十七話
長ったらしい文が多く、大きな変化も無いのでちょっと退屈かも知れません。
まず、神々に説明された内容を要約すると、こうだ。
ここは、革命家集団『烏合の衆』の拠点の内の一つで、神屠学園第五十学区のはずれにある森林公園の中らしい。この建物が“木材を使用していない木造建築”という奇特な構造をしているのは、こいつらの仲間の異能力によるものだという。
神々の話によると、俺と行地、篤木の三人は、その拠点の玄関の前で倒れていたとのこと。しかも、放置された俺達が死なないよう、応急手当をされた状態で、だ。どうやら、誰かが訓練場で瀕死になっていた俺達を見付け、応急手当をし、ここまで運んで来たということだが……どうにも腑に落ちない。いや、助けてもらったことには感謝するが、だが一体、俺達を助けて“そいつ”に何のメリットがあるというのだ? それに、応急手当はしておいて、本人はさっさと姿を暗ませる意味が分からない。身を隠さなければならない理由があったのだろうか?
例えば、俺達を助けた“そいつ”は、この『烏合の衆』と敵対関係ないし何か遭遇してはいけない理由があり、だが俺達にちゃんとした治療を施すためには、『烏合の衆』に任せるのが一番合理的だった、とか。ここの救護室にはベッドが二つしかなく、それはつまりまともな医療設備が整っていないということだが、神々の先ほどの話によると、そんな環境であの状態の篤木を治療したということだから、おそらく腕の良い治癒系能力者が居るのだろう、だから“そいつ”は俺達を『烏合の衆』に任せた。団員である篤木が一緒に居るのだから、とりあえず俺と行地にも治療が施されるだろう、と踏み。……かなり強引な憶測だ。何一つ具体的な根拠が無い上に、やはり、俺達を助けた“そいつ”に何のメリットがあるのか分からない。
じゃあ、例えば、こういうのはどうだろうか。あの戦闘で、まだ行地に意識が残っていて、最後の力を振り絞り、俺と篤木をここの玄関まで運んだ……、……いやいや有り得ねえよ。行地がここの場所を知っているはずがないし、男二人を担ぐ体力があのもやしっ子にあるはずがないし。半身になった篤木が根性で俺と行地を運んだ、という方がまだ現実味がある、あいつならここの場所も知っているのだし。いや実際、それが一番有り得そうな話じゃないか? かなり無理矢理な話だが、他に思いつかないし……というかそもそも、行地はどうやって生き残ったんだ? 確かに、この目で巨大な光の柱で掻き消される場面を見たのだ、あれでなぜ生きているんだ? というか、さっき神々が言っていた“彼”が行地だとは限らないじゃないか、神々は行地の顔を知らないのだから。いや、あの場に居たのは俺、行地、奈々乃、篤木だけだから、俺と篤木を抜けば“彼”は行地のことを指し示すはずだが。とにかく、この後すぐにでも救護室に向かい、ちゃんと自分で行地の無事な姿を確認するまで安心は出来ないな。
ううん、謎だ。俺達はあの場で、確かに瀕死の壊滅状態に陥っていた。放っておけば命は無かっただろう、だから誰かの手によって助けられたはずなんだ。神々は、“いや。ボク達は玄関で寝ている君達を介抱しただけだよ”と言っていたし、じゃあ誰だ? それとも個人ではなく、何らかの団体の仕業か? 俺と行地、篤木の三人を運ばなければならないのだから、一人というのは考えにくいからな。学園、の仕業だとした、普通に学園の病棟か学園外の大病院に連れて行かれる。というか、なぜわざわざ“ここ”まで運ばれたんだ? なぜ“ここ”なんだ? 治療するのが目的なら、普通に病棟か学園外の病院に連れていけばいいのに、それが出来ない理由でもあったのか? 俺達が学園の手に渡ったら困るからか? それとも“そいつ”は、学園とも敵対関係にあったからか?
