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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第一話:遠い山から来た少女
31/63

ACT6 大妖:3

「しかし、脚一本でこの苦労ですか……」

 勝機を掴んだのは一瞬。

 残りの脚爪による包囲網に、二人はまたしても追い詰められていく。

「全く上を取れないのが痛いな……急所に届かないと、消耗戦で撃ち負ける」

 霧子がそう言って、奥歯を噛み締める。

「前方の二本の脚、あれが厄介です。あの足だけ上空に伸びるんですよ……刀では弾幕張れませんし……捌くだけで、空中タイム終了です」

 一度痛い目を見ている霞が、悔しそうに舌打ちした。

「へえ、お前でも舌打ちするんだ」

 霧子が意外そうな表情で、ほくそ笑む。

「そりゃ、しますよ……アタシにも感情ってものがあります」

 霞は少し照れたように、目を逸らして頬を赤らめた。

「私も飛べればいいんだが、生憎そう便利に生まれてこなかったんでな……」

 脚爪の攻撃を避けながら、霧子が溜息をつく。

「ないない尽くしで、泣けてきますねぇ」

 霞もつられて、溜息をついた。

 御前の爪脚の動きには、全く隙がない。

 霧子達の側から見えているのは、腹部と、脚の付け根だけ。

 御前の本体とも言える上半身は、まるで見えない。

 しかし、御前の脚は正確な動きと速さで、二人を追い詰めていく。

 その違和感が、二人には気になって仕方がなかった。

「お姉さん、お姉さん!」

「あ?」

 背中合わせに構え、お互いを見やる。

「おかしくないですか? この脚畜生、ちょっと正確過ぎやしません?」

「確かに、まるで見えてるようではあるな」

「見えてるなんてレベルではありませんよ、それ以上の……何というか、反射的、みたいな」

 霞の言葉を聞いて、霧子があることに気付く。

「K、良いことを思いついた。多分、お前の疑問、解消できるぞ」

 霧子はそう言って、霞の身体を引き寄せ、抱きしめる。

「お、お姉さん!?」

 突然の事に、動揺する霞。

「いいから、息を潜めろ、気配を殺せ」

 霞の口を塞ぎ、耳元で囁く。

「は、はい……」

 訳も分からぬまま、言われた通りにする。

 数秒、息を潜め、気配を殺してうずくまる二人。

 違いは、すぐに現れた。

 それまで執拗に二人を追い、攻撃を加え続けた脚爪の動きが、一瞬止まる。

 そして次の瞬間、御前の脚爪は触れるもの全てを突き砕く勢いで、獰猛に暴れ狂った。

「危ないですよ、お姉さん……!」

 霞が、押し殺した声で悲鳴を上げる。

「大丈夫だ、よく見ろ」

 霧子は、脚の動きを注意深く観察していた。

 その攻撃は苛烈であったが、今までのような正確さがない。

 気配を殺し、うずくまる二人とは無関係な場所まで攻撃しているように見えた。

 しかも、動きを止めている二人には、攻撃が全く当たらない。

「やっぱりな……」

 霧子が頷く。

「え? どういうことですか?」

 霞は、未だピンと来ない様子で、首を傾げている。

「まだ分からないのか……お前、未熟だぞ」

 霧子が呆れ顔になる。

「どうせ私は子供ですよ……て、不貞腐れている場合じゃありませんね……教えて下さい、お願いします」

 霞がぺこりと頭を下げる。

 うずくまった状態でそれをするものだから、まるで土下座だ。

「ソナーだよ」

 霧子が、素っ気なく言う。

「ソナー……あ!」

 霞もようやく気付き、ポンと手を叩く。

「今まで私達は、奴を仕留めようと、体の中心へ、中心へと向かって行った」

「そこには10本の脚があって、アタシ達は常に囲まれていた……」

「で、私達が気配を殺した、この場所は?」

「一本削った、脚の外」

 霞が呟く。

「正解」

 霧子がそう言って、親指を立てる。

「どういう原理かは知らんが……奴は、自分の脚で囲んだ範囲の敵の気配を、正確に捕捉できるんだ、まるで音波か何かを反響させるようにして、な」

「だからこその、この足高……」

 霞が感心して、頭上を見上げる。

「その通り。上空が取れない以上、この馬鹿長い足で囲われた圏内に入らなければ、奴の本体にダメージを与えられない」

