表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムと暮らしてただけなのに、別の“魔王”を斬ることになった  作者: 桐原悠真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第4話 斬ってしまった

静かに、言う。


「一緒に背負う」


魔王は、ゆっくりと首を横に振った。


「君が、背負う必要はないよ」


「……」


「でも――」

少しだけ、顔を上げる。

「頼っても、いいのかな」


「ああ」

俺は、頷いた。


「とりあえず――関わってるトップ層だけにしよう」


「……ああ」

魔王は、静かに頷いた。


「……場所はわかってる」

「案内するよ」


魔王と俺は、その場所に向かった。


そこには、すでに魔物たちが集まっていた。


「魔王様、来てくださったんですか!」


「やっと決めてくださったんですね!」


「世界征服の準備は整っています!」


「魔物の勢力を拡大して、平和の拡大を!」


――ざわっ。


熱量が、おかしい。


「……」


俺は、隣を見た。


魔王は、完全に固まっていた。


「いや、違うから」


「あのね……前から言ってるけど、世界征服はしないの」


魔王は、静かに言った。


「そんな物騒なこと言っても、何も変わらないでしょう」


少しだけ視線を落としてから、続ける。


「人間界は、人間界で色々あるんだよ」


「そんなこと言ってると――逆に、狩られる」


一拍。


「それでもいいの?」


「僕は、守りたいだけなんだ」


「世界征服を!」


「斬るよ」


空気が、一瞬で凍った。


「そ、そういうつもりじゃないんです……!」


慌てて手を振る。


「魔王様。魔王様の善意を、皆に示したいだけなんです」


「……」


魔王は、静かにため息をついた。


俺は、隣でそれを見ていた。


――何を見せられてるんだ、これは。


そりゃ、気苦労も絶えないわけだ。


――こいつ、一人で全部背負ってたのか。


俺は、止めに入った。


「魔王は、世界征服なんてしないで――この森で平和に暮らしたいだけなんじゃないのか?」


上級魔物が、ため息混じりに頷いた。


「あのね……それはそうなんですが」


「人間界が、結構狩ってくるんですよ」


「……ああ」


嫌な予感しかしない。


「ギルドとか、あるでしょう?」


「謎の冒険者気取りが、弱いモンスターを襲うんです」


「私たちも、正直困ってるんですよ」


「……いるな」


「いるな……」


思わず、同時に頷いた。


「あれか……」


上級魔物は、こくりと頷く。


「だからこそ、“森は立ち入り禁止です”って言いたいだけなんです」


「それで、標識も立てました」


「……標識?」


少し嫌な予感がした。


「入るな危険。この先にモンスターが幸せに暮らしてます、って」


「そういえば……最初に入ったとき、“入るな危険”って書いてあったな……」


「それですよ」


上級魔物が、こくりと頷く。


「あれで、結構減ったんですから」


「そうなのか?」


「一応、読んでくれる人もいるみたいで」


「……なるほど」


少しだけ、納得しかける。


「なのに、あのギルドときたら……」


上級魔物は、深くため息をついた。


「謎のモンスター狩りをするから、困るんです」


「薬草が欲しいなら、分けてあげるのに」


「勝手に採っていってくれ、って感じですよね」


「私たちは、邪魔しないし」


「……それな」


思わず、同意する。


一拍。


「狂わない限り、邪魔しない」


……その基準が、ちょっと怖いんだが。


「いや……歳をとると、たまに“バグる”魔物がいるんですよ」


上級魔物は、少しだけ言いにくそうに続けた。


「それが厄介でして」


「……ああ」


なんとなく、察した。


「普段は、そんなことをする連中じゃないんです」


「でも……ある日、急に」


一拍。


「頭がおかしくなって、狂気的になる」


「……」


「多分、斬ったことはあると思いますよ」


「そういうの」


「……ああ」


否定は、できなかった。


「それも、魔王様の薬草のおかげで、だいぶ減りました」


少しだけ、表情が柔らぐ。


「皆に迷惑は、かけたくないですから」


「安心してください」


