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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第一話:遠い山から来た少女
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ACT1 仙道 霧子:4

 さて、ひょんな事から謎の少女を拾ってしまった霧子だが、歩き始めて5分としないうちに、早くも後悔し始めていた。

 霧子は身長175cm、対して少女の身長は140cmにも満たない。

 その少女が、はしゃぎながら霧子の肘にぶら下がって歩く。

 傍から見ると、親子にしか見えなかった。

 だがしかし、百歩譲って、それはそれで良い。

 どうせ見ている人間なんて、誰もいないのだから。

 しかし霧子が困惑したのは、少女のテンションだ。

「ねね、お姉さん、ドコ行くんですか? ドコ?」

「ファミレスだよ・・・・・・こんな時間だからな、あんまし期待するな」

 まるで遊園地に行くかのようにはしゃぐ少女を、霧子がなだめる。

「ねえ、お姉さん、ハンバーグはありますかね? ね?」

「ああ、あるよ・・・・・」

「エビフライは、どうですかね?」

「あるよ・・・・・・」

「チッキンソテーは? チッキンソテーとかも、あるんですかね?」

「あるよ・・・・・・まとめて皿に乗ってるよ」

「じゃあ、ポテトは? ポテトはついてますか? あと、ニンジン! ニンジンの、甘いの!」

 テンションが上がり続ける少女を見ていると、少し楽しい。

 しかしこのまま騒ぎ続けられると、少々鬱陶しくもある。

「ああー、もううっさいなー。 深夜なんだから大声で喚くな、近所迷惑だろうが」

 肘にぶら下がり続ける少女の腕をばっと払って、霧子が釘を刺した。

「お姉さん・・・・・・怖いです・・・・・・」

 しゅんとなる少女に、霧子は何だか罪悪感を覚えてしまう。

「いいから黙れ、着くまで黙ってろ。でないと、見捨てるぞ」

 そう言って、霧子は少女の頭をポンと叩くと、一人で歩き始めた。

「ふっふっふ、そんなことを言って、お姉さんはアタシを見捨てないはず。だって、見捨てるくらいなら、最初から捕まえませんもんねぇ」

 少女を置いて歩き出す霧子の背中に、見透かしたような声が響く。

 それが何とも、霧子の癇に障った。

「気が変わるってこともあるぞ、今まさにそんな気分だ」

 怒りを押し殺したような声で呟く霧子。

 少女は、あっけらかんと笑って言った。

「いやー見捨てませんよ、お姉さんは! こんな深夜に、子供を一人で放り出せるような人とは思えません。お姉さんは良い人です!」

 そう言って、再び肘にぶら下がる。

 その様は、天真爛漫で無邪気そのものだ。

「もういい、黙って歩け、私も黙るから」

 霧子は素っ気無く言った。

「あい!」

 少女が、笑って応える。


 そうこう言っているうちに、二人はファミリーレストランの入り口をくぐった。


 少女は嫌がったが、喫煙席に通ると、四人がけのテーブルに対面で座る。

 少女は、大はしゃぎでメニューを隅から隅まで眺めると、来る途中で言っていたハンバーグやらエビフライなどを、片っ端から注文し始める。

 霧子は、その姿を想像していたのか、冷静にそれを見つめ、自分はチョコレートパフェを頼んだ。

 プリンの敵を取りたかったし、頭の痛いこの事態に応じ、脳に糖分を供給したかったからだ。

 少女に、ドリンクバーは取り放題だと伝えると、彼女はカウンターにぶっ飛んで行き、およそ全種類の甘い飲み物を、お盆に一杯のグラスに乗せて、持ってきた。

 やがて、食事が運ばれ、少女が食べ始めたのを契機に、霧子は口を開いた。

 ここまで来てしまえば、そう簡単には逃げないだろう、と言う判断だ。

「でだ、喰いながらでいいから聞け、私は、お前に聞きたい事と、言いたい事が、山ほどある」

