5.新しい居場所
スピーカーを劈くような勢いで、興奮した二郎が一方的にまくしたてる。
「ああ? だから興奮するなって、掻い摘んで話せよ、ジロー」
耳元の大音響に眉を顰めながら、霧子は二郎を宥める。
「だから! 築100年の宿屋なんだって! 二階建てに8室の個室と、男女別の源泉温泉がある! それが只同然で手に入るんだよ、役所のお墨付きで! ただ……」
そう言って、二郎は急に口籠る。
「……曰く付き、なんだな?」
霧子が冷静に切り返した。
「その通り……町ぐるみでちょっと厄介な事になってる、すぐにでもこっちに来てもらいたい……菊ちゃんには、特に」
二郎の口調が、引き締まった。
「菊の出番か……深刻なのか?」
「今すぐ人が死ぬって訳じゃないけど……被害の中心がマズい……子供だよ」
「子供か……分かった、私と菊、それに霞でそっちに行く、ただな……」
「……ただ?」
電話の向こうで、次郎が首を傾げる仕草が分かる。
霧子は、おもむろに言葉を継いだ。
「ただ、社長が何て言うかな? 当局との関係が切れてナーバスになってるからな、金が絡まんと、行動の許可は下りんぞ?」
「あの守銭奴に言ってくれ! お金より大事な事が在るって!」
電話口でヒート・アップしたジローが熱弁した、次の瞬間……
「ジロー……私を守銭奴と言ったわね?」
氷の様な社長:大賀吹絵の言葉がスピーカーに響いた。
「しゃ、社長?」
ジローが電話越しに、凍り付く。
「あ、これ、三者通話にしてあるから」
霧子が素っ気なく言う。
『霧子ォォォォォォォォ!』
二郎が心の中で絶叫する。
「二郎君……誰のお陰かな? 貴方の道楽がお金に変わるのは?」
「しゃ、社長のお陰です……」
「分かれば宜しい」
電話口でひたすら頭を下げる二郎の姿を想像し、霧子は舌を出す。
「で、二郎君、事の重篤具合はどれ程なのかしら?」
吹絵が、おもむろに訊ねる。
「かなり悪い、放っておけば全員死ぬと思う……子供が、全員だ」
二郎はそう言って、目を伏せた。
「分かりました、その事態、妖檄舎で対処します」
吹絵の瞳が、喝! と開く。
「そういう訳だ、ウチ等の寝床……決まったようだ」
霧子が笑う。
「霧子はすぐ戻って、出張君1号で菊ちゃんを後ろに乗せて出動! 霞ちゃんは後を追って! 私と小鉄君は出張君2号で出撃、現場に司令塔を築きます!」
吹絵が軍配を振り、所属の全エージェントを動かす。
「……え、出張君1号? 私が後ろ? やめて!」
吹絵の背後から、菊の悲鳴が上がる。
「聞こえてるぞー、菊」
「どうでもいいから、早く来てくれ、僕一人じゃどうにも収拾が付けられないんだよ……!」
悲鳴を上げる、海堂二郎。
それぞれが、それぞれの思いを乗せ、怪異事件に向け、動き出した。




