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演劇部!

2014年4月17日。


ブルルルルル。ブルルルルル。ブルルルルル。ベフゾドの携帯のアラームがテーブルの上で鳴り響き、彼はゆっくりと頭を上げ、目をこすって、口に手を当ててあくびをし、満足げな唸り声とともに上へ伸びをした。


それから、またしても、クルパチャの上にヒトデのように大の字になって寝転がっているマリナが目に入った。午前6時に聞こえる音は、彼女の柔らかないびきだけだった。彼はあたたかく彼女に微笑みかけ、ゆっくりと立ち上がって、彼女のクルパチャのところへ歩き、膝をついて座り、肩を軽く揺すった。「マリナああ…起きろ…学校が――」あくびをするために口を覆ったので、その続きは言葉にならなかった。彼は首を振った。「マリナ…スイートハート…」その声はあたたかく、眠そうで、まるで自分も学校に行きたくないかのように聞こえた。


兄とそっくりな寝ること大好き人間のマリナは、拒否するように唸り、寝返りを打った。「あと5分…ゾディクちゃん…」彼女は眠そうな声で言い返した。


ベフゾドは疲れ切ったため息をつき、ほとんど目を開けていられない状態で、またあくびをして、もう一度彼女を揺すった。「頼む…お前の先生は、もう一日だって許してくれないぞ…」彼は必死な声で言い返し、身をかがめて彼女の頬にキスをした。「これで目が覚めるかもな…」


マリナはすぐに、眠ったまま微笑み、ゆっくりと頭を上げて、目をこすった。唯一の保護者のそばで、想像を絶するほど安心して安全だと感じながら、半開きの、純粋なぬくもりの眼差しでベフゾドを見た。「おはよう…」


「おはよう…」ベフゾドは彼女の肩から手を下ろし、またあくびをしながら、ゆっくりと立ち上がって、差し出した手でマリナが立ち上がるのを助けた。「シャワーを浴びてこい、俺は朝食を作る…急げよ、いいな?俺もシャワーを浴びなきゃいけないんだ…」


マリナはため息をついて、ベフゾドの腰にぎゅっと抱きついた。「うん…でも、ゾディクちゃん、すごくあったかい…」それから、突然、眠たげな気づきで目を見開き、彼の目を見上げた。「ゾディクちゃんが暖房と暑い気温が嫌いなのって、自分自身があったかいから…?」彼女は、好奇心に満ちた柔らかい声で尋ねた。


「まあ、そうだな…」ベフゾドは面白がるような声で答えた。「俺は、いつもそんなふうに『あったかい』ままだった記憶がある…」それから、彼女の背中を何度かなでてから、ゆっくりと体を離した。「さあ、シャワーに行ってこい、あまり時間がないんだ…」彼は厳しく聞こえるようにしようとしたが、眠そうな声がそれを台無しにして、また彼はあくびをした。


マリナは優しい笑みで彼から体を引き、つま先立ちで背伸びをして、彼のぼさぼさの髪をなでた。「分かった…急ぐね…」そのあと、彼女は首を振って手を下ろし、ゆっくりした急がない足取りで浴室へ向かった。


ベフゾドは、マリナが浴室に入る音を聞いた瞬間、首を振って、眠気のため息をつき、キッチンへ行って目玉焼きを焼いた。


5分ほどして、ベフゾドは完全に目を覚まし、朝食を作る準備をしていたとき、突然誰かが電話をかけてきた。彼は素早く居間へ歩いて携帯を取り、話しながらキッチンへ戻った。


「もしもし?」ベフゾドは、無表情な声で尋ねた。


「ベフゾド!俺が着いたら、お前を、クソ殺してやるからな――」ベフゾドの父親が叫びはじめたところで、ベフゾドはすぐに通話を切り、番号をブロックして、疲れ切ったため息をついた。


『クソ野郎が…』ベフゾドは敵意を込めて独りごち、また首を振って、自分のアパートを知っているのは、自分とマリナのほかには、シズカだけだと自分に言い聞かせた。そして電子レンジが置いてあるテーブルに携帯を置いて、料理を続けた。


