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第14話 取引

 

「全額とは言わねぇがせめて………って、おい、デュー!」


 するとその時、ここまで放置していたデュー少年の姿を見た船長が慌てた声を上げる。

 なんと少年は先ほどからずっと気にしていた木箱ーー船長の商会の在庫ーーの中へと上半身を突っ込んで足バタバタしていたのである。


「こ、こらデュー! テメェその在庫には触れるなって言っただろうが!」

「ほえ?」


 なぜか怒られてビックリしたみたいな顔のデュー。その手には箱から勝手に取り出したであろうを商品をいくつも抱えていた。


(うーむ、子供と芸人に「○○するな」は逆効果ってのは異世界でも同じなんだなぁ)


 なんてどうでも良いことを考えていた俺。だが……


「んんっ!? それはまさか! ボ……ボール・オブ・ドラゴン!!?」


 デューの持っていた商品の一つ、とある本の表紙を見た俺が今度は叫ぶ。


「こ、こっちは……山賊王ツーピース! それに忍者ナルシストにスラム街ダンクまで! な、なんで日本の大ヒット漫画が!!? いや、よく見っと絵が少し雑だ……パチモンか?」

「ああっ? な、なんだゴリョウ、テメェこれを知ってるのか?」

「知ってるも何も、俺のいた世界の漫画……娯楽本っていうのかな、それにソックリなんすよ」


 パラパラと捲って軽く内容に目を通したところ間違いない。絵柄の出来がイマイチなので本物では無さそうだが。

 これは異世界に来た誰かが日本のオリジナルをパクって一儲けしてるってやつなんじゃなかろうか?


「おいおい、しかもこっちはグラビアかよ……ミニスカポリスに制服JKに体育着ブルマだと? し、しかも……」

「しかも? なんだ?」

「お、女の子がドチャクソに可愛いっ!!」


 神楽は俺の中で別格としても、史上最高と思っていたハドリーに匹敵するような可愛い女の子たちが、揃いも揃って色っぽい格好でカメラに向かって愛想を振りまいている。


「こ、これのどこが中世ヨーロッパ風異世界じゃい!! ってかカメラあんのこの世界? だいたいスク水ニーソにメイド用ホワイトブリムなんて王道ロリ衣装が現代日本以外に存在するわきゃねーだろ!! え、なに? やっぱりこれドッキリとかだったりするの? もうほんとワケ分かんないんだけどぉ!!」

「お、落ち着くでやんすゴリョウッち。この格好を王道と言う世界から来たなら、間違いなくここは異世界でやんす」

「マールの言う通りだゴリョウ。それに確かに一目見たら取り乱しちまうほどイイ女どもではあるが、しょせんはただの絵だぞ」


 急に興奮しだした俺に若干引き気味ながらも、やれやれといった感じで宥めてくるマールと船長。


「それにしても精巧な絵っすよねぇ。こんな凄腕の絵描き師ってのがいるなんて世の中広いでやんす………あっ、ちなみにこの本、というかここの在庫は全部ノックターヌ……遥々隣の大陸から仕入れたはいいけど、船員たちの趣味用だったり、使用方法や用途が分からない扱いに困った商品たちでやんして。ま、日用品って分類で買ったから大したモノは無いはずでやんすが」


 そんなマールの言葉を聞きながら、デューによってこじ開けられた木箱を覗いて見る。と、あるわあるわ……素材とかは見たことない感じだが、日本ではお馴染みの漫画や家電製品らしきものがいっぱい。


「どれもノックターヌ大陸随一の大国、ロットー王国の……なんつったかな。えーっと、たしかストラト商会っつうところから仕入れたモンでやんす」


 絶対にそこにいるだろ、〈流れ人〉フロム・ジャパンなやつ。

 そしてグラビアの傾向からプロファイリングされる人物像は……スケベかつロリコンなオッさんであること間違いなし。あっ、でもオッサンはたいていスケベでロリコンか。


 ただここに来て一つの妙案が頭に閃いた。


(まてよ? 船長たちは在庫コイツらの扱い方が分かんないんだよな。グラビア写真も精巧な絵だと思ってるみたいだし)


 グラビア雑誌を持ったまま、日用品在庫の中を漁ってみる。そしてラッキーなことにお目当ての物を発見した俺。


「おい、ゴリョウ! ウチの商品を勝手に……」

「船長、それにマールっち。この写真……まるで本物みたいなこの絵なんだけど。これって実は人が書いたものじゃないんだよね」


 俺は船長たちに向かってパララっとグラビアのページを捲って見せる。


「ああっ? テメェ何言ってやがる? 人が書いたんじゃねぇならその辺の地面から勝手に湧き出てきたとでもいうのか?」

「そうじゃなくて、たぶん実際に見せた方が早いかな」


 俺はもう一方の手にさっき在庫から探し当てた……デジガメ(っぽいもの)を注目させるように掲げた。


 そしてそのレンズを船長……じゃなくてハドリーにむける。犬耳オッサンと美少女のどちらが被写体に相応しいかは論じるまでもないだろう。


(ふはは、地球科学の力をとくと思い知るがよい!)


 そしてシャッターボタンを「ポチッ」とな。


「…………」


 あ、あれ? ポチっと………ポチっと……う、動かない!!


「ゴリョウ、さっきから何してやがる?」

「いや、ほんとはこれでさっきの本物みたいな絵が……」


 焦りながらシャッターボタンを連打していて、ふと気づく。


(もしかして……バッテリー切れじゃね?)


