見る、人間の行動。

 これは、『乱暴』。

 デュオさん、やめてください、乱暴をしないでください。

 だけど私の思いは伝わらない。私って、無力だ。

 やっぱり私って、虫だ。何も出来ません。


「いいか? お前は俺が守るべき領民だ。だが、その守るってのには領民のおイタを裁くってことも含まれる。お前を裁くことで人草を守る。お前も裁かれることで領民として根性を鍛え直される。分かるな?」

「え、へへぇ、ご高説、ありがとうございますぅ」

「二度とこの女の前に姿を現すな。俺が『またこいつに接触したんじゃねぇか』って疑った時点で、俺はお前を、もう一度、裁く。いいな?」

「これは、理不尽なことでぇ――」


 どさっ、と音がした。その後、たったったって。

 デュオさんのわきの下から覗いてみると、そこには誰も居なかった。


「デュオさん、なんで、あんな、乱暴を」

「別に、大したことじゃねぇ。痛めつけたが尾を引く怪我は何一つさせてねぇし、じゃれあいみてぇなもんだ。それに――」


 デュオさんは私から目線を外した。


「て、てめぇから力ずくで聞き出すって言ってたじゃねぇか。そうはさせねぇ」

「そんな、デュオさん。私、力ずくで何かされても、デュオさんのことは何も言いません」


 だって、きっと、何をされても、潰されたりはしない。死なない。

 だから私は大丈夫なのに。


「うんっ、ちげぇ、別に喋られるのが怖いとかそういうんじゃねぇ! ち、力ずくでってのを、止めたかったんだよ……ってか、分かれよ!」

「デュオさん!」


 思ったより声が出て、デュオさんは「おっ」と身を引いた。


「デュオさん。私は、違うんです。私には身を挺して守る価値はないんです。だから、私なんかの為に、乱暴をしないでください」

「えっ、はぁ……?」


 分かってくれないだろうなあ。

 私の正体は人を真似してるだけの虫だなんて。

 だから、乱暴して守るほどのものじゃないんだって。

 申し訳ないんだって。

 言っても伝わらないだろうし、女神さまとの約束だってあるし。


 だから、こうやってお願いするしかないんだ。

 私はデュオさんの手を取った。


「あっ」

「お願いです。もう、乱暴なことは――」


 匂いが、した。


 デュオさんの手を握る、指の隙間から。


 まさか、まさか、これは。

 この、甘い匂い。

 身体が踊り出しそうな匂いは。


 鉄の匂い、は。


 そっと指を開くと、より強く匂った。


「あー、もみ合ってる最中にどこかで切ったみてぇだな。大した傷じゃねぇ。気にするな……――っ!?」


 ああ。

 血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血。血。血。血。血。血だ。血だ。血だ。血。血。血。血。血。血。血。血です。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血だ。血だ。血だ。

 血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。


「――お前、あっ、えっ、はう……?」


 指を見ると、手に、デュオさんの血がついていた。

 自分の血、なら。だけど、人の血は。

 栄養。血。私の大好きな人間の、大好きな、血。体液。血。血。血。

 16年。16年生きてきて、ようやく、ようやく、それを間近で感じられた。


 この血液は、ちょびっとしかない。

 それを、精一杯堪能する為に、私の体は自然に動く。


 両手を頬に当てる。

 私は、血の匂いに包まれる。


 ああ、なんて、なんて、かぐわしい――。


 デュオさんと目が合った。

 私の顔を、見てる。


 頭が冷えた。

 だめだ。私、今、人間出来てない。


「ごめんなさい、あの、私、なんでもないです。その、危ないこと、しないでください。私、デュオさんに傷付いてほしくありません。血を出すような怪我をするのは、もってのほかです」

「うっ、あっ、わった、善処っする」


 ――冷えた、はずの、頭、なのに。

 口が、勝手に、動く。ことばが、溢れ出る。


「でも、でも。どうしても、そうせざるを得ないのであれば。血を、流さざるを得ないのであれば」


 人間をするなら、こんな事、言っちゃいけないのに。


「その血を、私に、見せてください――」

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