10分後…


マリナがようやく浴室から出てきて、髪を拭き、小さくあくびをしながら、大きいほうの引き出しのところへ歩いてドライヤーを掴んだ。彼女の鼻が、ベフゾドが彼女のために作った、揚げたてのおいしそうな卵の匂いをとらえたので、彼女は素早く髪を乾かし、二つのゆるいお団子を結び直し、新しいセーラー服に着替えて、キッチンへ歩いていき、プラスチックの椅子に座った。新鮮な卵の皿が、砂糖入りの紅茶のマグカップと一緒に、すぐにテーブルの彼女の側に置かれた。


「ボナペティ!」ベフゾドは遊び心いっぱいの声で宣言し、彼女の向かいの椅子に座って、自分の卵の皿を食べはじめた。


「おおお!」マリナは、興奮した表情ですぐに手を叩いた。「ありがとう、ゾディクちゃん!」彼女はあたたかい声で言い、フォークを手に取って最初の一口を食べ、すぐに純粋な幸福感で唸った。「んんん!すっごくおいしい!」


「それを聞けてうれしいよ」ベフゾドは、誇らしさに満ちた大きなニヤリ顔で言った。「さあ、食べちゃえ、ほら、でないと冷めるぞ」


「はーい!」


午前7時…


ベフゾドは自分の学校の制服に着替えていて、今はGTA4のミッションをクリアしている最中だった。一方マリナは、携帯をスクロールしていた。


「ゾディクちゃん」マリナが呼びかけた。「『Skype』ってなに?」


「インターネットが必要なメッセージアプリだ。うちにはWi-Fiがあるから、よかったらダウンロードしてもいいぞ」ベフゾドは、ノートパソコンに完全に集中したまま、落ち着いて答えた。


「ああ、分かった、やってみる!」マリナは言い、携帯でSkypeのダウンロードを開始した。


午前7時30分。


ベフゾドとマリナは、すでに完全に準備を終え、バッグを背負って、アパートの鍵を閉め、学校へ向かって歩いていた。ベフゾドは片手をポケットに入れていて、マリナは両手を横で楽しげに揺らしながら、何かのメロディを鼻歌で歌っていた。


「ゾディクちゃん!」マリナが突然、好奇心を込めて呼びかけた。


「ん?」ベフゾドは、同じ好奇心で眉を上げた。表情は完全に無表情だ。


「ゾディクちゃんの好きな歌とか、メロディって何?」マリナは、好奇心いっぱいの表情で尋ねた。


ベフゾドは、答える前に少しためらった。「えーっと…そうだな…最近は、HUNTER×HUNTERのオープニングがすごく気に入ってたけど、一番好きなのは、やっぱり『Faces』かな」


「え?その名前、初めて聞いた」マリナは困惑して、首をかしげた。


「あはは、ああ、分かってる、ちょっと忘れられた曲なんだ、『クリオ』っていうグループの曲だよ」ベフゾドは軽くくすくす笑って答えた。


それから、二人は赤信号で止まり、青に変わるのを待った。二人の隣には、小学生らしい背の低い少年が立っていた。深紅の短い髪に暗い瞳で、ひどく眠そうに見えた。


信号が青に変わっても、ベフゾドとマリナはすぐには踏み出さなかった。二人の癖で、いつも念のためもう一秒待って、猛スピードの車にぶつけられないことを確かめるのだ。だが、隣の少年は、あくびをして目を閉じたまま、すぐに横断歩道に踏み出して道を渡ろうとした。


突然、どこからともなく、無謀な運転をする大型トラックが現れ、どこかへ急いでいた。ベフゾドは、50ミリ秒の反応速度で、その少年がぶつけられそうなことをすぐに察知し、彼の襟首を全力で乱暴に掴んで引き戻した。襟が引き裂かれそうなほどだった。少年は床に強く倒れ込み、角の向こうに消えていったトラックを、かろうじてかわした。


「お前、クソ正気か!?」ベフゾドは、今やぱっちり目を覚まして怯えている少年に、すぐさま叫んだ。「次からは、ちゃんと道を見ろ!」


「な、何が起きたの!?」少年は困惑とショックであたりを見回し、素早く立ち上がり、交差点を走って渡り、角の向こうに消えていった。


マリナは、スポーツを一切やらない、反応速度300ミリ秒の普通の子供として、目が白くて丸い輪っかになり、口が『お』の形になって、困惑しながらその光景を見つめていた。


だが、ベフゾドがたった今その少年の命を救ったのだと気づくと、彼女の目はすぐに純粋な誇りで見開かれ、頬がバラ色に染まった。「ゾディクちゃん!今、その子の命を救ったよ!」


