第12話 夢で会えたら
『ーー必ず君を死なせてあげるから』
暗闇のなか、俺に背を向けて不穏な言葉を紡いだ幼馴染の少女。
どういうことだ? 教えてくれよ、神楽!
その背中に向けて縋るように叫んだ俺。
すると青と緑の神秘的な瞳を持った少女が突然クルリと振り返り、その可憐な顔に不釣り合いな馬鹿でかい薙刀を振り上げた。
ーーほぅら、さっそく死になさい!
や、やめてくれ!
振り回される薙刀から必死に逃げまどう俺。しかしどんなに全力で走って逃げても、いっこうにその距離は広がらない。
ーーあはは、えい! えい! 死になさい! 死になさい!
あぶねぇって! マ、マジで死んじゃうから! 神楽! 俺が何したっていうんだよ!?
ーーだよ……
え? なんだって?
ーーボクはダメって言ったのに、強引にシテきた罪だよ!
ま、まままて! 人聞きの悪いことをいうな!! たしかに最初はちょっと強引だったかもしれないけど、最終的にはオマエも魔女っ子コス着ながら「愛する王女の為に〈万能薬〉を調合してもらいに来た騎士ゴリョーとドロッドロの不倫セッ○スごっこ」を楽しんで……
ーーう、うるさーい!! それでも《ピー》だったんだから! 五稜の《ピー》が《ピー》すぎてボク死ぬかと思うほど《ピー》たんだから!
ひーっ、やめて! ソコを斬ろうとしないで! ソコに罪はないからぁあ!!
ーー死になさい! ちょん切られて死になさい!
ヒイィィッ!!
……………
…………
………
……
…
「うっ………うぅっ………」
「あ、ゴリョウ! 気づいたか!?」
「うぅ、チ………チン○だけは斬り落とさないでーーっ!!」
自分の出した大声にビックリして目が覚める。
「はあっ、はあっ………ゆ、夢か?」
ガバリと起き上がって、薙刀を振り回してる危険人物が近くにいないかを慌てて確認する。
幸いそんな怪しい人はいなかったが、代わりに周囲にはつい最近になって見知った顔がいくつか見てとれた。
(あぁ、こっちは夢じゃなかったんだな)
「ゴリョウ、良かった! もう2日も目を覚まさないから心配したぞ」
「デュー……2日?……も俺は寝てたのか?」
「うん」
船の上で別れたはずの野生的な元気少年デューが、俺のいるベッドの脇に座っていた。そのすぐ隣には桃色髪の不思議ちゃん美少女ハドリーもいる。
改めて俺は自分の居る場所を見渡す。
木箱がいくつか積み重なっている広い室内。右手には大きな出窓が二つ。左手には他にも2つベッドが並び、起きあがった正面には扉が一つある。
その扉に近いところにある小さなテーブルには、船にいた犬耳船長がもう1人の船員らしき男と座りながら俺の方へ目を向けていた。
「ここ……は?」
「ここはウチの……ドッグスター商会が持ってる不動産の一つだ。その辺に置いてあんのは大した価値はねぇが未整理の在庫だから触るんじゃねぇぞ」
俺にだけではなく、デューやハドリーにも伝えるように犬耳船長が俺たちの方に寄ってきて言った。
在庫と言ってるのは部屋の隅に積み重なってる木箱のことだろう。もとより人んちの荷物を勝手に漁るほど育ちは悪くないつもりだけど。デュー少年の方はめっさキラキラした目で木箱を見つめてるがな……
「経緯だけ簡単に伝えるとだな、ゴリョウ。船に残ってたはずのテメェが、なぜか俺たちより先に海岸でぶっ倒れてたからな。ひとまず海岸から近場のここへと運んで来たってわけだ」
「そっか。なんか迷惑かけちまったみたいですんません、船長……」
船で気を失ったあと……ひょっとして神楽が魔法かなんかで陸まで運んでくれたのだろうか。
俺は左腕に嵌ってる、彼女に収納アイテムだと言って渡された腕輪を何とはなしに見つめる。
そうしてるうちに犬耳船長が呆れた声で話しを続けた。
「それにしてもあんなことがあったってのに。いったいぜんたいゴリョウ、さっきまでテメェはどんな夢見てやがったんだ?」
夢? あぁ、チンチンのくだりの寝言を聞かれていたってわけか。
「どんなって……すぐに説明するのは難しいけど、一応俺の中ではあの船であった件と繋がってるというか」
「……あの状況からチンチン斬られる夢ってどんな超展開があったんだよ」
揶揄うつもりが、逆に頭痛の種が増えたみたいな顰めっ面になった犬耳船長。
まぁ俺と神楽の関係を知らない人からしたら無理もないか。
仮に船長の立場になって考えると……
船に出た裸の密航者を捕まえて、
直後にワイバーンに襲われて、
それを別の密航者が撃退して、
一安心と思ったら大量のワイバーンと伝説級のドラゴンが現れて、
救援にきた船とワイバーンをドラゴンが一息で消し去って、
謎の女がこれまた別の密航者に殺害予告をして、
そうこうしてるうちに船がドラゴンに壊されたから脱出したら、
最初の密航者が『チンチ○を斬らないで』と寝言で叫びだす。しかもその叫びはこれまでの事件と関係してると。
やべーな、船長の周りに不運が重なってるじゃん。
「船長……もしかして厄年?」
「だとしたら厄ネタはハッキリしてんだ。厄祓いしないとな?」
「じょ、冗談だって船長! そんなに熱い視線を俺に向けないで!」
この世界にも厄年があるという無駄な情報と引き換えに、自分の身を危険に晒してしまった俺。
(そりゃ船長から見たら俺こそが厄ネタに違いないわな……)
後ろめたさもあってちょっとビビり腰の俺を見て、犬耳船長が諦めたように嘆息する。
「ふぅ、くだらねぇ話しはこれくらいにしてだ。ゴリョウ、とりあえずオマエの知ってる事を色々と話してもらうぞ」
「えぇ……こっちこそ色々と聞きたい状況なんですけど……」
しかし犬耳船長とその部下っぽい犬耳マッチョ男、それにもちろんデューとハドリーも含めた四人の視線が、例外なく『じぃー』っと俺を見据えて来るのであった。
やれやれ、どうやら長い話し合いになりそうである。。




