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蚊です。転生したら人間でした  作者:


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19/31

ノエル様じゃないのですか!?

 衝撃。衝撃です。


 私は、最初から、リンウッド家の馬車を見つけたと思った時から、勘違いをしていたのです。


「私はガーネット・ファロンと申します。よろしくお願いいたします、リンベルさん」


 胃が縮む。舌がもつれる。


「も、も、も、申しまけ」

「うふふ、人違いされたの、初めてです。面白い経験です。これも学び、ですね」


 ノエル様……もとい、ガーネット様はそう言ってクスクスと笑いました。

 ああ、ああ、許していただいた。それに、こんなに面白そうにして。

 安堵。と同時に沸き上がる恐怖。まるで、頭すれすれを刃がかすめたかのような。

 もしガーネット様が温厚な方じゃなければ――。


「リンベルさん、大丈夫ですか? 汗を、かかれているようですが」


 ガーネット様は少しかがんで、心底、心配そうな顔で私を見た。


「い、いえ、大丈夫ですっ、はい」


 ダメです。気を取り直さないと。


「ガーネット様。改めて、謝らせてください。とても失礼なことを言ってしまいました」

「失礼?」


 ガーネット様は首を傾げる。ああ、なんていい人。良い人すぎます。

 きっと何も分かっていないような素振りで、私に『気にしないで』と伝えてらっしゃるのですね。

 その優しさに甘えたくなる。でも、だからこそ、しっかり謝らないと。


「お名前を間違えてしまったことですっ……」


 ガーネット様は合点が言ったように手を合わせました。


「ああ、それ! そんなの、些細なことです。謝らなくてもいいですよ。リンベルさんは本当に良い人です。それから、うふふ、少し心配性です。少しノエルさんに似ている気がします」


 ああ、良い人なんて言葉、私には勿体なさすぎます……。

 ノエルさん?


 二度目の衝撃が走りました。


 私が見聞きした断片が、遅ればせながら、一本に繋がったのです。

 勘違いじゃない。私が見つけたのはやはりリンウッド家の馬車。

 ガーネット様は、ノエル様のお知り合い。


 ガーネット様"が"同乗していたのです。ノエル様と!


 と、いうことは。

 パズルのピースがスライドして、隣にハマりました。


 あの、鋭い表情の、少女が。

 ――少し、他の人とは違う彼女が、ノエル・リンウッド?


 頭すれすれをかすめた刃が、また戻ってきて髪の毛を何本か巻き込んだ。そんな気分でした。


「そうだ、リンベルさん。喉は乾いていませんか? この果汁、とても美味しいです! 私のおすすめです。ぶどうです!」

「あ、ありがとう、ございます…」


 私はガーネット様から渡されたグラスを思い切って傾けました。カラカラの喉を湿らせるために。

 落ち着きなさい、リンベル・アストレー。

 自分に失望するのは、独りの時でいい。

 これ以上の失態は犯せない。


 今はガーネット様が目の前にいるんだから。

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