ベフゾドもそれに気づくと、自分の目も驚きで見開いた。彼は首を振り、素早くマリナと一緒に道を渡った。その声は困惑している。「自分でも気づいてなかった…何かの反射だったんだと思うけど…?」


「ヒーローだよ!」マリナは宣言し、彼の手を掴んで、手の甲にキスをして、ぎゅっと抱きしめた。


ベフゾドはすぐに、恥ずかしさでうっすらと青白く赤面し、顔をそむけた。「あ、ありがとう…」


学校で…


ベフゾドは、真ん中の席で平和に座り、自分のことをしながらガラケーをスクロールしていた。一方クラスは、いつものドラマチックなことをしていたが、そのとき突然…


カナエ先生が、まるで何マイルも走ってきたかのように激しく息を切らし、汗をかき、ボサボサの結んでいない黄色い髪で教室に飛び込んできた。そして素早く教壇の位置につく。「みんな!今、コワル校長のクラスに参加してきたんだけど、校長が、このアンケートを書いてほしいって!」彼女は、ひどく疲れているのに、可能な限り熱意に満ちた声で言った。


ベフゾドが紙を受け取ると、アンケートには、『あなたが考える『ハイリスク・ハイリターン』な能力のコンセプトを書きなさい』という見出しがあった。


クラス全体が、ものすごく騒がしくなった。


キララは紙を掴んで、激しく赤面しながら、怒りに叫んだ。「誰がこんな質問に興味あるのよ!?別に、私にカッコいい能力があるとか、そういうわけじゃないんだから!」


ジンはすぐに、大げさに気高いポーズで両腕を上げ、紙を掴んでぐるぐると振り回した。「我が気高き心は祝福されている!最初から一つ考えていたのだ!」


アヤトは、最後列の後ろの席で、まだ鼻にひどく包帯を巻いたまま、すぐに狂気じみた笑い声を上げはじめた。「ついにだ!駒どもは、俺がどれほど本当に危険か、思い知るだろう――」


「アヤトくん、お願いだから、黙って」ミカサは、自分の紙に集中したまま答えた。その声は落ち着いているが、深く苛立っていた。


10分後…


ベフゾドは、HUNTER×HUNTERを見はじめてからずっと頭の中にあった、念能力のコンセプトを完全に書き終えたが、それをどの念系統にも当てはまらないように調整していた。彼の紙は次のような内容だった。


「名前:ベフゾド | 姓:シャフカトフ


能力名 ― ペイルブルー・アイズ。


使い魔の名前 ― POP。


ベフゾドの使い魔は、すべて膨らませた風船でできた、カラフルで大きな騎士で、通常の大きさは1.50メートルである。


ベフゾドは、騎士に一つの目標を課した ― 「必要なだけ時間をかけて構わないが、俺の人生を快適にし、あらゆる脅威から俺を守るのに十分な能力を、自分で作り上げてくれ」


そうして、騎士が一年で開発したのは、ほんの数個の能力だけである ―


1)「我が王の望み」。POPは、風船を望みの形や物体に作り変えることで、あらゆるものに変身する。騎士が自分を車、飛行機、ヘリコプターに変身させた場合は、ベフゾドのその日の生命力を燃料として使用する。


2)「3Dプリンター」。POPは、ベフゾド自身が望むものを、何でもベフゾドのために作り出すことができる。必要な代償は、ベフゾドが作りたいものの複雑さによって変わり、騎士は3Dプリンターのように働く(例えば、スプーンは1秒、携帯電話は3日間の待機が必要となり、条件として、騎士は作成中にモードを切り替えるために中断することはない)。見た目としては、騎士が巨大な膨らんだ3Dプリンターに変身するように見える。ただし、隠された条件がある ― 戦闘中にベフゾドが武器を求めた場合、どの武器をベフゾドに与えるかは騎士自身が決める、あるいは、ベフゾドは武器に値しないと判断することもある。武器の致死性の低さに応じて、騎士は主人を守れるように大きくなる。


3)「メロンガン」。騎士は、ベフゾドの念によって生み出されるスイカの種を発射することができる。見た目としては、騎士が膨らませた剣を、膨らませた機関銃に変身させ、皮膚に痣をつくるだけで貫通はしないスイカの種を発射する。


