029 スカラベと滅亡鯖の恐怖 その7
「目の前にある空間を認識する」か、なかなかに難しいことを仰る。そう思いながら両手を胸の前で少しづつ開いたり閉じたりしてみる。そして、両手の間にボールがあると認識する。それは大きくなったり、小さくなったりする。それに合わせて手も動く。そして、そのボールを両手で圧縮する。凄まじい反発力が伝わってくる。ステータスを見てみると、時空属性のレベルが大きく上がっていた。なるほどと思う。それは、時空属性の効率的なレベル上げになっているようだった。手の中の空間に対する認識をどんどん変えてゆく。それは、立方体である。それは、正十二面体である。それは、凧形二十四面体である。それは、アヒルのおもちゃである。etc...気づけば、時空属性のスキルレベルは1725になっていた。
空間に任意の役割を与えることは時空属性ではできない。それは、配置属性の領分だ。時空属性でできることは、意味のないレッテルを貼ることだけだ。今ならあの胡蝶獣も道を開けてくれるであろう。一見何もできるように見えて案外何もできないのが時空属性なのだということがよくわかった。何も使い道が書いてなかったのもうなづける。実質、どんなに頭をこねくり回しても攻撃にしか使えないし、転移なら運命属性が適している。ただ一つだけ、小さく使い方が載っていた。それは、空間のポテンシャルを把握し、操ることができるとかなんとか。
手の中にある想像上のボールに、そこは空間の何かが高いと想像を付け加えた。その瞬間、両手が消滅した。いつぞやのシャボン玉がどんどん拡大してゆく。これはやばいやつだと直感的にわかった。
1鯖の地下都市が、どんどん消滅してゆく。モニターの部屋に赤いビックリマークが大きく映し出される。アクセスして、少し遠くの地上に転送する機能を発見し、それを用いる。
地上に転送されたところ、地下都市があったところからなお拡大してゆくシャボン玉が見えた。あちこちからサイレンが鳴り響く。そして、地上にある施設からラジオのようなものが聞こえた。
「速報です。建設中の地下都市から真空崩壊が発生しました。全て勤務する職員は避難済みのため、人的被害はありません。対緊急事態収拾班は、直ちに現場に向かってください。座標は、N0E0S0W0、原点です。」
「あれか、相当大きいな。」
「誰だやりやがったのは。」
二つの声が上から聞こえた。
「「これより、空間の隔離を開始する。」」
「「『アザー』その時空間異常を隔離せよ。」」
恐ろしいシャボン玉は消え去った。
「術者は一体どこの誰だか知らんが、早めに制御を放棄してくれて助かった。」
「もしそうでなければ、我々はとっくに魔力切れになっていただろう。おい、痕跡再現の緊急要請を行うぞ。あとそこの君、誰だか知らんが重要参考人として連れて行かせてもらうぞ。」
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私は知らないうちに小さな白い壁の部屋にいた。外から小さな声がする。
「おい、これを見ろ。真空崩壊にうっすら含まれていた魔力のアカウントがわかったぞ。名前はスカラベ、最後の利用履歴は地上への転送サービス。時刻は真空崩壊の推定発生時刻のすぐ後、場所も予測発生地点のすぐそばだ。その前の履歴が第四回40000km最速踏破大会の参加登録だが、それ以前の履歴がアカウント登録だけ。独房にいるあいつらをここに連れてアカウントの認証を行うぞ。」
突然扉が開き、白い服と赤い防止を着た人たちが、私を連れていった。そして、指示に従い小さなモニターに足をつける。
「ビンゴ、こいつだ。」
「スカラベ、何が目的で地下都市を破壊した?」
「私に破壊するつもりなどなかった。時空属性のスキルを練習していただけだ。」
「スカラベ、いつから貴様は地下都市に居た?」
「一ヶ月は前だ。その後すぐに40000kmレースに参加したため、実質的にはまだ二日しか滞在していない。」
「質問を変えよう。どこからどのように建設中の地下都市に入った?」
「私にはそれがわからない。青い板に載せられたと思ったら、気がつけばほえないいぬと名乗ったやつと一緒に部屋にいたんだ。」
「そこはモニターがある部屋から近かったか?」
「近かったように思う。」
「質問は終わりだ。最悪だ、何もわからなかった。時空属性の練習で、真空崩壊が起こった例は記録されているか?」
「一件、ございます。ですが、その時はこの方のように、両手が消滅しているのではなく、全身が消滅してリスポーンし、すぐに真空崩壊は収まりましたので、被害はほぼありませんでした。」
「空間の認識のしかたが違うのかもしれない。どちらにせよ、こいつを早く治療してやれ。両手がないと、いろいろ面倒だ。」
顔に何かをかけられると、私の意識は落ちていった。




