041 スカラベとつながった世界と下準備 その6
アバターを増やすのは簡単でも、消すのは存外に難しい。なぜか。自分がないということはどういうことか?自我がないなら、他者の言いなりという表現で表すことができる。自分がない、これは自分を勘定に入れないことの婉曲表現である。では、アバターがないとは?それはすなわちこのゲームに参加していないことになる。基本的にキャラクターを作成し、それをこのゲームにおける自らのアバターとしてこのゲームに参加するのだから。では、アバターを消すとは?通常、それはこのゲームを引退し、キャラクターを削除するということだ。では、このゲームに参加しながらアバターを消すとは?
隠れるということを世界と一体化すると表現する人がいる。なぜか。他者の注意すべき対象として自分が存在しないからである。たとえそこに『隠れた人』がいて、そこにたくさん人がいるなら、それは傍観者効果として結論つけられる。では、そこに少ない人しかいなかったら?誰もが認識しない、これを風景や世界に溶け込むということができる。そして、それはすなわち世界との一体化と同じような意味あいである。では、なにもない世界と一体化するとは?自分が無になるということである。
つまるところ、このゲームにおいて、隠れることの一形態として、アバターを消すという動作が存在しうるのである。スキルや魔法を使ったら、強引にアバターが出現してしまう。ここがポイントだ。例えば、アバターから離れてものの上にたっても、アバターは出現しない。部屋があって、調理器具があって、そして食材があるならば、食材を包丁を使って勝手に調理して食べても、スキルや魔法を使わなければ、包丁に指紋は残らない。ポルターガイストや、座敷わらしの仕業といった言葉で片付けられる。
ではどうするか?何も無い空間に一体化する感覚をつかむ必要がある。
「虚無のなんちゃらにアバターが勝手に漂ってしまうとか言ってたよな、あさりうまうま。連れていってもらうことは可能か?」
「虚無の海に一緒に漂いたいだって?」
「「すべてのアバターを消す」、それを習得するためにはそれが手っ取り早い気がする。」
「スカラベくん、確認だよ、物言わぬ置物になってしまってもいいんだね?」
「「ばっかるこーんに勝てるようにする。」とかなんか言ってたけど、アバターを消せるからあさりうまうまはばっかるこーんに勝てるのかは知らんが、強くなりたいからこうするんだ。もちろん、取り返しのつかないことになったら自己責任だ。そのぐらいはわかっている。」
「なんか舐められてる気がするけど、それならいいや。いまから僕はアバターへの一切の制御を放棄する。手を繋いで。」
「わかった。」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」
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そこは本当に何も無いところだった。手を繋いでいるあさりうまうまの姿が見えない。手以外なにも感じ取れない。魔力感覚では、あさりうまうまの姿がかなりぼやけて見える。目は何もうつさない。みみは何も聞こえない。肌は手を除きなにも感じない。無の恐怖である。
急に手を離された。慣性が強く、どこまでもどこまでも進んでいってしまう。魔力感覚は、あさりうまうまの反応が消えたことを教えてくれた。
自分の魔力反応を観察することとは、なんなんであろうか。魔力消費を気にせずに、自らを強く見ようとする。ずっと、それは変わり続けていることがわかった。
変わる前を見る。いつまでも変わらないように見る。だんだん変化がゆっくりに見えてくる。最後は、もう、全く変化しないように感じられた。
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それは突然訪れた。魔力感覚が、プツリと消えたのだ。魔力切れ、初めて感じる現象だ。対話AIの説明によれば、ステータスにはあくまで「使える魔力」しか書かれていない。もし、それをはるかに超える魔力を自分だけで、補助具もなくあつかったらどうなるか。セーフティーロックを解除してしまったのだろう。時空を掴むこともできないし、もちろん魔力感覚を使うこともできない。一向に、魔力が回復する気配が見えない。ああ、なにもできなくなった。
「見る」ことはできなくても、時間をゆっくりと眺めることはできるはずだ。先程の感覚を思い出してやってみる。先程までは魔力感覚という補助輪がついていたが、それがなくても、できる。さぁ、意識を世界に向けよう。自分ではなく、世界を見よう。何も無いということを、観測しよう。
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体を動かす。そのことに慣性を感じなくなった。そして、他にアバターはない。だが、慣性を感じないということは、ついにアバターを消すことに成功したということだ。
「.......」
声が、おかしい。異様に伸びて感じられる。
アバターをすべて消すことに成功しましたが、別の問題が生じました。自分の声がまともにきこえなくなったのです。