4)「魂の窃盗」。騎士は、自分自身がそう望めば、戦闘中に相手の魂を引き抜くことができ、相手の体を崩れ落ちさせる。見た目としては、騎士が巨大な膨らんだ手に変身し、人の魂(魂を象徴する、その人のシルエットにすぎない)を、その人の体から引き抜くように見える。これには、極めて重い条件が伴う ―


- ベフゾドは、相手が敗北を認めれば、30分以内に魂が戻ると、相手に伝えなければならない。もしベフゾドが、機会があり、黙っていることを強制されていなかったにもかかわらず、10秒以内に伝えなかった場合、魂はただちに相手に返され、騎士は、その特定の人物から、一か月間、魂を盗むことができなくなる。


- ベフゾドは、相手と身体的な接触をしなければならない。(騎士は、ベフゾドを守ることよりも、即座に魂を引き抜くことに完全に集中するため、ベフゾドは完全に無防備になる(防御手段がなければ))


- 相手が心から謝罪した場合(それは騎士が判断する)、(裏切りを防ぐため)魂は30分以内に返される。ただし、相手が謝罪しなかった場合は、念は16時間後に自動的に返される。


全般的な条件 ―


1)騎士自身は、自律した心を持ち、完全に意識がある。騎士は常にベフゾドを守り、常にベフゾドを楽しませ、ベフゾドを笑わせるために無害ないたずらをしかけたり、ドラマチックなポーズを取ったりすることができる。(道化師が王様にいたずらをするようなもの。)


2)騎士は常に陽気で無害だが、ベフゾドが極度の危険にさらされていると悟ったときには、極めて暴力的になり、その人物を昏睡状態になるまで殴ったり、殺したりすることもある。


3)ベフゾドまたはPOPが人を殺した場合、ペイルブルー・アイズは、その人の魂の総容量の100%を食らう。その記憶は、あらゆる知識、記憶、経験とともに、騎士のものとなる。これにはさらに、いくつかの代償が伴う ―


- 騎士は、その人の記憶、経験、知識のすべてを自分の心に取り込むので、オーラを消化するのに数日かかる。


- 消化している間、ベフゾド自身は、ひどい幻の腹痛に苦しむ。


- 消化している間、騎士は、殺した人物の言葉、経験などを使うことがある。例えば、騎士が突然別の言語を話しはじめることがあるが、それは『憑依されている』からではなく、頭の中で整理しているからである。


- 消化が終わったあと、ベフゾドは眠りに落ちるが、その時間は比率で測られる。ベフゾドが殺した男が30歳だった場合、ベフゾドは、夜に眠りについたときに、追加で30分間余分に眠る。


- 眠っている間も、騎士は、無防備な状態のベフゾドを誰にも殺されないように、活動を続ける。


5)騎士の脳は、彼が魂を食らった人々の脳であり、つまり、騎士はあらゆる記憶と知識を持っているが、さらに本を読み、ベフゾドが参加する戦闘に適応し、時間が経つにつれて新しい技術や能力を学ぶことができる。ただし、新しい能力の開発には代償が伴う ―


- 能力が多すぎる場合、新しい能力を作るには、騎士は古い能力のどれを削除するかを決めなければならない。能力の最大数は8個である。


- 能力の最大数を超えていない場合でも、新しい能力の開発は、より困難になる。例えば ― 騎士が能力を0個持っていて、最初の能力を一週間で作ったとすると、7個の能力を持っている場合、最後の一つを開発するのに3年かかる。


6)騎士は、ベフゾドの記憶、現在の感情の状態を見ることができ、一般的に、ベフゾドの考えていることを見ることができる。」


ベフゾドは紙をカナエ先生に渡し、先生はそれを、他の生徒たちの紙と一緒にフォルダーにしまった。「はい、みんな!校長のところに行かなきゃいけないから、すぐ戻るわ!」と言って、また廊下の向こうに消えていった。


