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038 スカラベとつながった世界と下準備 その3

ほのぼの回です。急に踊るよ

 目が覚めると、私は「崩れた世界」の神殿で、立ったまま寝ていたようであった。目がいつもよりも冴えているように感じる。より遠くがはっきりとわかり、より細かく見ることができる。それ以外の感覚、魔力感覚も、今までより鮮やかに世界を認識しているようだった。何千何万という世界が重なって存在しており、断面の一つとしてこの神殿が認識されていることなども伝わってきた。意識を自分のアバターから離れさせ、神殿を探索することにした。幽体離脱しているような、といえばわかりやすいだろうか。立ったまま停止したアバターから離れ、神殿を進むと、祭壇があった。そして、アナウンスが遠くから流れた。


 「N4W4U2A1ー魂の神殿一階に到達しました。」


 魂の神殿はN4W4U2A1、崩れた世界はN4W4U2L2である。この二つは全然違うところらしい。崩れた世界は一歩進むごとに景色が変わる、つまり様々なマップの断面の集合なのに対し、ここは少し体を動かしても同じマップである。あちらではスキルや魔法が使えないのに対し、こちらではそんな感じはしない。上の空間を縮めながら、インパクトを一つ足裏に起動する。瞬間、アバターがこちらに来た。そして、4m垂直飛びする。天井はもっともっと上であるようだった。なお鏡は見えなくなってしまった。アバターをおいて一歩進み、サンプルスフィアを発動する。すると、アバターが魂の位置に転移する。意識をアバターからあ大きく離し、アバターの左右に移動させる。両方でサンプルスフィアを使うと、アバターが二つになった。せっかくだし、組体操をやってみる。サボテン、成功。五つに増やして扇、なかなか難しい。いろいろ遊んでみることで、アバターを増やしたときの使い方が、わかってきた。太陽つながりでストーンサークルになってみる。なにも起きない。当然だ。なにもしていないのだから。百人になって、祭壇の周りを囲んでみる。


 「マイムマイムマイム、マイム......」x100


 自分と自分で手をつなぎながら、オクラホマミキサーを踊り、オクラホマミキサーを歌う。キャンプファイヤーでやるあれである。だんだん速くなってゆく、だんだん楽しくなってゆく。どんどんどんどん速くなる。気づかないうちに音速をこえ、轟音が鳴り響くが、気にせず踊り続ける。体が踊るのに慣れてゆく。青い光が神殿を包み込むが、気にせず踊り続ける。なんか自分とは違うのも来ているが、一緒に踊っているので、気にせず踊り続ける。なんて楽しいんだなんて楽しいいんだなんて楽しいいいんだ。轟音と青い閃光が神殿を覆うなか、誰もが楽しそうに祭壇を中心にオクラホマミキサーを歌い、踊り続ける。歌と踊りが最高潮に達すると、黄色い光が祭壇からでてきた。そして、それも増えて、歌と踊りに加わった。誰も時間なんぞ気にしない。みんな楽しいんだから。そう、楽しいから踊るのだ。楽しいから歌うのだ。正気なんて誰も求めてはいやしない。歌と踊りの狂気に飲まれて、ほらみんなも踊ろう。人数が少ないなあ、よしアバターを増やそう。追加で150人、新しい輪をつくろう。


 「マイムマイムマイム、マイム......」x500


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 いつまでも、いつまでも、歌い続けよう。いつまでも、いつまでも、踊り続けよう。より速く、よりダイナミックに、より大声で、より楽しく、永遠に、永遠に。この楽しい狂気にのまれよう。これほど楽しいひとときが、いままであっただろうか?さあ、歌おう。さあ、踊ろう。無粋なアナウンスが、終焉を告げた。


 「エモーショナルペナルティが発生しました。強制ログアウトを実行します。」


 250のアバターが、一斉に消えてゆく。ああ、まだ踊り足りないのに。ああ、まだ歌い足りないのに。


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 現実に肉体が戻ってゆく。もう朝の五時である。十二日も、あそこで歌い、踊り続けていたらしい。肉体が一つしかないことに不満を覚える。自分の肉体性能に不満を覚える。体に、枷がはめられているような、感覚に陥る。


エモーショナルペナルティ「楽しそうだったので閾値を三倍にしました。だんだん感情のボルテージの上がり幅が小さくなってゆくのが見てて面白かったです。勝因は、人数を増やしてしまったことですね。100人同時操作に飽き足らず、250人同時操作で他の人とも輪をつくっていたせいで、喜びと楽しみの感情が抑えきれなかったんですね。」

運営「面白そうだったので許可。十二日間も狂気の中踊り続けるとか、羨ましいよね。うちのプログラマーに見せたら、血涙流して、入りたがっていたよ。」

プログラマー「有給使ってキャンプファイアーしたくなったのでギルティ。あとエモペナくん、ちょっとこっちに来なさい。安全率を何だと思っているんだ。危うくプレイヤーが完全にゲームの中にとらわれるところだったんだぞ。セルフデスゲームとか、こっちが願い下げだっつの。魂の重ね合わせは仕様、プレイヤーの電霊化は違法。あ、このゲームは発狂要素はたくさんありますが、絶対にデスゲーム化はさせないので安全ですよ。」

運営「アイツは?」

プログラマー「想定内。アイツはログアウト一年以上していないが、いつでもログアウトできる状態にある。電霊ではない。アバターに適応しすぎた人間の好例。」

エモーショナルペナルティ「ほぼ電霊ですよね。アイツの閾値は半分まで下げているのに、全く反応しないんだから。アイツに感情ってあるのかな?」

運営「アイツの情動は、他の人間の情動とは違うとこで発生してると捉えたほうがいいと思うよ。」

プログラマー「初めてログインしたとき、アイツはどんな感じだった?」

エモーショナルペナルティ「はじめは他のプレイヤーと同じでしたよ。データの中でだんだん情動がなくなっていくのが怖かった。はじめは四分の三くらいの情動でした。いまは信じられないほど低いのに。」

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