「でも、一度圏内に入ったら、その動きは手に取るように把握され……」

「あの脚畜生に追い回されるって訳だ」

 霧子が、にんまりと笑った。

「それって結局、上を取らなきゃダメって事じゃないですか?」

 霞が、再び首を傾げる。

「まあな、それが一番良い……だが現状でそれは無理だ、無いものねだりをしても仕方がない」

 霧子は、素っ気なく言い切った。

「じゃあ、どうします?」

 霞が尋ねる。

「10対2……いや、今は9対2か。どっちにしろ、多勢に無勢が悪いんだ」

 霧子はそう言うと、悪戯気な笑みを浮かべた。

「まさか、警官隊の皆さんを!?」

 霞が蒼褪める。

「おいおい、K……私が何に見える、私は鬼か? 警官隊の諸君の今の任務は、菊と吹絵の保護、それに誰もここに近づけさせない事だ、その為に、護符を奢ったんだ……」

 霧子が苦笑する。

「じゃあ、どうやって数の差を埋めるんです?」

 霞がキョトンとして、尋ねる。

「こっちで埋められない差だったら、向こうに詰めてもらうんだよ……奴の脚の動きをもう一度観察してみろ」

 霧子が不敵に笑い、霞を促す。

「観察って……滅茶苦茶に暴れてるだけに見えますよ?」

「脚の一本々々、その役割を見ろって言ってるんだ」

 霧子に言われて、霞はもう一度、御前の脚捌きを注視する。

 そして、あることに気付いた。

「……あ! 滅茶苦茶に動いてるから分かりにくかったですが、言われてみれば移動に使う脚と、攻撃に使う脚が、はっきりと分かれていますね!」

「移動の脚が5本、攻撃の脚が4本だ。さっき落とした脚は移動用だな」

 霧子が頷く。

「なるほど、あの厄介なソナーは移動用の脚にしかない……だからアタシ達は抜けられたんですね?」

「分かって来たな? ネットワークに穴が開いたんだ。だったらその穴を広げてやれば……」

「敵はこっちを捕捉できなくなる……現状打破できますね!」

 霞が色めき立つ。

「敵の攻撃手段はこれだけではないだろうし、形態もこれ一つとは思えん……だが、今よりナンボかマシにはなるだろう」

 霧子がそう言って、煙草を一本口に咥え、火を付ける。

 霞も、飴玉を補充した。

 ここまでで消費した魂の力は、相当なものだ。

 充填剤の服用は、修錬丹師にとって、戦い続ける為の大切な行為だった。

「で、どうやって脚を落とします?」

 口の中に物を入れた為、舌足らずな口調になった霞が、霧子に尋ねる。

「お前にやってもらう、お前の速さだけが唯一の頼みだ……出来るか?」

 霧子に言われ、霞の背筋に電撃が走る。

「今までは、敵の脚に翻弄され、二人バラバラに攻撃していた……だが、これからは違う。敵の脚の索敵範囲に入るのはお前だけ……攻撃脚は私が牽制する、お前は目一杯飛び回って、敵の移動脚の装甲を砕け、最終的に脚を落とすのは、私の霊銃弾でやるのが妥当だろう」

 無茶な注文を付けている事は、霧子にも分かっている。

 それが、どれだけ危険な事かも。

 しかし、何故だか霧子には、確信があった。

 Kなら、霞なら大丈夫だ。

 自分の注文をすべてこなし、やり遂げてくれる。

 その信頼感が何処から来るのか、今の霧子には分からない。

「分かりました、やります、やって見せます……全力全開です!」

 霞が、武者震いしながら叫ぶ。

「……あと、どんなに窮地に陥っても、あの姿にだけはなるな……逃げてもいいから、それだけは約束しろ」

 霧子が、真剣な表情で釘を刺す。

「分かってますよ、あれは私の最終形態ですからね……」

 霞は、静かに答えた。

「違う、そうじゃない……」

 霧子は言いかけて、口をつぐむ。

 霧子は、霞のあの姿、化魄の本性に、言い知れない不安を抱いていた。

「大丈夫ですよ、お姉さん」

 考えあぐねる霧子の顔を覗き込んで、霞が満面の笑みを見せる。

「私は、変わりませんから……例えあの姿になっても、お姉さんの事は……」

 言いかけて、霞は頬を赤らめ、目を逸らす。

 その仕草に、霧子は少しだけ安堵を覚えた。

「じゃあ、始めるか」

 霧子が促す。

「はい!」

 霞はすっくと立ちあがり、敵の脚の包囲網に、身を躍らせた。

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