「なあ、ジン!」ベフゾドは、先生がドアを閉めると、自分の席から呼びかけた。「どんな能力を作ったんだ?」


ジンはベフゾドのほうに首を向け、気高く微笑んだ。「おお、友よ!大したものではない!礼儀作法と立ち居振る舞いのしつけに関する、本当にささやかな能力だ!」


「いかにもお前らしいな」ベフゾドは遊び心のある声で返し、少し微笑んで、椅子の背にもたれて机の上で手を組んだ。「よし、どっちの能力が上か、そのうち分かるな」


5分後…


先生はまだ来なかったので、ベフゾドは携帯を取り出してスネークゲームをやりはじめたが、そのとき突然、紙飛行機が、彼の机の上にまっすぐ着地した。彼はゲームを一時停止し、困惑して目を細めて、飛行機を開いた。紙には、乱雑な漢字で書かれていた。「ハロー転校生、ゲームやる?ちなみに書いたのはコガネだよ」彼はコガネのほうに首を向けて、まだ困惑したまま、同意するようにうなずき、紙のほうに向き直って、さらに広げた。「やりたいなら、これが私のSteam ID:1331106000」ベフゾドはコガネのほうにまた首を向けて、もう一度うなずくと、家に帰ったときに彼女を追加するために、その紙を自分のバッグに突っ込んだ。


一秒後、先生が戻ってきた。「ふぅ!書類を渡してきたから、これでやっと自由よ!それと、シャフカトフくん」彼女は心配そうな目でベフゾドのほうを向いた。「校長先生が、あなたを呼んでるわ。生徒会室の向かいの部屋にいるの」


『校長!?』ベフゾドは目を見開いた。頭の中は、なぜ自分を呼んだのかについての最悪の想像でいっぱいになった。両親を殴ったからか、アヤトを殴ったからか、一日休んだからか?それでも、彼は立ち上がり、先生に礼儀正しくうなずいて、廊下を校長室へ向かった。窓からの光があまりにまぶしかったので、彼は物理的に目を覆わなければならなかった。


校長室に着くと、彼はドアを開け、大きな机の向こうに座っている太った男を見た。髪は黒い馬蹄形で、眼鏡が不透明になって目をすっかり覆い隠している。ベフゾドが来ると、校長のコワルはすぐにぱっと明るくなった。「おほほほほ!座りなさい、坊や、自分の家だと思ってくつろぐといい!」彼は軽くくすくす笑って、自分の向かいの肘掛け椅子を指さした。


ベフゾドは、ひどく困惑した。ロシアでは、たいてい、校長室に呼ばれるのは素行について話すためだったからだ。ロシアの校長に、そんな『あたたかい』人は一人もいなかった。それでも、彼は座り、拳に向かって咳払いをして、手を肘掛けに置いた。「何かご用でしょうか、コワル様?」彼は、いつもの礼儀正しくて友好的な声で尋ねた。


「用だと!?もちろんだとも!」コワルは興奮と面白さの混じった声で吠え、書類の山に手を入れて、一枚の紙を引き抜いた。ベフゾドの、『ハイリスク・ハイリターン』な能力のコンセプトに関するアンケートだった。「これだ!これを説明してくれ!高校のどの生徒も、君以上の創造性を持っていない!みんな、『どんなものでも斬れる剣』だとか、『誰かと目が合った瞬間に、私は永遠にその人を自分の領域に閉じ込める』だとかいう、バランス崩壊のクズばかりを提出してきたんだ!」彼は、誇張された、チートじみた能力を、指で引用符を作って示した。それから、突然ベフゾドの紙を掴んで、とんとんと叩いた。「だが、君の能力は『ハイリスク・ハイリターン』の傑作だ!騎士が意識を持っているという条件か?これが戦闘能力ですらなく、ただの本当に実用的な能力だという事実か?人を殺したら、腹痛に苦しむという条件か!?絶対的な傑作だ!」コワルは紙を投げ捨て、両手を上げて、狂ったように高笑いした。


一方、ベフゾドの表情は、妹がひどく混乱したときにするような『°o°』に変わっていた。それから、彼は首を振り、手を振って否定した。「いえ、いえ、ありがとうございます、そんなに難しくはありませんでした――」彼は、極めて謙虚で礼儀正しい声で言った。


コワルがついに狂人のような高笑いを止めると、彼は安堵のため息をつき、首を振った。「教えてくれ、ベフゾドくん、君はどの部活に所属しているんだ?」


ベフゾドは頬をかき、いつもの恥ずかしがり屋が出て、軽く赤面した。「…俺は、ほんの一、二か月前に転校してきたばかりで、まだどの部活にも入っていなくて――」


コワルの背後に、文字どおり稲妻が落ち、彼のあごはぽかんと開き、こめかみを汗の弾丸が転がり落ちた。彼は純粋な恐怖に息をのみ、身を乗り出した。「どこにも!?なぜ、もっと早く言わなかったんだ!?」


