舞踏会、楽しいな!
初めての舞踏会は現在の所、私の想像を超えて成功中!
なんといっても一番の成功はさっそくお友達が出来たことかな。リンベルさんです。
リンベルさんってやっぱりノエルさんに似てる。急に壊れそうになる所とか。
思わず沢山喋ってしまいそうになるけど、我慢してゆっくり喋る。
私のこと、リンベルさんのこと、この前読んだ物語のこと。ウエストリアのこと。好きなもののこと。
話すことは尽きない。聞くことだって沢山ある。
なんといっても初めて会う人なんだから。
だけど、一つだけ気になる。
リンベルさんは目をきらきらさせた後、はっと佇まいを整えて私を見る。
なんでだろ。と、思ったけど、あった。心当たり。ドレスだ。
やっぱり、変なのかな。でもここはチャンス。
知らない人に聞いたら貴族らしくないけど、お友達ならきっと大丈夫。じゃないとノエルさんにも聞けないもんね。
「そういえば、リンベルさん、ひとつお聞きしたいことが」
「はっ、はい!なんでしょう!」
「私のドレス、どう思いますか?」
全身見てほしいからその場でくるっとターン。
とん。決まった。
「どうですか?」
あれ?リンベルさん、目を丸くして固まってる。
ん?ん?
「あっ…え、ええと、その、わ、私の語彙では、その」
うそ。やっぱり変なんだ。
だけど私の顔を見てリンベルさんは慌てたように言った。
「あ、あの、とにかく、う、美しいですっ…」
「そうですか!」
良かった。やっぱりドレスの着方はこれで正しかったんだ。安心!そうだよね、美しいよね、このドレス。
お母さんとノエルさんが選んでくれたドレスだもん!
その時、私の耳が音を捉えた。
弦がこすれて、震えて出る、羽音みたいな綺麗な音。
その音に音が重なって、まるで涼しい夜の外みたい。
見ると、さっきまで誰も居なかった所に何人も楽器を持った人たちが居る。
あれは、『調律』。そうか、とうとう、ダンスが始まるんだ。
みんなもそれが分かったのか、少し様子が違ってきた。
うーん、いい雰囲気。いいざわめき。これが見たかったんだ。こういうのが好きなんだ、私。
だけど、なんだろう。何か変。
何人も男の人が私を見ている。
さっきまでより強い視線。なんだか様子を伺ってる、みたいな感じ。
なんだかそわそわするな。私って、見られるのはあまり好きじゃないかもです。
「あの」
リンベルさんだ。
「はい、なんでしょう」
「ガーネット様は、誰かと踊られるのですか?」
「踊りませんよ。踊ってもいいのですが。予定は今の所入ってません」
「そ、そうだったのですね。私、誰かお相手が居るか、その、今から、見つけられるのかと…」
リンベルさんはそう言って、私を見ている男の人達にちらと目線を向けた。
……ああ、なるほど!
この方たちは、私と踊りたいのか。
うーん、どうしよう。踊るのって嫌いじゃない。
というか身体を動かすことは全体的に好き。特に肩甲骨周りを動かすこと。
とりあえず、一番近くに居る人を見る。
黒い髪の男の人。こんばんは。
だけど、私が笑いかけると、その人は目を泳がせて、「し、失礼するっ!」と深く礼をして、下がっていってしまった。
踊りたい訳じゃなかったのかな。
次に近くにいた男の人に目を合わせる。だけどこの人は私が見た瞬間に慌てたように振り向いてしまった。
その隣の人も同じ。その隣の人も。私を見ていたはずの人は次々に去っていく。
ちょっと、しょんぼり。
「皆さん、私と踊りたい訳じゃないみたいです。残念です。でも、私には果物がありますし。リンベルさんだっています。あれ、リンベルさんは踊るんでしょうか。だったら私、ここでリンベルさんを見ていますね。それだって絶対楽しいです」
喋りすぎちゃったかな。落ち着いて、私。
「……ガーネット様。私、男の子たちの気持ち、少し分かります」
「気持ち?」
「きっと、近付くだけでも勇気を出していたんです。でも、ガーネット様が微笑まれて、足が竦んだ。踏み込めなくなった。きっと、そうです」
リンベルさん、なんだか自信ありげです。
「そうですか。私と話すのに、勇気なんて、必要ないんですけどね」
「いりますっ!」
そうなんだ! 貴族のみなさんって、結構シャイ? 私なんて取るに足らない存在なんですが。だって蚊ですよ。
でもまあ、ノエルさんから目立たないようにって言われてるし、これはこれで良いのかも。
って、自分を納得させてたら、もう一人、金髪の人が私の方に歩いてきた。
目が合ったから笑いかけてみるよ。
あれ。逃げない。私を見てる訳じゃないのかな。リンベルさんを見てる?
振り返ってリンベルさんを見ると、リンベルさんは目を見開いて小さく首を振った。
ん? 違うの?
もう一度その男の人を見ると、なんとすぐ前にいた。
わあ。この人、すごい。はっきり男性だって分かる匂いがする。
見た目も、なんだろう。こういうのを表現する言葉、あったはず。
私は女神さまの引き出しを探った。あー、そう、それ。
『精悍』。精悍な人だ。
とりあえず、この精悍な人に挨拶しよう。
「御機嫌よう。私はガーネット・ファロンと申します」
「……つまらねぇ会だと思っていたんだが」
精悍な人の手が私の頬に伸びた。
空気がひゅっと鳴る音が背後から聞こえた。
「こんな上玉が居たとはな」
これは、温度だ。男の人の手の平から、体温を感じる。
体温と、匂い。
それは、私の、大好きなもの!
舞踏会に来てよかった! こんないいことがあるんだもんね。
私は精悍な人の手に自分の手を重ねて、さりげに軽く押し付けた。
ああ、きっと、この中には栄養たっぷりの血が流れてる。
昔の私なら喜んで嚙んでたよ。
「暖かい手、ですね」
「……動揺はしません、無礼とも感じません、ってか」
精悍な人は手を引いてしまった。残念。
「ファロン、と言ったな。どこの地方の上級貴族だ?お前みたいな奴、この俺が知らない訳ねぇんだが」
あれ、この人も勘違いしてる。
「お父さまは上級貴族じゃないです。魔力の研究をして、国からお給料を貰っているそうです。いわゆる一般貴族です!」
「嘘つけ。じゃ、お前はどこで場数を踏んだ?」
「場数?」
「その落ち着き。自信。簡単に取り繕えるもんじゃねぇ。何度も社交の場に出てるはずだ。他国からの留学生か?」
なんか勘違いが広がってる!
どう答えるか迷っていると、精悍な人は「ま、どうでもいいか」と言った。
「お前が誰だろうと関係ねぇ。大事なのは、この舞踏会でお前が一番――」
精悍な人は手を出した。
「この俺を引き立てるのにふさわしい花だってことだ」
……ん?
私が一番、花? 花の蜜は好きだけど。どういう事だろ。
「どうした? 踊りは苦手とでも言うんじゃねぇだろうな」
……ああ、そういうこと! 複雑な比喩表現で踊りに誘っていたのですね。
「私、踊るのは大好きです!」
私は精悍な人の手を取った。
とうとうこの時が来た。人々に混じって思い切り身体を動かす時が!
ふふふ、これっていかにも人間っぽい。女神さま、私は今ちゃんと溶け込んでます。
と、その前にリンベルさんに挨拶。
「ではリンベルさん、行ってきま――」
精悍な人にグイグイ引っ張られちゃった。
リンベルさーん。聞こえたかな、挨拶。