まあ、今のままではどれだけ知恵を絞ったところで答えは出て来ない、か。
で、そもそも『烏合の衆』とは何なのか、という話だが。
神々に聞いてみたところによると、
「ふむ。……君は、この世界の仕組みをどこまで把握し、理解出来ているんだい?」
「この世界の、仕組み?」
「うん。そうだ、この世界の仕組みだよ。人々は何を導に道を歩んでいるのか、国々は何を目的に争っているのか、我々は何を犠牲に生きているのか。考えたことは無いかい?」
「漠然とし過ぎて何が言いたいのか分かんねえな」
「ふむ。それじゃあ、聞き方を変えよう。君は、今の世界情勢をどれだけ把握している? 良人君、君の知る世界の情勢はどんなものだい?」
「どんなものか、って……」
「国と国との大まかな関係とか、世間の一般常識とか、政治や軍事の雲行きとか。言わば“世界観”、のようなものかな。それを具体的に言ってみてくれ。君の知っている世界情勢、だ。小中学校で習う世界史の授業程度のことでいいんだ」
「よく分からんが……。“この世界には、主に五つの大国と一つの連邦が存在する”……みたいなことでいいのか?」
「そう。それだ、続けて」
それから俺は、神々に、自分の知っている世界の常識、誰もが知っている歴史の基本的な知識を披露した。まるで、この世界を物語に見立て、その“世界観”を坦々と説明する語り手か何かのように。
この世界には主に、五つの大国と一つの連邦が存在する。
『東経済大国』、『西資本主義大国』、『北軍事大国』、『南中立国同盟』、『教会自治国家』の五ヵ国と、それら各国から様々な種族、立場の人間が集まり、世界を統制しているのが、世界の中心に位置する『中央連邦』である。
俺達異能力者見習いが通う“神屠学園”は、この『中央連邦』の中心よりやや南東の辺りに存在している。『中央連邦』を統べる政府勢である“世界政府”が誇る、世界最大最高峰の異能力者研究兼育成機関が、ここ神屠学園だ。毎年約一万人にも及ぶ、政府御用達の許可証を所持する“正式な異能力者”を排出している。一万人、これは驚異的な数字だ。この学園の毎年の卒業者が約四万人だから、そのおよそ四分の一の人間が“異能力者”として世界に進出しているということだ。
神屠学園が設立したのは二十年前、つまり念粒子の実用化から四十年後であり、それまで各国にいくつか存在していた“異能力者育成機関”では、卒業生三十人の内、一人“異能力者ライセンス”を取得出来るかどうかというのが常識だった。三十分の一以下だから、異能力者ライセンス取得率は三パーセント前後といったところだ。それがどうだ、神屠学園は、初の大学部最高学年卒業の際(小等部から数えて大学部まで、十六年の学業を修めなければ異能力者ライセンス取得試験は受けられない)、三パーセントの八倍である二十五パーセントものライセンス取得率を叩き出したのだ。それからというもの、神屠学園の知名度は鰻上り、世界中から大勢の入学生が集まるようになり、現在では、学園内全五十学区の総生徒数が六十万人、総人口が百万人の超巨大学園にまで発展した。生徒数が爆発的なまでに増加したというのに、未だ異能力者合格率が落ちていないのだから大したものである。
で、神屠学園を卒業し、正式な異能力者になった者の大半が“世界政府”率いる軍部の手に渡る。神屠学園はそれが目的で作られた機関なのだから当然である。だから俺達は、戦闘を基本とした異能力訓練を受けるのだ。当たり前だ、何の意味も無く戦力を与えるほど馬鹿な教育機関がどこにある、“神屠学園”以外の、全世界に存在している数多くの異能力者研究兼育成機関でも神屠学園と同じコンセプトで異能力者が育成されているのだ。言ってしまえば異能力者とは、異能力を自由自在に操る軍事兵器の総称である。確かに、軍部に属さない、戦闘を専門としない異能力者も居るし、そういった能力者を専門に教育する異能力育成機関もあるにはあるが、この戦乱の時代だ、ほとんど需要が無い。
そう、戦乱の時代だ。
六十年前、念粒子が発見され、実用化されたと共に、世界情勢は荒れに荒れた。五ヶ国一連邦が、それぞれ独自の異能力研究をし始めたのだ。これだけ絶大なエネルギーが存在するのだから、必然、銃器や兵器の性能だって大幅に向上させることが出来る。異能力者という、強力な部隊を組織することも出来る。政府や軍部がこれに気付かないはずがない。念粒子は、人間が扱うには“都合が良過ぎるエネルギー”だったのだ。みるみる内に、五ヶ国一連邦は念粒子と異能力の研究を進めていった、進めざるを得なかった。まずはじめに、北に位置する『北軍事大国』がどこの国よりも迅速に、的確に、念粒子と異能力の軍用化を実行した。六十年前までは、ただの小国に過ぎなかったノヴグランが『北軍事大国』と呼ばれるまでに発展したのは、そのためである。いつの世も、先手を取った者ほど多くの利益を得られるのだから。
