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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
19/65

十六話

 目が覚めた時。

 俺は見知らぬ部屋のソファで寝かされていた。

「……」

 どこだ? ここ。

 ひとまず上体を起こそうとする、が、

「――――っつっ!」

 身体のあちこちから来る鋭い痛み。

 掛けられていた毛布をはいで見てみると、両肩、両腿、腹に包帯がぐるぐる巻きにされている。しかもよく見ると、包帯以外にはパンツしか穿いていないという、とてもアレな格好をしていた。

 寝起きのせいか、頭がボーっとして記憶が曖昧だ。

 大怪我、をして誰かに治療してもらったのだろうか? じゃあここは病院か? でもベットじゃなくてソファだぞ。それもかなりボロい。そもそも周囲の雰囲気は全く病室のそれではない。暗くてよく見えないが、床も壁も木製だ。

 なんというんだろうか、そう、まるで何かのアジトのような……。映画でこれっぽい場所を見かけたことがある。

「そう。ここはボクらのアジトだ、良人君」

 どこからか声が聞こえてくる。

 思考を読まれたことにより、俺の危機感は急上昇する。

「……誰だ?」

 相手の気配を察知しようと、集中力を高める。目を細め軽く部屋内を見回すが、人の影は無い。どこから声が聞こえたのかも分からない。

「いや。ボクは別に君の敵じゃない。身構えなくても大丈夫だよ」

 ソファの後ろから聞こえた。

 すぐさまそちらを向く、が。誰もいない。

「ふふ。素直な子だねえ」

 直後、首筋をなぞる生暖かい感触。柔らかく、湿った肌触り。

「~~~っ!?」

 思わず声になっていない声が出てしまう。わけも分からず、ほとんど反射的に振り返る。

「やあ。おはよう」

 そこには、柔らかい笑みに妖しい美しさを含んだ、年齢不詳の美女が佇んでいた。いや、年齢どころか性別もよく分からない。その妖艶な微笑みに、思わず美女と表現してしまったが。

 黒く滑らかな黒髪は、女性としては短く、男性としては少し長い。顔付きも、おそろしく整ってはいるのだが、どこか中性的な雰囲気だ。

 年齢不詳、性別不明の正体不明。

 十代と言われれば納得してしまうし、二十代と言われればそんな気もする。

 ただ、その異質さだけは一目で見て取れる。

 いっそ神秘的と言ってもいい、不思議な、不可思議な空気を携えた、謎の美人がそこに居た。

「な、な、んだ、……?」

 首筋に残留した感覚が、未だに意識から抜けない。噛みながら、曖昧な疑問を口にする。

 だが、俺の当惑などお構いなしに、


「うん。美味しい」

 肩の傷口を舐められた。


「っ!?」

 思わず、思い切り突き飛ばしてしまう。

「やん」

 謎の美人は、おどけたような声を出し、突き飛ばされるままに闇の中へと消えてしまう。

「ふふ。傷の具合を確かめただけなのに。若いねえ。――――くすくすくす」

 暗がりの底から、人を小ばかにしたような笑い声が漏れる。

「……」

 また、気配が消えた。

 痛みに耐えソファから立ち上がり、素早く部屋全体を、隅々まで見渡すが、声の主の姿はどこにもない。

「ああ。駄目だよ、あんまり動いちゃ。傷口が開いちゃうじゃないか」

 パチン。

 指を鳴らす音。

 ドサッ。

 次に、俺の身体がソファに倒れこむ音。

「――――っ! ……、……っ!」

 身体が動かなくなった、どころか口も微動だにしない。金縛りに遭ったような、どころではない、五体が乗っ取られてしまったかのような危機感に陥る。

 眼球と思考だけは縛られることなく働かせられるが、しかしそれはで意味が無い。

 他を動かす必要が無くなり、その分だけ無駄に研ぎ澄まされた視覚をフル稼働させるが、ただキョロキョロと眼球が右往左往するだけで何の足しにもならない。いくら抵抗しても、触覚が敏感になるばかりで、これからどうなってしまうのか、何をされるのかと恐怖心が増大していく。

「さて。それじゃあ、少し味見してみようかな」

 味見!?

 微かに、舌なめずりする音が聞こえてくる。

 続いて衣擦れの音。パサリと落ちる何か。音の方向に視線を向けると、レースがあしらわれた白い下着。どう見ても男物ではない。やがて、ぺたぺたと誰かが近寄って来る。足音は後ろからなので、そいつがどんな格好をしているのか確認出来ない。


 ……。

 これは、

 とてもまずい状況なのでは?


 ダラダラと、全身の毛穴から汗が溢れる。脳内にけたたましく響く警報。

 なんだろう、まずい。まずい。とってもまずい。

 唯一自由の利く眼がぐるぐる回る。思考もぐるぐる空回り。

「よいしょ」

 誰かが、俺を跨いで座る。よいしょじゃねえよ。

 そのまま抱きつかれる。

「抱き心地良好」

 助けてっ。誰か助けてっ。

「あむ」

 ――――あむ?


 ガブリッ。


 ――――ガブリ?


 ブチッ。


 ――――ぶち?


 ブシューッ、


 ――――ぶ、ぶしゅ?


 もっしゃもっしゃ。


 ――――もしゃ!?


