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蚊です。転生したら人間でした  作者:


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20/27

舞踏会、楽しいな!

 初めての舞踏会は現在の所、私の想像を超えて成功中!

 なんといっても一番の成功はさっそくお友達が出来たことかな。リンベルさんです。


 リンベルさんってやっぱりノエルさんに似てる。急に壊れそうになる所とか。

 思わず沢山喋ってしまいそうになるけど、我慢してゆっくり喋る。

 私のこと、リンベルさんのこと、この前読んだ物語のこと。ウエストリアのこと。好きなもののこと。

 話すことは尽きない。聞くことだって沢山ある。

 なんといっても初めて会う人なんだから。


 だけど、一つだけ気になる。

 リンベルさんは目をきらきらさせた後、はっと佇まいを整えて私を見る。

 なんでだろ。と、思ったけど、あった。心当たり。ドレスだ。

 やっぱり、変なのかな。でもここはチャンス。

 知らない人に聞いたら貴族らしくないけど、お友達ならきっと大丈夫。じゃないとノエルさんにも聞けないもんね。


「そういえば、リンベルさん、ひとつお聞きしたいことが」

「はっ、はい!なんでしょう!」

「私のドレス、どう思いますか?」


 全身見てほしいからその場でくるっとターン。

 とん。決まった。


「どうですか?」


 あれ?リンベルさん、目を丸くして固まってる。

 ん?ん?


「あっ…え、ええと、その、わ、私の語彙では、その」


 うそ。やっぱり変なんだ。

 だけど私の顔を見てリンベルさんは慌てたように言った。


「あ、あの、とにかく、う、美しいですっ…」

「そうですか!」


 良かった。やっぱりドレスの着方はこれで正しかったんだ。安心!そうだよね、美しいよね、このドレス。

 お母さんとノエルさんが選んでくれたドレスだもん!


 その時、私の耳が音を捉えた。

 弦がこすれて、震えて出る、羽音みたいな綺麗な音。

 その音に音が重なって、まるで涼しい夜の外みたい。

 見ると、さっきまで誰も居なかった所に何人も楽器を持った人たちが居る。

 あれは、『調律』。そうか、とうとう、ダンスが始まるんだ。


 みんなもそれが分かったのか、少し様子が違ってきた。

 うーん、いい雰囲気。いいざわめき。これが見たかったんだ。こういうのが好きなんだ、私。

 だけど、なんだろう。何か変。

 何人も男の人が私を見ている。

 さっきまでより強い視線。なんだか様子を伺ってる、みたいな感じ。

 なんだかそわそわするな。私って、見られるのはあまり好きじゃないかもです。


「あの」


 リンベルさんだ。


「はい、なんでしょう」

「ガーネット様は、誰かと踊られるのですか?」

「踊りませんよ。踊ってもいいのですが。予定は今の所入ってません」

「そ、そうだったのですね。私、誰かお相手が居るか、その、今から、見つけられるのかと…」


 リンベルさんはそう言って、私を見ている男の人達にちらと目線を向けた。

 ……ああ、なるほど!

 この方たちは、私と踊りたいのか。

 うーん、どうしよう。踊るのって嫌いじゃない。

 というか身体を動かすことは全体的に好き。特に肩甲骨周りを動かすこと。


 とりあえず、一番近くに居る人を見る。

 黒い髪の男の人。こんばんは。

 だけど、私が笑いかけると、その人は目を泳がせて、「し、失礼するっ!」と深く礼をして、下がっていってしまった。

 踊りたい訳じゃなかったのかな。

 次に近くにいた男の人に目を合わせる。だけどこの人は私が見た瞬間に慌てたように振り向いてしまった。


 その隣の人も同じ。その隣の人も。私を見ていたはずの人は次々に去っていく。

 ちょっと、しょんぼり。


「皆さん、私と踊りたい訳じゃないみたいです。残念です。でも、私には果物がありますし。リンベルさんだっています。あれ、リンベルさんは踊るんでしょうか。だったら私、ここでリンベルさんを見ていますね。それだって絶対楽しいです」


