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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
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十八話

 革命家集団『烏合の衆(レジスタンス)』。

 それは、世界各地に拠点を構え活動している、“世界を救う”ことを最たる目的とした組織なのだそうだ。

 世界を救う? ハッ、鼻で笑ってやるよ。独善的で偽善的、漠然としていて曖昧模糊、とても現実を見ているとは思えない、まるで子供の夢じゃないか。

「ふふ。その子供の夢を追い求める人間が、今や三万人以上いるんだよ? これからもっともっと増えるだろう」

「お前らにとっての救世が、誰にとっても救いになるとは限らないけどな」

「ふむ。否定は出来ないけどね、少なくともより多くの人間は救えるはずさ」

「森を見て木を見ずってやつだな。森が繁栄すればそれでいいのか。いやこの場合、自分達にとっての森が栄えればそれでいい、か」

「ふふ。豊かな森には豊かな木が育つものだよ」

「そもそも世界を救うってのは何だ? 世界がいつ救いを求めたんだ?」

「ふむ。世界とは、それ即ち民衆だよ。国が民衆で成り立っているのと同じで。そして、ボクらはね、誰に言われることもなく、自分達で考え、思い立ち、行動し、集ったんだ。それがいつの間にか手を取り合っていた。だから“烏合の衆”。この言葉は通常、悪い意味で捉えられるけれど、ボク達の認識は逆でね。多種多様な人間が、分け隔てなく手を取り合う集団って意味なんだ。組員としての素質さえあれば、後は何も問わない、経歴も所属も種族も何も。……勿論、それは君にも当てはまる」

「そう言って構成員を増やしたのか。まるで新興宗教の勧誘だな」

「うん。そのようなものなのかも知れない。だってボクは神なのだから」

「さっきも言ったが、お前の何が神だ? 首を取ったり人を食べたり、どっちかっつうと悪魔か何かだろ。いや、人外気取りの奇術師か」

「ふふ。タネが分からなければ、それは魔法と同じなんだよ。上手くやれば神の奇跡にだってなる」

「……自分でタネがあることを明かしてどうすんだよ。彦星、お前らのお仲間はこんなんばっかなのか?」

「鬼々さんは特別なんです。この人、仮にも『烏合の衆(レジスタンス)』のトップですから」

「こいつが? 三万人の人間を束ねてるのか? 世も末だな」

「そう。世が末だから僕らは立ち上がったんだ。それと彦星君、あんまり機密事項を気軽に喋らないでくれたまえ。ボクは一応、お忍びで来てるんだから」

「口が滑ったです。まあどうせ、そこの無能力者さんは何も喋りませんよ、彼の口の堅さは一級品、というか社交性の無さは一級品ですから」

「ふむ。そうは言ってもね、ボクらは彼の記憶を操作することは出来ないんだよ? 手出しするなって君が言っていたことじゃないか」

「本人を置いて話を進めるな。なんだ? 俺には手出し出来ないって」

 魔獣に襲われた際、奈々乃はこいつらのことを、というか魔獣に遭ったこと自体を覚えていなかった。記憶を消されたからだろう、だから都合が悪ければ俺の記憶も消せばいい。あの時も“記憶を消されて通常の生活に戻るか、記憶を消されずに『烏合の衆(レジスタンス)』に参入するか選べ”と彦星に言われた、例の白い少女の登場によってあやふやで終わってしまったが。というかどうして、彦星は今日に至るまで俺を放っておいたんだ? あれから接触が無かったからおかしいと思っていたのだが。

「……脅されてるんです、“白でも黒でもない無地(グレーホワイト)”に」

 またけったいな名前が出てきたな。

「それとも、時旅 葉って言った方が分かり易いです?」

 時旅。十五組の特待生。

 やはりあいつか、白でも黒でもない無地。何色か分からない、空白のような存在。

「あの女が関わってくると、どうして俺に手出しが出来ないんだ」

「だから言ってるじゃないですか、“白でも黒でもない無地(グレーホワイト)”に脅されてんです。あなたに手出しをするな、と。だから勧誘も記憶の操作も出来ません」

「うん。ちなみにボクらは、彼女が君達三人をここまで運んできたのだと推測しているんだ。おそらく、良人君に死なれちゃ困るんだろうね。この前、君、魔獣に襲われたでしょう? 彦星君が君を勧誘し損ねた、あの日。あれから君の経歴と彼女の身辺について調べて分かったんだけど、彼女の行動を辿ると必ず君がその中心に居ることが分かったんだ。どういう関係なんだい? ぜひともご教授願いたいところだけれど」

