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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第1.5話:妖檄舎、引っ越し騒動記
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6.妖檄舎、ちょっと北へ

 数刻後、妖檄舎。

 霧子が帰る頃には、すでに1200㏄のオートバイが、暖気運転を済ませていた。


「いい? 霧ちゃん! アクセルターン禁止、ウィリー禁止、ドリフト禁止、道交法遵守、黄色は止まれ、だからね!」


 白いジェットヘルメットの顎ひもをきつく締めながら、正宗菊が真剣な表情で指をさし、霧子に念を押す。


「いや、それじゃ緊急にならんだろう?」


 霧子は不満げに呟く。


「とにかく守って! じゃなきゃ私、絶対に乗らないからね!」

「そんな事言われてもなー……」


 菊の真剣な表情に、霧子は後ろ頭を掻きながら困惑する。


「お姉、アタシはどうすれば?」


 二人の間から、霞がひょっこり首を出す。


「霞ちゃん! お願い、霧ちゃんに何か言ってやって!」


 救世主登場とばかりに、菊は霞に縋り付く。


「そんなにひどいんですか? お姉の運転」

「うん、ひどい。テクが完璧な分、余計に性質が悪くって」

「そうなんですか……で、お姉、アタシはどうすれば?」


 菊の懇願を右から左に流し、霞が尋ね直す。


「霞ちゃん!?」


 菊は思わず、涙目になる。


「お前は普通についてこい、できるな?」

「はー、まあ、いいですけど、菊さんはお姉の後ろが嫌だというので、アタシがおぶって連れて行きましょうか?」


 霞の言葉に、菊はギクッとなって、過去のトラウマを呼び起こす。


「……菊、私の後ろと、霞の背中、どっちがいい?」


 霧子が意地悪気に微笑む。

 菊は俯いたまま逡巡すると、言葉をひねり出す。


「……で良い」

「ああ、聞こえないなー?」

「分かったよ! 霧ちゃんの後ろでいいよ!」


「そんな、酷いと言うお姉の運転よりも、私の方が酷いと?」


がっくりと肩を落とす霞。


「あ、いや、違うの霞ちゃん! あの、どっちかっていうと、どっちもどっちなんだけど、霞ちゃんのは、ほら、目立つから、ね? ね?」


 菊が慌てて、必死に取り繕う。


「どーせアタシは、フライング・ヒューマノイドですよ、モスマンですよ……」


項垂れたまま泣いている妹の背中を見て、霧子はため息を吐く。


「霞……ウソ泣きやめろ、菊が困惑するだろうが」


霧子に言われて、霞はすっくと立ちあがる。


「ちぇ、せっかくお姉に、優しく慰めてもらおうと思ったのに……」


そう言って、もじもじした目線を霧子に向ける。


「その前に、言う事があるだろ?」


霧子は怒る訳でもなく、冷静に諭す。


「そうでした……ごめんなさい、菊さん。だしに使ってしまいました……」


霞はそう言って頭を下げ、上目遣いに菊を見つめる。


「いや、まあ、いいよ。私、そういうの気にしないから」


 菊は笑いながら、霞の頭を撫でた。


「どーもコイツが絡むと、話が脱線するなー……」


そう言いながら、霧子はバイクに跨ると、二、三回、アクセルを吹かす。


「よし、儀式終了! 乗れよ菊、超特急で行くぞ」

「約束、分かってるよね? 霧ちゃん」

「分かってるよ……だから早く乗れっての」


 菊がおずおずと、タンデム・シートを跨ぎ、霧子の腰を挟んで、タンクをしっかりと掴む。


 次の瞬間。


 バイクは高々と前輪を跳ね上げ、爆走を開始した。


「嘘つきィィィィィィィ嫌ァァァァァァァァァ!」


正宗菊の悲鳴の残響とともに、バイクはあっという間に見えなくなった。


「……速! これは私も急がないと!」


そう言って、霞も大地を踏みしめると、一気に跳躍する。


「みんな元気ねー。さて、私達も行きましょうか。運転お願いね、小鉄君」


吹絵が助手席に乗り込み、小鉄六郎の運転する軽自動車が旧妖檄舎を発進する。

その傍らには、焔を司る妖刀:夜叉丸が光っていた。


目指すは埼玉県K市。

江戸時代より交通の要所として栄え、今も小江戸の名で親しまれる、宿場町だ。


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