↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蚊です。転生したら人間でした  作者: 若


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/73

ガーネット、お母さんに出会う。

 それからの私の意識は、浮かんだり沈んだり。

 女神さまは知識を自分のものにしておけって言ったけど、そんなこと出来っこない。

 お腹が空いた。気持ちわるい。気持ちいい。眠たい。毎日がそのサイクルで回ってる。

 ことさらに私を悩ませたのが、時折起きる、どうしようもない気持ち。

 血が吸いたい、吸わなきゃ。それと同じ渇望のようなものが、身体の奥底から沸き上がり――。


 おぎゃああああ。


 って声になる。

 なんでだろう?こんな声を出すなんて。そもそも声という物すら私には無縁だったのに、こんなに大きな音が出る。


 だけどその答えはすぐに分かった。

 私が声を出す度に、女の人がやってくる。女神さまとは違う、ゆるんだ目元。


 私にはわかる。この人は優しい人だ。きっと蚊が飛んできても潰したりしないぞ。

 女の人は私の身体をひとしきり触って確かめたら、「じゃ、ご飯かな~…」と呟いた。

 やった、ご飯だ。人間になってから、この時間が一番楽しい。蚊の時からかな。

 女の人はふー、はー、と息をして、私にそれを含ませてくれた。

 うーん、これこれ。どこか血に似てるこの味が私の舌にぴったり合うんだ。


 私がそれをちうちう吸っていると、女の人は「くっ…うう…」と声を上げた。

 顔を見ると、眉間にしわが寄ってる。


 なんで?

 私は思わず口を離した。なんでそんな女神さまみたいな顔を。

 女の人は私が口を離したのに気づくと、「大丈夫よ~。全然、かゆくないですからね~」と言ってもう一度それを含ませてくれた。

 うーん、じゃあお言葉に甘えて。ちうちう。


 ……かゆい?


 それから私は女の人にぎゅっと抱かれて、けっぷって息の塊を吐いてから、もう一度寝かされた。

 帰っていく女の人は胸を手でかいていた。

 ふわふわのおくるみの中は暖かくさわさわした感触が気持ちいい。私はその気持ちよさがもたらす眠気に耐えながら、考えた。

 今まで何度もそれを吸ってきたけど、女の人の様子を確認したのは初めてだった。

 あんな顔をしてたとは。


 私には気になることがあった。

 蚊について。


 もちろん私はそんなの知ってるつもりだった。

 泳ぐ。食べる。固くなる。飛ぶ。吸う。卵を産む。こんな感じ!

 私は卵を産まずに死んだけどね。

 だけど、さっきの女の人の様子を見て、何か頭の中で引っかかることがあった。


 私は人間目線での蚊についての知識を、女神さまが作った引き出しから取り出す。

 蚊。刺されると、かゆい。血を吸うときに入れる唾液に、血を固まりにくくする成分と、若干の麻酔作用がある。その唾液が、かゆみを引き起こす。

 唾液。かゆみ。


 蚊に刺されると、かゆくなる。そして、女の人も、かゆくなった。

 私は、蚊から人間に転生した存在。

 だとすれば、女の人がかゆくなった理由で考えられることは。

 私のよだれは、まだ蚊の性質を残してる。

 だから、私が舐めた所はかゆくなる。


 それでも女の人が私にそれを含ませる理由も、私にはわかる。

 私も、自分の卵の為なら、何だってするんだから。


 私は、もう一つの単語を頭から引き出して、頭の中で言った。

 ……お母さん。

 これからはそう、呼ばせてもらいますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。