「はあ? 知らねえよ、俺はこの前あいつと会ったばかりなんだ。何で俺にちょっかい出すのかこっちが聞きたい。ていうかあいつが何なのかは知らないが、女一人に脅されて大人しく従ってるのか。大したことないんだな、『烏合の衆(レジスタンス)』ってやつは」

 ていうか何だ、時旅がここまで運んだのかよ。それならば姿を隠すのも無理は無い、あいつは“特待生”だからな、特待生は神屠学園の支配下だ。見たところ『烏合の衆(レジスタンス)』は学園と敵対関係にあるっぽいから、事情はどうあれ時旅もこいつらに姿を晒すのは避けたかったんだろう。

「ふむ。逆だ、彼女がとんでもなく常人離れしているんだよ。ボクらだって馬鹿じゃない、曲がりなりにも全員が一流の能力の使い手だ、彼女が動く度になんらかの対処ぐらいはしているよ。そのことごとくを、まるで予め知っていたかのように彼女は掻い潜るんだ。見たところ何か能力を発動しているわけでもないのに、素の生身でだよ。なにも彼女に脅されたことはこれが始めてじゃない、今までにも二、三回あったんだ。で、ボクらが彼女の言葉を無視して反抗したらね、いきなり幹部の首が飛んだのさ。だから、気付かれない程度に彼女の身辺調査や対処は出来ても、いざ脅されたとなったら迂闊には逆らえない」

「弱いのな、お前ら」

「ふふ。好きだよ、君のそういう態度。まあ、そこは弁解させてもらおう、散っていった彼らが浮かばれないからね。自分の組織の組員をいたずらに自慢するのはどうかと思うけどさ、『烏合の衆(レジスタンス)』の幹部は恐ろしく強いんだ。五人の幹部が居てね、その五人が五人とも超能力者だったんだよ」

 五人の超能力者。それは圧倒的な戦力だ、なにせ超能力者と呼ばれるほどの異能者は、神屠学園の一学区に一人居るかどうかなのだ。神屠学園には五十の学区があるが、学園中の超能力者を集めても五十人に満たない。それも、その五十人という数字ですら本来有り得ない数字であって、通常、超能力者というのは何千万人に一人居るか居ないかという割合なのだ、人口百万人の神屠学園に五十人もの超能力者が在籍しているのは、その魔術的なまでに効率的で非人道的な人体実験のたまものである。

「一瞬で超能力者の首を取ったってわけか。そりゃ確かに脅威だ」

「うん。一瞬で超能力者の首が落ちたんだ。北、東、西、南、中央、世界各地の拠点に居るはずの、“五人の超能力者の首が同時に”ね」

「……」

 とんでもねえ。

「ふう。おかげでボクらは存亡の危機を味わった。次、彼女に逆らい何をされるのかを考えたら、大人しく従っていた方が利口だろう。だから安心しなよ、絶対に君には手出しはしない。アジトの前で倒れていた君を治療したのも、彼女の脅威ゆえだ。彼女の“行動原理”らしき存在の君を見殺しにしたとなったら、今度こそ『烏合の衆(レジスタンス)』は壊滅しかねない」

