ACT1(Last)仙道 霧子:5
「どうやら決着したな。私は、お前の正式な保護者ってことになる」
「ふわわぁ・・・・・・良かったぁ・・・・・・」
少女は、心底落ち着いたように、全身を脱力させる。
こう見えて、本当は相当なプレッシャーを感じて、行動してきたのだろう。
霧子は、そんな少女の姿を微笑ましく見つめると、改めて浮かんだ疑問を、問いかけた。
「でな? 気になるのは、牛だ。お前、牛に乗って来たって言ったよな? その牛は今、どこにいる?」
「あー、いや、それがですねえ・・・・・・」
少女の眼が泳ぎ始める。
「それが?」
「逃げられました! 私がトイレを探しているうちに、どっかに行っちゃいましたとさ!」
「マジかよ・・・・・・」
霧子は頭痛を覚え、額に手を当てた。
「そーなんですよー、僧正様からの親書も、持たされた金子も、全部牛車の中で・・・・・・」
「それで路頭に迷っていた、と」
「はい・・・・・・恥ずかしながら」
しゅんとなって頷く少女。
霧子は、ため息をついた。
「しかし妙だな。こんな都会に、牛が牛車付きでホテホテ歩いてたら、さすがに目立つだろう? 軽くパニックになると思うんだが」
「それが、術がかかってまして、普通の人には、見えないようになってるんです」
「それ、不味いんじゃないか? 人から見えないんじゃ、車と激突してるかも知れん」
「位相をずらしてますからね、それは大丈夫だと思います。それに多分、目的地には向かっていると思いますし・・・・・・」
「妖檄舎、か」
「はい」
「わかった、ちょっと電話してくる。お前は喰ってろ、逃げるなよ?」
そう言って、席を立つ、霧子。
「はい、逃げません」
「それから、残すなよ? まったく馬鹿みたいに頼みやがって」
「おふぉいあふぇん!(残しません!)」
口に食べ物を入れたまま、少女は答えた。
数分して、霧子がテーブルに戻ってくる。
「おい、K! ビンゴだ、来てるってよ、牛! タクシー拾って、さっさと戻るぞ!」
「本当ですか! やった!」
「だから、お前、それ全部喰え、今すぐ、残らず! 残したら殺すぞ」
伝票をひったくり、霧子は少女に釘を刺した。
「は、はい! ・・・・・・んが、んぐ!」
少女は慌てて、残りの料理を全部口に詰め込むと、席を立った。
ちなみに、今宵の食事の勘定は、二万円超。
少女は、ざっと10人前は平らげた事になる。
プリンと言い、食事代と言い、今夜の霧子は踏んだり蹴ったりだ。
それでも、まあ良い。
Kと名乗る少女が来た事で、都市に渦巻く事情が、進展するかも知れない。
それが見込めるだけで、十分だ。
二人はタクシーに乗り込むと、帝都:東京、北東区の「妖檄舎」と呼ばれる場所に急いだ。