「入部が必須だとも、知りませんでしたので――」


「今すぐ直さねばならん!」コワルは突然、決意に満ちた声で宣言し、机の下に手を突っ込んで、三枚の用紙を引っ張り出した。「選びなさい、演劇部、武術部、それとも料理部だ?」


ベフゾドはずいぶんとためらい、目を細めて、それぞれの規則を読んだ。30秒ほど考え込むように唸ったあと、彼は演劇部の用紙をとんとんと叩き、コワルを見上げた。「これにします。俺は、ずっと、役者として演じてみたかったんです」


「素晴らしい選択だ、ベフゾドくん!」コワルは賛同して吠え、ベフゾドにジェルペンを渡した。「さあ、名前と、姓と、クラスを書くだけだ!」


ベフゾドは素早く用紙に記入し、用紙とペンをコワルに返して、立ち上がった。「もう、行ってもいいですか?」


コワルはすぐにうなずいた。「ああ、教室に戻りなさい!」と言って、去っていくベフゾドに手を振った。ベフゾドは、ドアを閉める前にもう一度丁寧にお辞儀をして、教室へ戻った。


放課後…


ベフゾドは、アパートの鍵をマリナに渡し、お腹が空いたら冷蔵庫のケーキを食べていいと伝えた。マリナが、なぜベフゾドは残るのかと尋ねると、彼は、部活に行く必要があるからだと答えた。マリナは驚いたが、ベフゾドを応援した。彼女も毎週木曜日にチェスクラブに通っていて、部活がどれほど疲れるものかを知っていたからだ。


マリナに別れを告げたあと、ベフゾドは地図を使って、演劇部を探した。5分ほどさまよったあと、ようやくそこにたどり着き、ゆっくりと安堵のため息をついて、中に入った。


中から見ると、演劇部は、奥にステージがある、巨大な部屋のようだった。部屋は、プロジェクターで全体が照らされていて、小道具、配線、衣装でひどく散らかっていた。一方、窓は、えんじ色のカーテンできちんと閉じられている。


部屋には、ベフゾドを含めて9人がいた。


マミという少女は、文字どおり虹色の短い髪に、ピンク色の瞳はハート型の瞳孔で、左腕には黄色いブレスレットをしていた。彼女は今、もう一人の少女、アイコと一緒に、ステージの照明を調整していた。アイコは、茶色の短い髪に、茶色の猫耳のヘッドバンドをつけ、明るい紫の瞳をしていた。二人とも、学校の制服を着ている。


「あはは!アイコ、気をつけて、プロジェクターを落とさないでね!」


「にゃあ~、保証はできないにゃ~」


ベフゾドはすぐには名乗り出ず、代わりに観客席の最後列に座って、みんなを観察した。


左を向くと、ロッカー風のジャケットを着て黒いサングラスをかけた五人の少年が見えた。レジー、ゴジョウ、ハルト、レン、そしてケンジだ。


レジーは、今まさにタバコを吸っている禿頭の少年で、ピンクのモヒカンのゴジョウに話しかけた。「よう、相棒、今日新入りが来るって聞いたぜ」


「ああ、ああ、聞いたぜ、ははっ!」ゴジョウは笑い声を上げ、マミにちらりと視線を向けてウインクした(マミは嫌悪で顔をそむけ、アイコは目を回した)。「そいつを部活からいじめ出してやったら、どんなにカッコいいか想像してみろよ!マジでさ、そいつが俺たちにラップしたいって言い出したらどうよ!」


ハルト(金髪を長いポニーテールにまとめている)、レン(まるで刑務所から出てきたばかりのような、できるかぎり短い赤毛)、そしてケンジ(ぼさぼさの黒髪)も、みんな笑いに加わった。


ベフゾドは正直、彼らを殴りたかったが、そのとき、背後から、優しく、それでいて悲しげな声が聞こえた。


「あの…」


ベフゾドが振り向くと、驚きに目を見開いた。数日前にぶつかった、あの白髪で、輝く黒い瞳をした、背の低い少女だった。身長は160センチほどで、彼の前に立っていた。「新入部員の、ベフゾドくん、ですか?」


