三人の公爵子女
「公爵子女?」
「ああ。ボクの立場じゃ、集められる情報にも限界があったけど。結構くせ者みたいなんだ、そいつら。だから、注意しなきゃいけない」
えー、くせ者!
じゃあ、しっかり注意しないとね。
ちゃんと覚えなきゃ。
私が背筋を伸ばすと、ノエルさんは頷いた。
「まずは、リミエール家の姉弟。双子じゃないけど同時に私たちと一緒に入学してきたはずだ。ガーネット、そんな二人を見たような心当たりある?」
「心当たり……」
分からない。いっぱい人が居るけど、今の所私にとっては「沢山の人」って感じで、一人一人はあまり見れてない。
見てても分からないかも。私、そういうの苦手です。
「弟のルカは温厚な人柄、らしい。でも姉のエリカの方は、どうも恐れられてる。気位が高くて、機嫌を損ねたら必ず弱みを握られて復讐される、とかなんとか」
「機嫌を損ねただけですか?」
怖い。私とは絶対相性悪いよ。うっかり周りを飛び回らないようにしなきゃね。
「相手がどういう人か把握するまではリミエールの二人には接触しないこと。つまり、男女二人組に舞踏会で出会ってもなるべく近寄らず、もし接点を持ってしまったら、礼節を払いつつ、静かに去ること」
「は、はい! 気を付けます! しっかり嗅ぎ分けますので!」
「深く考えすぎなくていい。積極的に話しかけに行かなきゃ大丈夫だ。ガーネットには少し窮屈かもしれないけど」
とは言っても、男の人か、女の人か。もし匂いでも分からなかったらどうしよう。
「問題は、もう一人。ヴァルナート家のデュオって男。こいつが厄介なんだ」
「や、厄介ですか?」
ノエルさんは少し宙に視線を漂わせた後、立ち上がってつかつかと私の方に来た。
そして、ノエルさんに肩を掴まれた!
「いいか、ガーネット。デュオ・ヴァルナートには絶対に近付くな! 興味を持つのもダメだっ、デュオが居ると分かったら一切近付かないようにしろ!」
視界ががっくんがっくん揺れる。
「は、はい、わかりまひた、ノエルひゃんっ」
私がなんとか答えると、ノエルさんは揺さぶるのをやめてくれた。
「クラクラしますぅ」
「ご、ごめんっ、ガーネット。つい熱が入って。でも、ガーネットのためだから、分かってっ!」
ノエルさんは私の手を握った。
手はほんのりと震えて、眉をぎゅっとひそめてる。
「ノエルさん、そんな不安そうな顔しないでください」
「ガーネット、初めての場所で心配しすぎるってことは…」
「いえ、そうじゃありません」
私はノエルさんの手を握り返した。
「私は、ノエルさんにどんなことをされても、絶対に嫌じゃありませんから。揺さぶったくらいで気にしないでください」
むしろ私が嫌われないかどうかが気になる。というかそれしか気にしてない。そんな私がノエルさんを嫌う訳がないんだよね。
でもぺちんって潰されたらさすがに嫌かも。
あ、手が熱い。
「そ、そういう所が、心配、にっ」
「の、ノエルさん?大丈夫ですか?」
ノエルさんは弾かれるように立ち上がった。
「ボク、ちょっとだけ頭冷やしてくるっ!」
そして、部屋の外に出てしまった。
残される私。
どういうこと?全然わからない。
舞踏会の時、迫る。私もドレスに身を包む。
ノエルさん、あれから帰ってこない。何があったんだろ。
肩が出ていてすーすーする。こんな服装…私がまだ蚊だったら、即噛むね。
鏡を見ながら、髪の毛を整える。分け目を右?左?どっちでもいいや。髪は結わえる?
しばらく試してみたけどお母さんがやるようにはうまく出来ない。やっぱり真っ直ぐのままで行こう。
ついでにくしでこしこし。髪をいじるの、好きなんだよね。触覚のお掃除みたいで。
最後にドレスがちゃんと着れてるか確認。うん、多分大丈夫。
ノエルさんがいれば、ちゃんと出来てるか確認してもらえたんだけど、今は居ないから仕方ない。
どこ行っちゃったんだろ。会いたいな。
とか思っていると、寮の扉の向こうがなんだか騒がしくなってきた。
小さなざわめき、足音、時々笑い声。
きっと、舞踏会に向かってるんだ。
どうしよう。ノエルさんを待ってから出るか、それとも、ホールの方に向かうか。
私は少し考えた。うんきっと大丈夫。
振舞いに気を付けろとは言われたけれど、待てとは言われていない。
ならばここは、行けだよね!




