ガーネットはさっそく学生生活につまずいている。
舞踏会は楽しかったなー。勉強楽しくないなー。
なんてベッドにあぐらで座りながら思っている私です。
人差し指と中指で作った四角形をおへそに当てて、呼吸をしながら魔力を集める。
これは、魔力研究所の先生から教えてもらった体操。
本当は魔力の流れだけに集中する方がいいらしいんだけど、実はそんな余裕なかったり。
入学の日から数日経ったけど、学校生活ってすごーく大変。人間するのってやっぱり難しいかも。
家に居た時も勉強はしてたけど、ウエストリアの授業は別格。
歴史、数学、古典文学。地理に芸術外国語。わー。もう頭がパンパンだよ。
隣にノエルさんがいなかったら、ふらーっといなくなってるかも、私。
もっとお友達も増えるかなって思ってたけど、全然そんな余裕もない。授業に必死です。
残念なことはもう一つ。せっかく知り合えたリンベルさんとスイカさん、ゴンベさんに全然会えてない。
クラスが違うなんて誤算だー。もう三人とも私のこと忘れちゃってたりして。
ううう。さみしい。もっと人と話したい。新しい場所に来て、私、どんどん欲張りになってるかも。前はノエルさんとたまにお話出来るだけでも十分だったのにー。
もう我慢できない。私はベッドから立ち上がった。
ノエルさん、また寝ながら本読んでる。
私はノエルさんのベッドに滑り込んで、ノエルさんの背中を抱きしめた。
「ひゃっ!? ち、ちょっと、ガーネット!?」
「ノエルさん、ごめんなさい。ウザい、ですか?」
「い、いや、ウザくないけど、今日も!?」
やった! 許してもらったぞ。遠慮なく私はノエルさんの背中を抱きしめ、髪に顔を埋めた。
「今日も、です」
「ひっ、こ、しょばいって…!」
石鹼。それからノエルさんの匂い。体温がいつもより高いのは、お風呂に入った後だからかな。
あー、落ち着く。もう連日寝る前はこうしてる。これならさみしくないもんね。
「ガ……ガーネット、お前、またこのまま寝るつもりじゃないだろうなっ!」
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど、このまま寝たら夜動けないんだよっ!」
「起こしてもいいんですよ? 私がお邪魔してるんだし」
「いいから、少し手を緩めてっ!」
えー。密着してるのがいいんだけど。でも仕方ない。
力を抜くと、ノエルさんは私の腕の中でぐるりと身体を回転させて、私の目をじろっと見た。
「ガーネット。何か、悩んでるのか?」
「え? 別に、悩んではいませんけど」
「本当に、本当にか? ここまでくっついてくるの、何か、あるだろ」
うーん、なんだろ。ウエストリアでの生活について思ってることを言えばいいのかな。
「別に、悩みってほどじゃないんですけど。そうですねえ。強いて言うとすれば、今まで家で勉強したことが授業では基礎中の基礎でしかなくて、ついていくだけで精一杯で苦痛を感じてることとか、授業の合間も復習に回しているので、周りが見れなくて、知り合いが全く増えないこととかが気になります」
「バカバカバカ立派な悩みじゃないかバカッ! なんでもっと早く言わないんだ!」
ノエルさんが私の胸元に頭をぶつけてくる。私の悩み、立派ですか! 誇らしい。
ノエルさんは、私に頭を当てたまま、言った。
「ガーネット。お前は新しい生活に慣れてないだけだ。すぐ慣れる。それまでは、なんでもボクに言え。ボクが出来ることならなんでもしてやる。だから、辛く思うな。お前は、楽しいことだけ考えてくれ」
優しい。ノエルさん、やっぱり大好き。
まあ辛いとは思ってないんですけどね。
だって、いくら疲れることがあっても、さみしくても。
死なない。潰されない。
どれだけ疲れても、食堂に行けば牛乳が飲める。ここに帰ってくれば、眠れる。
だって私は、蚊です。どんなことがあっても生きるだけで十分なんですよ。
でも、それでも、ノエルさんの気持ちが嬉しい。
私の大好きな人が、私を人間だと思って輪に寄せてくれている。
嬉しいなあ。私を受け入れてくれるなんて、嬉しい。
もっとノエルさんを感じよう。ちょうど今、抱きしめやすい位置に頭がある。
「ち、ちょっと、ガーネット!?」
背中に手を回して。うーん、ノエルさんの熱さを身体の前面で感じる。いい。
「――ほわぁ」
「この姿勢、さっきより動きにく……ちょっと待てガーネット今の寝る前のあくびだろっ!」
来た来た。眠気だ。この喜びだけは環境が変わっても変わらないんだよなぁ。
しかも、家より柔らかいベッド。それから毎日ノエルさん。
授業を受けてる時は、やだやだって思ってるけど、この時間になると、もうなんでもいいやって――。
すやぁ。