「はい、そうです」ベフゾドは、落ち着いた優しい声で答え、席から立ち上がって、胸に手を当て、軽くお辞儀をした。「新入部員です」


「よかった、私はこの部の部長の、シズク・クロオです」彼女は、同じようにお辞儀をして告げたが、その声には、疑いようのない威厳がこもっていた。二人がお辞儀から体を起こすと、彼女はマミとアイコを指さした。「こちらが、マミ・イトウと、アイコ・ササキです」


「分かりました…」ベフゾドは、彼女たちが誰か理解したと知らせるように、うなずいた。


「そしてこちらが、レジー・イノウエ、ゴジョウ・ハヤシ、ケンジ・マツモト、レン・ヤマグチ、ハルト・コバヤシです」彼女は、部の残りのメンバーを示したが、その目は少し敵意を帯びていた。


「はい、分かりました、ありがとうございます」ベフゾドは、理解してうなずき、気を引き締めるために重くため息をついた。「俺の仕事は何で――」


「おい!」ゴジョウが、突然腕を組んで声を上げ、ベフゾドとシズクの両方の注意を引いた。「シズ、俺たちが開く予定のロック部に入るって話、ついに考えてくれたか?~」彼は遊び心のある声で言い、ほかのロッカーたちがげらげら笑った。


「いいえ、ゴジョウ、毎日、そのことについては黙りなさいって言ってるでしょう」シズクは、敵意に満ちた苛立った声で返した。だがそれから、彼女はベフゾドを見た。背が高く、細身で、無表情な顔と、少し虚ろな目をした彼の耳元に身を寄せた。「ねえ。あなたの最初の仕事は、私の彼氏のふりをすることよ」


ベフゾドはすぐに困惑して目を細めた。「何だよそれ?」赤面したり、主人公たちがよくやるくだらないことをしたりする代わりに、普通の人間なら、誰かのふりをするよう頼まれたら、すぐに困惑する。「なんで、俺が――」


『え、待って?』シズクは、突然困惑して止まり、目を見開いた。『断った!?…それって…意外…』だがそれから、彼女は首を振った。「お願い!あの人たち、本当にうざいの!」シズクは、祈るようなジェスチャーを見せるために両手を合わせ、頭を下げた。


ベフゾドは、ゴジョウたちを見た。彼らがどれほどクズかを悟った瞬間、彼のフェミニストな気質が一気に熱くなったので、彼はため息をついて、軽くうなずいた。「分かった」彼は、ためらいがちだが、決意のこもった声で言った。


「ありがとう」シズクはすぐに、あたたかく彼に微笑み、彼の隣に歩み出て、一緒にゴジョウたちのほうへ歩いていった。


さて、言っておくと、ベフゾドは、極端にキレていないときは、本当に恥ずかしがり屋で、強気に振る舞うことも嫌いなのだ。内面では、とても優しい人間だから。「おい、今、俺の女に対して、見下した口をきいてたのか?」彼は、作り物の威圧的な声で言った。


ゴジョウ、レジー、ハルト、ケンジ、レンは、彼のほうを向いた。怯えるどころか、大声で笑い出した。


「お前の女だと!?」ゴジョウは、わざとらしい衝撃で息をのんだ。その笑みは、歯でいっぱいだ。


「シズクは、お前よりも俺たちの誰かを選ぶに決まってる」ケンジは、さらに大きな笑い声で返し、膝を叩いた。


「俺を選ぶに決まってる、お前みたいなでかいヘタレじゃなくてな!」ハルトは、ケンジを支えにしてつかまりながら返した。


ベフゾドが、よく味つけされた罵倒をお見舞いしてやろうとした矢先、レンが突然口を開いた。


「おい!みんな!ラップバトルに誘おうぜ!」レンは、自分の『素晴らしい思いつき』に、面白さと興奮を込めて言った。「もしあいつが負けたら、部活を変えて、シズを俺たちに差し出す!もしあいつが勝ったら、俺たちは永遠に学校を去る!」


少年たちはすぐに、連帯の気持ちでお互いの手を叩き合い、ゴジョウはベフゾドのほうを向いた。「やるか、新入り?埼玉最高の『無敗』のラッパー全員に、本当に対応できるのか?」


「やる」ベフゾドは、1.3秒で答えたが、すぐに後悔して、シズクにすまなそうな視線を送った。彼女は、少し悲しげにため息をついた。


10分後…


『無敗』たちは別れた。全部で6ラウンド、各3分、ベフゾドは全員と休みなく戦うことになった。


第1ラウンド:ゴジョウと対戦。ベフゾドは何度もつっかえ、恥ずかしさで赤面し、負けた。(1:0)