「うん。美味しい」


 二の腕を食われた。


 ――――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


 心の中で、思い切り悲鳴を上げる。


◆◇◆◇


「ふむ。自己紹介がまだだったね。ボクの名前は、神々 鬼々(みかみ きき)。よろしく、良人君」

 恐怖の人喰人間こと神々 鬼々に、二の腕を食い千切られてから数分後。

 一昔前の白熱電球に明りが灯され、闇に包まれていた室内が照らされる。

 やはり、壁も天井も床も木で作られた木造建築。古びた様子は全く無く、むしろつい最近立てられたかのように真新しい。

 先ほどは、暗くてよく見えなかった部屋内が、ボロい白熱電球により、若干薄暗いが、十分に観察することが出来るようになった。

 今の世の中、これだけ純粋に木のみで造られた建造物も珍しい、というかこれはどう見ても不自然だ。自然物だけで構成されているくせに、不自然だ。何がって、“木材が使われていない”のだ、この部屋。木造建築なのに一切“木材”が使われていない。文だけ見ると矛盾しているようだが、実際にここがそうなのだから仕方が無い。どういうことかと言うと、つまり、“木材”ではなく“木”そのもので造られた建物たのだ。うーん、分かり辛いか? 言うなれば、横幅十メートルぐらいの巨木の中身をくり抜き、それをそのまま部屋の形にしたような感じだ。つまり、床にも壁にも、木材同士を繋ぎ合わせた線も跡も無い。部屋を構成している木々が、全て繋がった、一つの木で出来ているのだ。というか床に年輪あるし。

「……はあ」

 神々とやらの自己紹介に、適当な相槌を打つ。

 先ほどの“二の腕つまみ食い事件”もあり、ちょっと今の状況を飲み込みきれていない俺。

「まったく、困った人です。香苗が様子を見に来なかったら、あのまま無能力者さんを踊り食いするところだったですよ? 鬼々さん」

 なぜかこの場に居る小柄な同級生、彦星 香苗が、神々 鬼々を呆れた風に注意する。踊り食いって……。

「ふふ。ごめんごめん、良人君があまりにも美味しそうだったから、ついつまみ食いをしてしまったよ」

「そうやって鬼々さん、この前もせっかく捕まえた捕虜をこっそり食べやがったじゃないですかっ!」

「いや。半分は残しておくつもりだったんだ」

「どちらにしても死ぬです!」

「じゃあ。頭以外は残しておくつもりだったんだ」

「それも死ぬです!」

「むう。なんだい、言ってくれれば君にも分けてあげたのに」

「別に私が食べる分を残さなかったから怒っているわけじゃないです! ていうかいらねえです!」

「ふふ。元気だねえ」

「何を和んでんですか!?」

 二人のやり取りを、ただただ傍観する俺。人を食べたとか食べないとか、なんかすげえこと言ってるぞ、こいつら。

「無能力者さん、私をそんな目で見るなです! 私はこんな人喰鬼と違って人を食べたりはしねえですよ!?」

「……」

「そこで黙るなです!」

 さて。

 この部屋の中には今、三人の人間が居る。

 まず、今話していた彦星と、俺。そして神々。

 この謎の美人、神々がどういった人間なのかは未知数だが、彦星が居るということは、ここは例の謎の組織『烏合の衆(レジスタンス)』に関連する場所なのだろう、と思う。魔物の襲撃があった日、彦星が言っていた組織だ。まあ、少なくとも校舎内ではないよな、ここ。

 彦星といえば、いつも一緒に居る大柄なクラスメイト、篤木 圧土(あつぎ あづち)の姿が見当たらない。この前はどこで見たっけな、篤木……篤木……は確か、謎のキチガイ超能力者に身体を半分掻き消されて……それで、それで――――、


 ――――思い出した。


 思い出したっ!

 そうだ、俺は何を暢気にのんべんだらりと考察してんだ、そんな場合じゃないだろう!

 アイツはどうなった? あの腐れ右半身野郎はどこに行った?

 いや、……、違う、そこじゃない、そいつじゃない、あんなのどうだっていい、この場に居ないのならどうだっていい。

 今問題なのは行地と奈々乃だ。

 あいつらはどうなった?

 あの二人はどうなった!?

「ふむ。“彼”が心配かい? 良人君」

 見透かしたようなことを言う。

 彼、と言う単語に身体が反応し、俺は神々に掴み掛かる。

「あいつを――――行地を知っているのか? 行地はどこに居る、どうなったんだ! ここに居るのか!?」

「ふむ。行地君、っていうのかい。彼なら救護室で寝ているよ。彼と篤木君が運び込まれたことで、救護室は満席になっちゃったからね、仕方なく君にはそこのソファで寝かせていたんだ。一番傷の直りが良かったのも君だしね。驚いたよ、あれだけの怪我と出血をしておいて、これだけ早く動けるようになるんだから」

 その言葉に、行地が助かっていたという言葉に、安堵と虚脱感に包まれる。あの野郎、生きてやがったか。とことん悪運の強いやつだ、お互い。

 が、気を抜くのはまだ早い。

「奈々乃は? もう一人連れが居たはずだ!」

「? この拠点の前で倒れていたのは、君と篤木君、それと行地君だけだったよ?」

「っ――――」

 奈々乃は……、

 助かっていない?

 ……待て、冷静になれ俺。そうと決まったわけじゃないだろう、確かに掻き消されたと思っていた行地が生きていたのだ、奈々乃だって何だかんだで助かっているかも知れないだろう。いや、そうだ、きっと奈々乃は助かっているはずだっ。

 だから焦るな、取り乱すな。

 今、神々は何と言った? “この拠点の前に倒れていたのは、”と言ったか?

 それはつまり、

「ふむ。まあ、焦燥する気持ちも分かるけど、とりあえずはことの顛末を話そうじゃないか。今、君がどういった状況にあるのか、それを把握することが先決なんじゃないかい? ここがどこなのか、ボク達は何なのか、気にならないわけじゃないだろう?」

「……、ああ、少し頭を冷やそう。どうやら今のところ、お前らに敵意は無いみたいだからな」


◆◇◆◇



……中途半端ですみません。

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