「ほおおお・・・・・・これがハンバーグ、エビフライ・・・・・・本物の洋食・・・・・・」

 料理を頬張り、なんだか訳の分からない方向にトリップする少女。

 霧子は、ばん! と、テーブルを叩いた。

「聞け!」

「・・・・・・ふぁい」

 口に食べ物を入れたまま、少女はしゅんとなって頷いた。

「まずは、言いたい事の方から行くぞ・・・・・・この馬鹿者が!」

「今の北東区で、深夜に子供がうろつく事が、どれだけ危ないと思ってるんだ!」

「さっきの男みたいな間抜けなら良い、だがな、一歩間違えばお前・・・・・・」

 そこまで言いかけて、霧子は口をつぐんだ。

 周囲を見渡し、聞き耳を立てる人間がいないか、確認する。

 すると、少女が意外なことを口走る。

「化け物として、処分される・・・・・・ですか?」

 それはまさに、霧子が言いたかった事だ。

「な、お前・・・・・・」

「知っていますよ、それくらい。なんたって、ここは今、封印都市なんですからね」

 少女が、ふふんと得意げに鼻を鳴らした。

 霧子が怪訝な顔になる。

「お前、何者だ?」

「ふっふっふ、さて、何者でしょう?」

 少女は、はぐらかし、また食べることに集中し始めた。

「この野郎・・・・・・まあいい、それを含めて、今から聞いてやる」

 霧子はむっとした表情のまま、チョコレートパフェを一匙、口に運んだ。

「まずお前、名前は?」

 少し気持ちを落ち着けてから、霧子は質問を再開した。

「名前ですか? 名前はですね、えっと・・・・・・・ケイ、です」

 相変わらず食べることに集中しながら、少女が答える。

「ケイか、洒落た名前だな、どう書くんだ?」

「えっと、こう、数字の「1」を書いてですね、隣に平仮名の「く」って」

「アルファベットじゃねぇか! お前は何処のロボット刑事だ、ああ?」

 霧子が半身を乗り出し、少女に睨みを利かせる。

 少女は意にも介さず、メロンソーダを飲み干してから、言った。

「お姉さん、結構マニアですね」

「それを分かる、お前の方が意外だよ」

 呆れ返る霧子、何だか遊ばれてるような気分になってくる。

「へへへ・・・・・・、あ、エビフライ追加していいですか?」

 少女は照れくさそうに笑うと、言った。

「ああ、いいよ」

 霧子は答える。律儀というか、これが霧子の生真面目な一面だ。

 オーダーの呼び鈴を、勢いよく押す少女。

 霧子は、注文を聞きに来たウェイトレスが去るのを待って、改めて質問を再開した。

「質問を再開する・・・・・・場所だ、お前、場所はどこから来た?」

「西の、山の方・・・・・・」

「北東区まで、どうやって来た?」

「牛に乗って・・・・・・・」

「分かった、お前、私を馬鹿にしているな?」

「本当ですよー! 本当に昨日、山から牛に乗って、この街に来たんです!」

 自分の主張を否定された少女が、発言の真実性を、必死になって訴える。

 そんな少女の主張を、霧子は静かに否定した。

「悪いがな、それはあり得ない・・・・・・お前が言った通り、今のこの街、帝都東京、北東区は、封印都市だ。いかなる存在も、外部から進入する事も、外部に脱出する事も、出来ない・・・・・・不可能なんだよ」

「でも、アタシは!」

 少女が必死に食い下がる。

「分かった」

 霧子は、冷静に言葉を続けた。

「通りで潜り抜けられる訳だ。大体分かったよ、お前の正体。お前、浄山の童子だな?」

「あ、はい。まあ、そんなような者です。でも、それを分かる、お姉さんは?」

「私か? 私はな、帝都北東区の封印解除を担う修煉丹師、妖檄舎のメインアタッカー、拳銃使いの仙道霧子。お前を呼んだ、張本人だ」

 チョコレートパフェの最後の一匙を口に咥え、霧子はにっと笑った。

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