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スライムと暮らしてただけなのに、別の“魔王”を斬ることになった  作者: 桐原悠真


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第3話 優しい魔王の選択

森の奥は、やけに静かだった。


「はじめまして、魔王。俺はガイアスだ」


「あ……はじめまして、魔王です」


思っていたよりも、ずっと普通だった。


「よろしくね」


「ああ……よろしく。上級魔物に話は聞いた」


少しだけ間を置いて、俺はパンケーキを差し出す。


「魔王、パンケーキを持ってきたぞ」

「一緒に食べよう」


「え?」


魔王は、目を丸くした。


「このおいしそうなものは?」


「だから、パンケーキだ。俺が作った」


「……ありがとう」

少しだけ戸惑いながら、受け取る。

「こんなの、見たことないよ」


ふわりと、甘い香りが広がる。

魔王は、少しだけ目を細めた。


「こういうの、食べてみたかったんだ」


「……そうなのか」


「いただきます」


一口、食べる。

静かになる。


「……おいしい」

ぽつりと、そう言った。


「君は、お菓子職人になれるよ」


「いや、それほどでも」

少しだけ、照れる。


そのまま、魔王はもう一口食べた。


「……なんで、来てくれたの?」


「森が荒れてるって聞いたからな」


「……ああ」


魔王は、視線を落とした。


「ごめんね」


その一言が、やけに軽くて――重かった。


「僕は、魔王に向いてないのかなって思って……」


魔王は、ぽつりと呟いた。


「平和に暮らしたいんだ」


少しだけ間を置いて、言い直す。


「いや……魔物たちが、幸せに暮らせるようにしたいんだよ」


「……」


「でもね……うまくいかなくて」


小さく笑う。


「試薬は爆発するし」


「研究もしてるんだけど、なかなか形にならなくて」


「作物がうまく育つポーションとかも、作ってるんだけどさ」

「結構、簡単にできそうで――できないんだ」


「……そうか」

俺は、静かに頷いた。


「薬草の新種も、いい感じなんだけどね」

「あと少し、ってところで止まる」


「ああ……だから新しい薬草が増えてたのか」

「魔王がやってたんだな」


「うん」

少しだけ、嬉しそうに頷く。


「僕、薬草の開発が趣味なんだ」

「最近の、どうかな?」


「……結構、味はいいと思う」


「やっぱり?」

ぱっと、顔が明るくなる。


「味にもこだわったんだ」

「食べにくいと、小さい子が困るでしょ」

「大人だって、嫌だし」


「ああ……なるほど」

妙に納得した。


「効果も、それなりに出てる」

「ただ……持続力が、ちょっとな……」


「……ああ、やっぱり」

思わず、苦笑が漏れる。


「……悪くないと思うけどな」


魔王は、視線を落としたまま言った。

「僕が……みんなに迷惑をかけてるから」

少しだけ、間が空く。

「森が荒れてるんでしょ?」


「……」


「わかってるんだ」

声は、思っていたよりも静かだった。

「でも、うまくいかなくて……」

「スランプっていうか」


自嘲するように、少しだけ笑う。


「世界の破滅とか、そういうのは全然考えてないよ」

「そんなこと、したくない」


「ただ――」

小さく、息を吐く。

「森の平和くらいは、守りたかったんだ」


「人間界まで、ってなると……」

首を横に振る。

「そこまで大きなことは、僕にはできないと思ってるし」

「だから、できる範囲でやろうとしてるだけなんだ」


魔王は、少しだけ困ったように笑った。


「みんなは、賛同してくれてるんだ」

「でも……反対する人もいて」

「それで、少し変なことになっちゃってる」


指先で、皿の縁をなぞる。


「僕が、うまく仕切れてないからなんだと思うけど」

「……過激派、っていうのかな」

「森を、変な方向に持っていこうとするのがいるんだよ」

「少なくとも、僕はそんなこと望んでない」

「側近たちも、同じだ」


一度、言葉が途切れる。


「でも……止めきれなくて」

小さく、息を吐いた。


「それで、ストレスがたまっちゃって……」

魔王は、少しだけ言い淀んでから続けた。


「ただ……魔王としては、その過激派のトップをどうにかしないといけないって思ってる」


「でも……そこが問題なんだよ」

視線を落とす。


「ある程度の上級魔物は、そろそろ斬らないといけないとも思ってる」


「……」


「ただ」

少しだけ、声が弱くなる。

「そんなこと、何も考えてない家族もいるんだ」

「巻き込むことになる」

「でも……思想は引き継がれてるかもしれない」

「そう思うと、大掛かりにやるべきなのか……」

「それとも、とりあえずトップだけ斬って終わらせるべきか」

小さく、首を振る。

「だからといって、反対派を全部斬るのは――暴君だろう?」


「……」


「困るんだ」


ぽつりと、そう言った。


魔王は、少しだけ笑った。


「僕は――」

一拍、置く。

「暴君になってでも、森を守る義務があるからさ」


その言葉は、軽く聞こえた。


けれど――重かった。


「そろそろ、その決断をしないといけないと思ってる」

静かに、続ける。

「ある意味……過激派のトップの方が、魔王みたいなものだよ」

自嘲するように、少しだけ笑った。


「まずは、話せ」


魔王は、少しだけ目を伏せた。

「何度か……話し合いはしたんだ」

ぽつりと、言う。

「でも、その度に――過激になっていって」

指先が、わずかに震えた。

「正直……何人か、斬った」


「……」


「それでも、止まらない」

静かに、そう言った。


「……そうか」


少しだけ間を置く。


「なら、やるしかないな」


魔王は、静かに言った。

「……僕が駄目なら」

一拍、置く。

「僕を、斬ってほしいんだ」


「いや」

すぐに、答えた。

「魔王は、ちゃんとしてるだろう」


「……ありがとう」

小さく、笑う。

「そう言ってもらえるだけで、ありがたいよ」


少しだけ、間が空く。


俺は、剣に手をかけた。

「俺も手伝う」


「……え?」


「向こうの“魔王”を斬りに行くか」


一瞬、空気が止まった。


魔王は、驚いたように目を見開いた。


「……それ、本気で言ってる?」


「ああ」

迷いなく答える。

「放っておけば、もっと面倒になる」


一拍。


「なら、先に斬るだけだ」

静かに言った。


魔王は、しばらく何も言わなかった。


そして――

「……やっぱり、君に会ってよかった」

小さく、そう呟いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、魔王という存在の中身に触れる話になりました。


強さや恐ろしさではなく、

どう守るか、何を切り捨てるかで悩んでいる存在としての魔王です。


優しいだけでは守れないものがあって、

でも、どこまでなら許されるのかは誰にもわからない。


そんな中で、“選ばなければならない側”に立っているのが、今回の魔王でした。


そして、それを横で聞いていた主人公は――

違う形で答えを出そうとします。


同じ状況でも、選び方は人それぞれで。

そのズレが、次の結果に繋がっていきます。


このあと、その選択がどういう形になるのか。

よければ、最後まで見届けてもらえると嬉しいです。


ありがとうございました。

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