第2ラウンド:ケンジと対戦。レジーとハルトが彼に向かってくすくす笑いはじめたとき、彼は、クソ本気で集中を極め、脳を完全にオーバーヒートさせて、日本のラップとそのフローに適応しようとした。ほかの連中は「お前には俺たちに勝てない」と挑発し、それがベフゾドの集中をさらに高めた。このラウンドもベフゾドの負けだったが、彼は基礎を理解した。(2:0)


第3ラウンド:レジーと対戦。ベフゾドは、今やラップのフローをマスターして、自信に満ち、陽気になり、大きく笑っていた。『無敗』の笑顔は消え、代わりに恐怖が浮かんでいた。このラウンドは勝った。(2:1)


第4ラウンド:ハルトと対戦。ベフゾドは、彼のフローにも適応し、同じように彼を打ち負かした。(2:2)


第5ラウンド:最強のラッパー、レンと対戦。彼はラップを完全に、すっかりマスターし、彼ら全員のフローに適応していた。ベフゾドが勝った。(2:3)


第6ラウンド:『無敗』たちは、ベフゾドが彼らのラップのすべてに適応していくという恐ろしい事実に、すでに汗をかいていたので、力を合わせて、ベフゾドを相手に5対1で挑むことにした。このラウンドは引き分けに終わった。(3:4)


試合は、正式に終了した。ベフゾドが勝った。


シズクは、口をぽかんと開け、目を見開き、静かだが驚いた声で言った。「どうやって…?」


「どうやって!?」ゴジョウは、マイクを床に投げつけて粉々に壊し、さらにその上で飛び跳ねた。一方、ほかの元『無敗』たちは、彼の背中をなでていた。


「ぷっ、ははははははは!」ベフゾドは、マイクに向かって大笑いした。「楽勝、楽勝、レモン絞り!さあ、家に帰って、二度と戻ってくるな!」


ゴジョウは泣き出し、両手で顔を覆いながら部活から走り去り、ほかのロッカーたちもそうした。


ベフゾドは安堵のため息をつき、マイクをスピーカーの上に置いてステージから飛び降り、シズクを見ると、落ち着いて、優しく、辛抱強い表情と声に戻って、シズクに話しかけた。「それで、俺は認められましたか?」


シズクは素早く首を振り、アイコとマミのほうを向いた。二人の目は白い輪っかになり、あごが床にぶつかっていた。「たぶん…そうね。でも、これで部員は、四人だけになっちゃったけど」


すると、アイコとマミは激しく首を振って立ち上がり、ベフゾドに90度でお辞儀をした。「あの人たちの重荷から私たちを解放してくれて、ありがとう、ベフゾドくん!」二人は、同時に、感謝を込めて言った。


ベフゾドはすぐに手を振って否定し、軽くくすくす笑った。「いいんだ、いいんだ」


「ありがとう…」シズクが突然言い、彼を見上げた。彼女は、微笑みながらかわいく首をかしげた。頬はバラ色で、その目は、もう輝く悲劇的なものではなく、代わりにあたたかくなっていた。「…あんな重荷から、私たちの部活を救ってくれて」


「どういたしまして」ベフゾドは、あたたかい笑みとともに親指を立てた。それから、手を下ろした。「でも、もう帰ってもいいですか?」


「ええ、ええ、もちろん。さようなら」シズクはすぐに答え、首を振って、『悲劇的』な目に戻り、彼に手を振った。


「バイバイ、ベフゾドくん!」マミは陽気に手を振り、目をうれしそうな三日月に細めた。


「にゃあ~、バイバイ、ベフゾドくん!」アイコは、両手を使って、さらに陽気に手を振って付け加えた。


ベフゾドは手を振り返して、部室を出た。


家で…


彼はシャワーを浴び、マリナにちゃんとした食事を食べさせ、自分とマリナの宿題をやり、GTAをプレイしていた。その間、マリナはテレビを見ていた。


時計が午後11時を指したとき、二人はお互いにおやすみを言った。


「おやすみ、ゾディクちゃん!」


「おやすみ、マリナ…」


――そして、眠りについた。ただ、ベフゾドは、シズクと、彼女の謎めいた横顔に、深く魅了されていたが、それについてはあまり深く考えず、眠りに落ちた。


つづく…

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