舞踏会の終わり。燦然と輝く双子星。
「ほら、こっちや、こっちや!」
スイカさんの手招きに迎え入れられた時、ようやく、人心地がつきました。
終わってから気づきました。私、凄く緊張していたみたいです。
だって、激しく呼吸をするのがやめられない。
無意識のうちに息を止めていたみたいです。
そんな私にガーネット様が声をかけてくれました。
「大丈夫ですか、リンベルさん。それにこちらの方は」
「はじめまして、自分はスイカいいます。よろしゅう」
「わー、スイカさんですね! 私はガーネット・ファロンと言います。リンベルさんの友達ですか?」
「友達も友達、大親友ですわ」
「えー。大親友! すごい! ではでは、お泊り会も? 私も大親友とたまにするのですが」
「そりゃもーしっぽりと」
「しっぽり!」
息を整えてる間に勝手に会話が進んでる。スイカさん、勝手なこと言って。ガーネット様も信じないでください。
「あの、ガーネット様、スイカさんと私はさっき出会ったばかり」
「リンベルさん。私ともお泊り会しませんか? 私、うるさいのに早く寝るって不評ですけど。夜更かし、出来ないんですよね、私」
「是非しましょう!」
前言撤回。スイカさんありがとうございます!
「ってか、そないなことはどうでもいいんです! ガーネットさん、あそこで何してたんです」
「ダンスです。何故か私だけ、途中で終わっちゃったんですけど」
「それです。あそこであの男に何言うてああなったんですか?」
「ああ」
ガーネット様は口元に指を当てました。
「それは、二人だけの秘密です」
「……へぇ~」
スイカさんののんきな声を聞きながら、ガーネット様のお姿を見ながら、改めて思いました。
ガーネット様は、無邪気で、まるで無垢に見える振る舞いをなさります。
だけど、その裏には底知れないものが眠っている。
私は――いいえ。
今ここで、私たちを取り巻く皆さんも、そう、思ったはずです。
この方は気付いているのでしょうか。自分に集まった注目に。
――ガーネット様はふと、何かを追うように目線を巡らせました。
その視線は、一点にとどまり、そして――。
「ガーネット!」
声が、響きました。
その切実な、何か強く訴えかけるような声は、私の耳に強く届いて。
だけど、その声にひときわ早く反応をしたのは。
「ノエルさーん!」
今までで一番明るい笑顔で、手を振ったのは、ガーネット様。
ガーネット様の目線の先、そこに、一人の女の子が、居ました。
――今日は、衝撃を受けてばかりの日、です。
そう、それは確かに、ノエル様。朝に正門の前で見た、ノエル様。
だけど、その時抱いた地味な印象とは全く違う。
しっとりとした白を基調に、青いシフォンが透き通るドレス。肩を覆う繊細なレース。
上品。だけど、華美な装飾はなされていない。
でも、だからこそ。
強烈な、だけど、ドレスの色彩と調和したワンポイントが、その印象を忘れがたいものに変えている。
ああ、私には分かりました。
それは、彼女の個性を。
銀髪に彩られ、ピンと張った、その、ワンポイントを。
彼女の、耳を、美しく彩るためのドレス。
あのような、美しい異相。きっと、誰も見たことがありません。
あの、自分への"誇り"と"自信"。誰も、持っていません。
私のような、一般市民にも分かります。
それは明確なメッセージ。
それはきっと、彼女の意思表明。
自分は何も臆することなく、決して気後れしない――と。
「リンベルさん。絶対ですよ、お泊まり会!」
「あっ」
ガーネット様は、言葉だけ残して、ノエル様の所に、飛ぶように行ってしまいました。
そして、ノエル様の前で、軽く跳ねたり、手を広げたり。
先ほど大事件を起こしたガーネット様が、嬉しそうに喋りかける様は、大いに人の目を引いています。
私にとってもう既に、二人は遠く。何を喋っているのかも聞こえませ――。
「はぁ!? ゴンベ!?」
ノエル様の声が響きました。
ガーネット様はノエル様に頭を下げています。
何があったのでしょうか。ノエル様の表情。とっても怒っています。
だけどすぐに二人は、また先ほどと同じように話し始めました。
「なー、ええん?」
「……スイカさん? 何が、ですか?」
「いや、知らんけど」
スイカさんは、テーブルの大皿を持ち上げ、自分の皿にお菓子をざらざらと入れながら言いました。
「あんた、ノエル・リンウッドと話す為に頑張ってたんやろ? あのガーネットさんを助けたのもあんたや。今がええ機会やで。行ってきい」
……全く。
この人は私を、いつから見ていたんでしょう。もしかして最初から?
でも。
「もう、いいんです」
私はスイカさんの皿の中から、ひとつ、オレンジを取りました。
「それより私、スイカさんのお話、聞きたいです。北部でのこととか、色々」
オレンジを口に運んだ私を見て、スイカさんは呆気にとられたような顔をしました。
それから、とびきりの笑顔で言ったんです。
「よっしゃ! ほな今日は朝までコースやな!」
「あ、朝までですか? 明日からいきなり授業ですし、そこまでするつもりは……」
「ええやん! 商売人は体力が資本やで!」
「……そうですね。では、一緒に日の出でも見ましょうか」
「よっしゃ、その意気や! とりあえず外行こ。ここうるさいわぁ!」
スイカさんは山盛りの皿を持って、テラスの方に歩いて行ってしまいました。
私もすぐに、そちらに行きます。
だけど、最後にもう一度だけ。
私は、振り向いて、その姿を目に、焼き付けました。
ガーネット様と、ノエル様。二人のお姿を、燦然と輝く双子星を――。