 喋りすぎちゃったかな。落ち着いて、私。


「……ガーネット様。私、男の子たちの気持ち、少し分かります」

「気持ち?」

「きっと、近付くだけでも勇気を出していたんです。でも、ガーネット様が微笑まれて、足が竦んだ。踏み込めなくなった。きっと、そうです」


 リンベルさん、なんだか自信ありげです。


「そうですか。私と話すのに、勇気なんて、必要ないんですけどね」

「いりますっ!」


 そうなんだ! 貴族のみなさんって、結構シャイ? 私なんて取るに足らない存在なんですが。だって蚊ですよ。

 でもまあ、ノエルさんから目立たないようにって言われてるし、これはこれで良いのかも。


 って、自分を納得させてたら、もう一人、金髪の人が私の方に歩いてきた。

 目が合ったから笑いかけてみるよ。

 あれ。逃げない。私を見てる訳じゃないのかな。リンベルさんを見てる?

 振り返ってリンベルさんを見ると、リンベルさんは目を見開いて小さく首を振った。

 ん? 違うの?


 もう一度その男の人を見ると、なんとすぐ前にいた。

 わあ。この人、すごい。はっきり男性だって分かる匂いがする。

 見た目も、なんだろう。こういうのを表現する言葉、あったはず。


 私は女神さまの引き出しを探った。あー、そう、それ。

『精悍』。精悍な人だ。

 とりあえず、この精悍な人に挨拶しよう。


「御機嫌よう。私はガーネット・ファロンと申します」

「……つまらねぇ会だと思っていたんだが」


 精悍な人の手が私の頬に伸びた。

 空気がひゅっと鳴る音が背後から聞こえた。


「こんな上玉が居たとはな」


 これは、温度だ。男の人の手の平から、体温を感じる。

 体温と、匂い。

 それは、私の、大好きなもの!

 舞踏会に来てよかった! こんないいことがあるんだもんね。


 私は精悍な人の手に自分の手を重ねて、さりげに軽く押し付けた。

 ああ、きっと、この中には栄養たっぷりの血が流れてる。

 昔の私なら喜んで嚙んでたよ。


「暖かい手、ですね」

「……動揺はしません、無礼とも感じません、ってか」


 精悍な人は手を引いてしまった。残念。


「ファロン、と言ったな。どこの地方の上級貴族だ?お前みたいな奴、この俺が知らない訳ねぇんだが」


 あれ、この人も勘違いしてる。


「お父さまは上級貴族じゃないです。魔力の研究をして、国からお給料を貰っているそうです。いわゆる一般貴族です!」

「嘘つけ。じゃ、お前はどこで場数を踏んだ?」

「場数?」

「その落ち着き。自信。簡単に取り繕えるもんじゃねぇ。何度も社交の場に出てるはずだ。他国からの留学生か?」


 なんか勘違いが広がってる!

 どう答えるか迷っていると、精悍な人は「ま、どうでもいいか」と言った。


「お前が誰だろうと関係ねぇ。大事なのは、この舞踏会でお前が一番――」


 精悍な人は手を出した。


「この俺を引き立てるのにふさわしい花だってことだ」


 ……ん?

 私が一番、花? 花の蜜は好きだけど。どういう事だろ。


「どうした? 踊りは苦手とでも言うんじゃねぇだろうな」


 ……ああ、そういうこと! 複雑な比喩表現で踊りに誘っていたのですね。


「私、踊るのは大好きです!」


 私は精悍な人の手を取った。

 とうとうこの時が来た。人々に混じって思い切り身体を動かす時が!

 ふふふ、これっていかにも人間っぽい。女神さま、私は今ちゃんと溶け込んでます。

 と、その前にリンベルさんに挨拶。


「ではリンベルさん、行ってきま――」


 精悍な人にグイグイ引っ張られちゃった。

 リンベルさーん。聞こえたかな、挨拶。

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