 これから時旅の顔をまともに見れる気がしない。俺そんなやつに脅されたりしてたのか。

「まあ。ボクらに直接敵対しているわけでもないし、彼女の敵はボクらの敵と共通していることが多い、だからと言って友好的というわけでもないけれど。全くの未知さ」

「“白でも黒でもない無地”、か」

「うん。でもまあ彼女、状況によって能力の質が大幅に上下するらしい。神屠学園みたいな“多くの強い因果が集結している場所”なんかでは特に、ね」

 因果って……うさんくせえ。

「ふむ。それにしても、君らしくも無いね彦星君、口が滑っただなんて。別に困らないけれどね」

 先ほどの、“神々が『烏合の衆(レジスタンス)』のトップだ”ということを簡単に明かしたことを言っているのだろう。

「ふう。やはり篤木君が心配かな? どうだい、救護室まで見舞いに行ってみたら。彼が運び込まれてから一度も足を運んでいないじゃないか、君」

 彦星は無表情で答える。

「あんな雑兵一人に持ち合わせる感情はないです、何で私が見舞いなんかに行かないといけないですか。それに、私を置いて一人で勝手に敵を追跡して、それだけでも許しがたいのに、挙句返り討ちだなんて家来失格です。大失格です。あんな役立たずは早く死ねばいいです。使いものにならなくなるのなら、その前にちゃんと次の私の部下になる後見人を残してからにしろというもんです」

 重態人にここまでムチ打てるのもすげえな。

「へえ。そうか、確かにあいつは役立たずだった。せめて盾の役割ぐらいは果たしてもらいたかったが、木偶の坊で名高いクソの役にも立たない、ド役立たずの篤木だからな。あんなゲテモノ一匹に手も足も出なかったどころか、気が付いたら手も足も引っこ抜かれてる始末だ、あの半身消えた惨めでグロ気持ち悪い姿は今思い出しても笑いが止まらねえぜ、ぶははははは」


 バシッ。

 

「あぶね」

 顔面に彦星のリュックサックが飛来したため、咄嗟に右手で掴み抑える。鋼鉄が入っているという、アレだ。砕けていても固いものは固い、抑えたはいいが手がジンジンする。


「……ふうぅっ! ……うううううっ!!」


 だが本当に辛そうだったのは、右手に少なからずのダメージを負った俺ではなく、彦星の方だった。

 目端に雫を溜めながら、口を思い切り引き結んで堪えている。ぷるぷる震えていて面白い。

「ばあか、嘘に決まってんだろ。ほらそんなに心配ならさっさと行くぞ、救護室。俺も早く行地の間抜けぶりを拝みたいんだ」

「う、うううう、うう、うぇ、うえっ」

 今までずっと耐えていたのだろう、彦星の頬を大粒の涙が伝う。

 えづきながらも、コクコクと頷く。

「そんなわけで神々。救護室はどこだ?」

「……」

「何やってんだお前」

 床にしゃがみ込み震えている神々。

「……、あ、ああ気にしないでくれブフッ……救護室は部屋を出て廊下を右に進んだ突き当たりにあるブフッ、ふ、ふふ、ふふふ、大丈夫ボクは大丈夫だから構わず行ってくれ」

「あ、ああ。そうか」

「うん、それじゃボクはここで待ってるから、用が済んだらまたこの部屋に戻って来てくれたまえふふフフフフフフ」

「何笑ってんだ?」

「い、いや、何でもないけれどフフ、ひ、彦星君があまりにも分かり易いから、ふ、フフ、アハハハハハハハハハハぎゃばっ!?」

 ガンッ。

 神々の頭に命中する殺人リュックサック。

 倒れピクピク痙攣する神々。……なんかダラダラ赤い液体が床に広がってるけど大丈夫か?


「う、うぅ……悪趣味ですっ!!」


 拍子抜けな秘密組織もあったもんだ。




◆◇◆◇


 ――――くすくすくすくすくす。


 鬼神は笑う。

 見せ掛けの安寧に自らの身を投じ、その下らなさに浸る。


 ――――人間は面白いねえ。


 正義の革命家集団も、悪の人体実験学園も、世を統べる世界政府も、神に狂った教会教徒も、魔の蔓延るもう一つの世界も、天の上にある秩序に凍った世界も、外の世界も、全て下らない。

 下らない。

 何もかもが手の平の上。


 全ては“アレ”を蘇らせるための布石でしかない。


 何もかも、終幕の布石でしかない。


 

「くすくすくすくす」


◆◇◆◇


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