 慌ててデジガメをひっくり返したりして調べてみると、何やらそれっぽい感じの爪付きの蓋が。その爪を押してパカッと開いてみると、中身はやはりというか空っぽ。というかバッテリーやら電池との接続端子すらない。


(もしかして見た目だけのモックアップかよ!? ん、でもなんだ? このヘンテコな模様は?)


 蓋を開けた内側の底に、直径3センチほどの円に収まるように描かれた、やたら細かくて複雑な図形模様があった。

 そこでまたピンと閃いた俺。これって魔法陣ってヤツなんじゃないかと。


「おいゴリョウ、何勝手にヒトの商品ぶっ壊してやがる!」

「壊してないから船長、落ち着いてって! これは元々こういう開閉する仕組みなんだって」

「なんでそんなことテメェが知って………って、それが〈流れ人〉の知識か?」


 頭の回転が早い犬耳船長。物珍しさに押されて買ったはよいが、扱いに困ってた在庫商品の使い道が分かるかもと判断したのか、さっきまで茶番でも見ていたかのように胡乱気うろんげだった目の色が即座に変わる。


「うん。どうやらご同輩がいそうな気配がプンプンしてきたわ。ちなみに船長、何かここに入るようなエネルギー源……たぶんこういう時の定番だと……魔石ってやつかな? あったりしない?」

「魔石だと? そいつらは《魔道具》だったのか? そこに入るサイズっつうと……マール、低級の魔石なら何個か手元に無かったか?」

「ありやすぜ! えっと………ほらゴリョウっち、これ使っていいでやんすよ」


 ちなみに魔道具というのは魔石を触媒にして動かすマジックアイテムのことだ。この世界にいる錬金術師や鍛治職にあたる人が作ることが出来るらしい。


 受け取った2つの石英質っぽい小石を適当に突っ込んで試した結果……予想はドンピシャ! そしてカメラdeパシャパシャ!


「うおぉっ……ど、どういう仕組みだ?」

「ハ、ハドリーちゃんがいるでやんす! このちっさい絵の中に本物そっくりのハドリーちゃんが入ってるでやんす!」


 犬耳船長とマールがデジガメ裏の小さな液晶パネルを覗き込みながら驚愕の声を上げる。その背後からは「オイラも! オイラも見たいぃ!」と2人のあいだに顔をギュウっと押し込んでいるデュー。


 男3人が顔を寄せ合って美少女の写真を見てる姿はアレだが、原始人が初めて科学の力を目の当たりにしたみたいで微笑ましいな。別に俺が作ったわけでもないが、なんとなく気分が良いぜ。

 ふふ、もしかしてドラ○もんはいつもこんな気分だったのだろうか?


「ゴ、ゴリョウ……ってことは、このグラビアっつったか? ここに写ってる、ゴクリ……この受付嬢っぽい極上が過ぎる茶髪女もこの見た目のまま実在してるってことか?」

「もちろん、こっちのエロ可愛い猫耳ムスメも爆乳金髪美女騎士に黒髪ショートボブのスク水美少女もね」

「な、なんてこった……」


 ただの絵だと思っていた女神のごとき女たちが現実に存在すると知って、しばし言葉を失う船長たち。


 俺自身もじっくりとそのグラビア美女や美少女を堪能したいところではあったがしかし、この機を逃すわけにはいかない。

 在庫商品の入った木箱に近づいた俺は、拳で軽くそいつをコンコンと叩いてニヤリとする。


「船長、そのデジガメみたいに、他の在庫の使い方も俺なら分かるかもしんないけど?」

「………確かにな」


 笑顔の裏に潜む俺の考えを察したのか、しばしの黙考を挟んだあとに渋々同意する船長。


「じゃあ、こいつらの使い方を教えるんで、神楽の件で受けた船の損失ってやつを相殺してくれるってことで良いかな?」

「ちっ。だが、それで本当に船の損失分を補填できるほどの価値があるかは分かんねぇだろうが」

「そりゃそうだけど。でも俺が教えないと、いつまで経っても不良在庫を抱えることになるかもでしょ? それともまたノックターヌ大陸まで使い方を聞きに行く? 結構遠いんでしょ?」

「ぐっ……確かにアソコは軽々しく行ける場所じゃねぇ」


 どうやら大陸間の交流は始まったばかりで、そう簡単に行き来が出来るところじゃないらしい。

 行くたびに遭難する船や死者を出すほど厳しい航海が必要だったり、辿り着いた先の国が友好的じゃなくて捕らわれてしまう場合もあるとのこと。


「ほら、そうやってマゴついてる内に他の人に商売チャンスを奪われるかもよ、船長? このデジガメ一つ取っても色々と商売に活かせるアイデアは出ると思うんだよね」


 地球で考えたらあり得ない取引きだが、ここは剣と魔法のファンタジー世界だ。カメラ一つとっても世界に与える影響はそれなりにあるだろう。


「……うーむ、しかし……〈ドッグスター商会(うち)〉がそいつらをうまく扱える保証もないしな」


 迷っている船長を後押しするために俺は言葉を続ける。


「俺もこの世界のことは知らないし、絶対にプラス収支になる、とは言えないけど。でも試してみる価値はあるかと」

「……絶対じゃねぇが試す価値はある、か。ふん、焚き付けるようなセリフ言うじゃねぇか。いいだろう、その話し、ノッてやるぞ」


 こうして俺と船長の取引きは成立したのであった。



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