ひとりで来ちゃった、舞踏会!
やって来ました、舞踏会。
まだ入ったばかりだけど、既に私の心は飛び回ってる。
ああ、もう、人がこんなにいる。みんなの匂いと体温を感じる。これだけで楽しい。
本当ならば、誰でもいいから話しかけたい。身体のうずうずが止まらない。
だけど、私はちゃんと覚えてる。貴族らしく、落ち着いて。
いっぱい喋って変に思われたら困るもんね。
ただでさえ、なんか、さっきからみんなに見られてるし。
やっぱり変だったのかな、ドレス。もしかして前後ろ逆だった?
誰かに聞いて……。
それって貴族らしくないかも。
うーん、じゃあ端に寄ってよう。ドレスが変でも、あまり目立たないように。
どこに行こうか考えていると、目に入ったものがあった。
広間の端のテーブル。そこには、食べ物と飲み物が並んでる。
クッキー、小さなケーキ、なんかお菓子。それから……果物!
ふふふ、私、果物も好き。昔よくちうちうしてたからね。
慌てずゆっくり、テーブルの方に向かう。
私の動きに合わせて、目線が動く。進路にいる人が後ずさる。
大丈夫ですよー。私は果物を食べておきますからおかまいなく。
無事にテーブルのそばに着いた私は、まず皿に盛られているいちごを一つ取って食べた。甘い!
続けてカットされたオレンジを。甘酸っぱい!
そうだ、飲み物も。グラスを一つ取り、香りを嗅いでみる。おっ、ぶどうの果汁だ。ちうちう。
うーん、いい。人の味覚って、複雑で面白いよね。生まれ変わって良かったことの一つかも。
とにかく、これからの予定は決まった。
ここで皆さんの姿を見ながら果物を食べ、果汁を飲んで、ノエルさんを待つ。これだけ!
舞踏会、早くも攻略。私もなかなかやるもんだ。
私は改めて会場を見る。ホールの中心には誰も居ない。あそこで踊るのかな。
みんな、小さなグループになって話したり、離れたり、合流したり。
少しこわばった顔、楽しそうな顔。色々だあ。人間模様だね。
「あ…あのっ」
椅子に座ってる人もいるな。私も立ち疲れたら行ってみよう。
「すみません!」
「んっ?」
さっきから聞こえる声、私に向けられてる?
振り向くと、人が居た。わあ、女の人だ。
女の人は少し慌てた感じ。だけど、目はきらきらしてる。
「は、初めまして、私、リンベル・アストレーと言います。リンウッド公の領地グレモラの商家の者です」
なんと、どこに住んでるかまで。私もそれくらい丁寧に言わなきゃ。
「初めまして!わざわざご丁寧にありがとうございます。私はガ……」
「あ、あ、あの、私、実は、その、入学式の前から、お顔を拝見しておりましてっ」
この人どんどん喋る人だ。気が合いそう!
だけど、リンベルさんは私の顔を見て目を伏せてしまった。
……もしかして、顔に出てたのかな。
「リンベルさん。申し訳ございません。笑った訳じゃないです」
ここで一度切る。喋りすぎにならないコツ!私が考えました。
「ただ思っただけです。私と共通点が多そうな方だって。仲良くなれそうな方だって!」
リンベルさんは顔を上げた。さっきよりも目をキラキラさせて。
「あ、ありがとう、ございますっ……!う、美しいだけじゃなくて、お優しいのですね――」
えー、褒めすぎですよ。たかが虫です。
「――ノエル様は……!」
「え?人違いですよ」