そもそも、世が戦乱の時代に陥った原因は、この『北軍事大国』にあると言っても過言ではない。何の理由も無しに、わざわざ平和な世を崩してまで国土の奪い合いをするほど、各国の首脳陣は愚かではない。賢かったからこそ、平和な時代が続いていたのだ。だが、『北軍事大国』が異常なまでの速度で念粒子と能力者の開発により、軍事力を高めたおかげで、各国もそれに対抗しうる巨大な軍事力を持たなければならなくなった。数百年前、“核爆弾”と呼ばれる強大な兵器により、大国同士が冷戦状態に陥ったことがあるというが、まさにそれである。強大過ぎる力には、同じ強大過ぎる力でもって対抗しなければ、国を守ることが出来ない。それから十数年、現在に至るまで、各地で小規模な戦争、紛争を勃発させながらも、決して総力戦は行わない、非情に危うい世界情勢が続いている――――、
「――――とまあ、こんなところか?」
こんなんで良かったのだろうか。神々の返事を待つ。
「うん。そうだね、的確な答えだ。それじゃあ、その世界全体の軍事力増強や、念粒子技術の発展の裏側は? 異能力者育成の本質は? 異能力の実態は? “その辺”の事情はどれぐらい知っているんだい?」
「……何が言いたい?」
「ふむ。とぼけなくていいよ、君は知っているはずさ。神屠学園がなぜ、年に一万人もの異能力者を世に排出することが出来ているのか。そして、なぜ“そんなことまでして”神屠学園は――――世界政府は、異能力者を育て上げるのか、優秀な人材を育てるのに躍起になっているのか。知っているはずさ、血染めの無能力者『殺戮兵器』の君なら」
「――――」
「ふふ。良い目だ。軍部最強の無能力者と言われていただけのことはあ――――、」
ドンッ、
「――――どこで調べた? 誰から聞いた? お前は俺をどこまで知っている?」
ギリギリ、と。
その華奢な首を掴んだまま、神々を壁に叩き付ける。カエルのような呻き声を上げるが、俺は更に首を締め上げる。力の限り、へし折れる限界の力加減で握る。
「! っやめろです!」
それまで俺達のやりとりを傍観していた彦星が、後ろから鈍器のようなもので殴りつけてくる。例のファンシーなデザインの施されたリュックサックだ、こいつは屋内だろうがなんだろうが常にこれを持ち歩いている。
俺は神々の首を鷲掴みにしたまま、頭を力の限り後方へ振り、
「――――ず、頭突き!? 頭が砕けますよ!?」
ゴンッッ、
後頭部とリュックサックが激突する鈍い音。
ダラダラと溢れる血流。それからバカッ、と妙な音をたてるリュックサック。
「んなっ……鉄塊が頭蓋骨に負けた、です」
なんてもん仕込んでやがんだ。おかげで調度良く頭の血を減らせたが。
「……ゥ……ぎ……」
白目を向き、気を失っている神々の首を解放してやる。
――――しまった、俺としたことが。こんなつまらないことで。
「……っ、……ィ……」
泡を吹きながら、ぴくぴくと痙攣している神々。……やり過ぎた、これはどう考えても俺の浅慮だ。あれしきのことを言われたぐらいで何をカッとなってんだ、馬鹿か俺はっ。
「お、おい神々――――」
「あれ? お終い?」
思わず飛び退いてしまう。
今の今まで白目を向き気絶していたはずなのに、いきなり平然とした表情で目の前に立ってやがったのだ、悲鳴を上げなかっただけマシだ。
「むう。つまらないね、せっかくいいところまでいってたのに、あれで終わりかい。やるなら最後までやらなきゃ、男の子でしょ? ほら、こんな風に」
べき。
「……相変わらず悪趣味です」
彦星が、その光景から目を逸らし呟く。
ぼきべきばきばき。
神々のその行為に対し、俺は正真正銘、声も出なかった。
自分の首を、自分で折りやがったのだ。
「ゴフッ」
神々の口内からドクドクと溢れる血。どう見ても即死だ。だが神々は、その状態で更に首を前後左右に曲げる。終いには両手で頭を持ち、捻じ曲げ、――――千切る。
ボトッ、
床に落ちる首。先ほど神々の美しい顔があった場所には何もなく、首無しの身体が佇むばかり。
やがて首無しの身体が床に伏す。べちゃり、と。血の海。
立ち尽くす。
「なんだ……こいつ?」
出たのは、ただ一つの疑問だけだった。
「どう? 驚いた?」
「ぎゃっ!」
瞬きした瞬間、後ろ首をなぞる生暖かく湿った感触。
「ふふ。あっはっはっはっはっはっは、あははははは! いやー、良人君はなかなか筋がいいね。実に思い通りの反応をしてくれるから楽しくて仕方ないよ。あっはっはははは」
「は、はあ!?」
後ろを振り向く、とそこには神々の顔があった。顔。というか顔だけだった。首だけが中空に浮いていた。
バッ!
また振り返り、床に伏した首無し死体があった場所を見るが、そこには既に何も無い。
バッ!
再び振り返る。
今度は、元の姿の、首と身体が仲良くしている神々がニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべていた。
は、はあああ?
「ふふ。もう一度改めて自己紹介をしよう、ボクの名前は神々 鬼々。ただの――――」
神々は言う。
「――――ただの神さ」
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