――優しい世界ほど、壊れた時が厄介だ。


「たまったストレスが、さっきみたいになる可能性があるので」


上級魔物は、真面目な顔で続けた。


「皆で、適当に鬼ごっこしたりして発散するんですよ」


「……鬼ごっこ?」


思わず聞き返す。


「はい。モンスター界では推奨されてます」


「あなたも、やってるでしょう?」


「ああ……やってるな」


なんとなく頷く。


「健康的だよな」


「そうなんです」


満足そうに頷いた。


「これでも、色々研究してるんですよ」


「健康管理も、その一つです」


少しだけ胸を張る。


「我々、結構頑張ってるんですよ」


……やってること、完全に人間よりまともじゃないか?


魔王が、静かに口を開いた。


「森が平和なら、それでいいんだよね?」


一瞬、空気が止まる。


「……別に、私はそれで構いませんが」


上級魔物が、慎重に言葉を選ぶ。


「そのための世界征服だと、思っていたので」


「……違うよ」


魔王は、はっきりと言った。


「人間は人間で、あっちはあっちの世界だ」


「無理に関わる必要はない」


「……ああ、それならそれで」


上級魔物は、小さく頷いた。


「私は賛成です」


魔王は、ゆっくりと周囲を見渡す。


誰も、すぐには動かなかった。


俺は、魔王の隣に立った。


――こいつを、一人にはしない。


「じゃあ――」


一拍。


「世界征服を、絶対にやるべきだと思う人」


静かに告げる。


「手を挙げて」


何人か、手を挙げたやつがいた。


俺は、その顔を一人ずつ見た。


――こいつらか。


「ふうん」


「魔王は、世界征服しないって言ってるよな……」


「それで森を荒らしてるのは――お前らだろう」


「何考えてるんだ?」


何か言っていた。


言い訳か、正論か。


……どうでもよかった。


「うるさい」


一歩、踏み出す。


「……ガイアス」


魔王の声がした。


――止めなかった。


俺は、斬った。


静かだった。


血が、遅れて飛んだ。


「おい……ガイアス……」


魔王が、俺を見る。


――ああ。


「……そうかもな」


俺が、一番の暴君だったのかもしれない。


でも、それでいい。


俺が、全部背負う。


これで――森は、平和になるんだろう?


それでいい。


血が、頬を伝っていた。


魔王が、そっと拭った。


「ああ……」


少しだけ、息を吐く。


――俺こそ、魔王かもしれないな。


そして、俺は勇者になった。


何が勇者なのかは、わからない。


でも――


人間界では、そう呼ばれるんだろう。


やったことは、単純だ。


狂った連中を、斬っただけだ。


森は、静かになった。


全員が悪じゃないことも、知っている。


善意だったことも。


それでも――


仕方がないことは、ある。


……せめて。


斬られたこいつらが、


これで、解放されたのだと。


そう思わないと、やってられない。


「なあ、魔王。森の平和、頼むぞ」


「うん」


「ガイアス……」


その場にいた者たちが、何を思っていたのかは――わからない。


わからなくて、いいのかもしれない。


「魔王様……平和に暮らしましょう」


誰かが、ぽつりと呟いた。


「そうしよう」


魔王は、静かに頷いた。


「ガイアス。ありがとう」


その言葉に、俺は何も返さなかった。


――それでも、これでいい。


俺は、ルムのところに帰った。


「ただいま」


「おかえり」

今回の話まで読んでいただき、ありがとうございます。


ここまでで一つの区切りになります。

最初はただ森で暮らしていただけの話が、気づけば少しだけ重たいところまで来てしまいました。


魔王は優しくて、ちゃんと考えていて。

でも、それだけではどうにもならないこともあって。


じゃあ誰が決めるのか、誰が背負うのか。

その答えが、今回の形になっています。


正しいかどうかは、正直わかりません。

ただ、あの場で一番早く決断したのは、主人公だった、というだけです。


タイトルの「なぜか斬ってしまった」も、

少しだけ違う意味に見えていたら嬉しいです。


ここから先も、森の話は続いていきます。

よければ、もう少しだけ付き合ってもらえると嬉しいです。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