032 スカラベと滅亡鯖の恐怖 その10
「この盾の無限落下、床に落ちてからは全然速度変わらないぞ。」
最初に落下した職員が戻って来て言った。
「溶岩の中を落下しているときに、なんか飛沫が飛んできて、アチチアチチとなって強制ログアウト食らった。」
「それは良いことを聞いた。後でチキンレースに使おう。スカラベ、盾の量産よろしく頼むぞ。」
「なんか別の目的になってないか?」
「勿論検証にも使うさ。今度は俺が落下するから、スキルかなんかで加速してくれや。」
そう言った職員が盾の上に座ると、別の二人の職員が両端を持ち、台の上に乗っかった。手が離されると同時に、インパクトを一億発ほど、盾の上に乗った職員の上で起動した。恐ろしい速さで職員の乗った盾が落下してゆくのが見えた。
十分ほど佇んでいると、突然巨大なラグが発生した。そしてゲーム側のアナウンスが流れた。
「緊急事態です。緊急事態です。第一サーバーで原因不明のトラブルが発生しました。今、あらゆるアイテムの値がおかしくなってしまっています。運営はこれを異常と認定し、これに伴い緊急メンテナンスを実施します。第一サーバーにいるプレイヤーは、あと一時間以内にログアウトもしくは別サーバーに移動してください。そうしないと、最悪プレイヤーのデータが破損するおそれがあります。第一サーバー検証拠点ハイルの地下から、致命的なバグが発生しました。もし、ログアウトができない場合、「ゲームマスターコール」と念じてください。安全なログアウトを行うための人員がそちらに向かいます。緊急メンテナンスは一週間以上続く場合がございます。ご理解とご協力をよろしくお願いします。繰り返します...」
それを聞いて先ほど盾の片側の端を掴んでいた職員がいった。
「検証やってこの方、緊急メンテナンスなんて見たことねぇや。今まで、こんなことはあったか?」
「ない。ようスカラベ、大地の破壊者でなくて世界の破壊者に格上げだなこりゃ。」
「こんな格上げは嫌だ。」
「さて、誰が残る?」
「この期に及んでまだ検証する気か?」
「もちろんだ。残るやつは5分事に二人づつログアウトするように。最後まで残るなよ。」
「私は?」
「スカラベ、貴様は鯖を戻れ。どうせこの鯖には杭を打っていないだろうから、ここに打ってから鯖を戻れ。杭が破綻していなければ何の問題もないはずだ。破綻していたら、戻れずに永遠に無をさまよい続けるだろうが、ゲームマスターコールでなんとかなるだろう。杭システムは、どの鯖でも機能するはずだ。」
「了解した。」
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私はすぐに杭を打ち込むと、5鯖の神殿の祭具作成室の杭に戻った。が、様子がおかしい。杭から出られなくなっていた。冒険者ギルドの杭に移動しても、出られない。死と龍の山脈の杭も、出られない。
「ゲームマスターコール」
「何事ですか?」
「杭から出られない。杭同士の移動はできるが、杭に閉じ込められた。1鯖に杭を打ち込んで、戻ろうとしたら、杭に閉じ込められた。」
「1鯖のどこからですか?」
「ハイル検証拠点の中だ。」
「おそらく、データが破損してしまったようですね。杭システムの識別符号を発する部分が、壊れてしまっています。残念ですが緊急メンテナンスが終わるまで杭システムの利用は諦めてください。」
「ならログアウトさせてくれ。虚無の海を漂うのはごめんだ。」
「いえ、杭システムをオフにすると念じると、杭の外に出られますよ。緊急メンテナンスが終わるまで、杭をセーブポイントや、ポータルとして使えなくなりますが。それとログアウトと言えば、ログアウトできます。」
「教えてくれ、なんでデータが破損した?」
「プレイログを調べます...あなたが作った盾が原因でした。あれは正常なアイテムですが、どっかのバカがマップの下のメモリに重要なデータを管理する領域を作ったせいです。通常ならたどり着くことのないようになってはいたらしいですが、あなたが加速した結果フラッシュレートの隙間に落ちてしまったようです。プレイヤーが一人、あなたの作った盾と一緒に猛烈な勢いで1鯖のデータを壊し続けています。安心してください。他の盾とプレイヤーはデータ管理領域に入り込んでいませんよ。そしてあなたに全く責任はありません。明らかにこちらの落ち度ですから。」
「1鯖のプレイヤーが使う痕跡再現とプレイログの探査って、似てるな。」
「あれは我々運営がプレイログ探査に使うコードとよく似たコードを、魔法として実行するものですから。偶然見つけたコードを弄くって変な魔法として普及させたようですね。我々としては、プレイヤーたちの創造性に驚かされるばかりです。あの魔法は、我々にとって何の支障ももたらしませんから。」
「1e-750秒以下で、40000kmを進んだとき、プレイログは探査できるのか?」
「不可能です。それはこのゲームのフラッシュレートでは性格な速度を記録することはできません。技術上の問題です。ゲームとしてはアイテムやマップを貫通できる速度になってしまっています。あえて名前をつけるのならば、貫通速度というべきものです。」
「痕跡再現という魔法は違うのか?」
「あれは我々は使わないコードです。ロールバックコマンドの一種ですね。我々運営は使う必要などないし、今後使う予定もありません。もしかして物が増殖するかもしれませんが、それは正常なゲームの動作です。」
「非存在性実体も、ゲームの仕様なんだな?」
「仕様ですし、プレイヤーがなっても構いません。ステータスは弄るものだ、アバターは弄るものだ、それが正しいというのが運営の考えです。もちろん外部ツールを用いたものは許しませんが、そうでなければ無敵状態になってもそれは仕様です。いいですか、運営が気をつけていることは外部ツールとプログラムミスです。それ以外はなんでも許可します。譲渡できる非刻印魔法とか、想定外ですが、ありです。停止しないスキルや魔法は使うなとか補助のAIがいっていたかもしれませんが、ゲーム内で、何らかの手段で停止できるスキルや魔法を使うことになんの問題もありません。最悪真空崩壊に飲み込ませて停止できるなら、使用を許可するといった類のもので、通常プレイヤーが気にする必要はありません。」
「ではこのシステム魔法入門ー星の巻は?」
「そのアイテムの仕様です。そのアイテムはあなたが無視した時点で存在が消えますし、再び認識した時点で再びこの世に現れます。そして、目の前にあらわれるその本は、本体の情報が消えない限り消えません。そして本体は、全てのサーバーにバックアップがあるので、あなたがこの緊急メンテナンスの最中に、すべてのサーバーでプレイヤーをあの盾ごとインパクト付きで落下させないかぎり消えません。が、そんなことをしたら我々もあなたを悪質なプレイヤーとみなす必要があります。ここで今このことを話した時点で、あなたが今私が言ったことをしたとき、なにもいいわけできなくなりましたから。」
そこまで聞いたところで、24:00になっていることに気づいて、ログアウトを実行した。




