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スライムと暮らしてただけなのに、別の“魔王”を斬ることになった  作者: 桐原悠真


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第2話 魔王はお菓子が食べたいらしい

俺は、上級魔物のところに行くことにした。


もちろん――話を聞きにだ。


上級魔物と、直接話をしたことはなかった。

どんなやつかも、知らない。


……話が通じる相手だといいが。


森の奥へ進むにつれて、空気が変わっていく。


静かで、重い。


やがて、そいつは姿を現した。


「……人間?」

低い声だった。


「話をしに来た」

俺は、それだけ言った。


しばらくの沈黙。


――通じなければ、斬るしかない。


そう思いかけたとき。


「……まあいい。聞くだけ聞いてやる」

意外な返事だった。


上級魔物は、思っていたより話が通じた。


全部がそうじゃない。

色んなやつがいる。

それでも――少なくとも、話ができない相手じゃなかった。


上級魔物は、困ったようにため息をついた。

「私たちも、苦労しているんですよ……」


「……何があった?」

思わず聞き返す。


「それがですね……」

少し言いにくそうにしてから、続ける。


「私たちは森の秩序のために動いているのですが……」

一拍。

「最近、魔王様のストレスが溜まっているようで」


「……は?」

思わず間の抜けた声が出た。


「……ストレス?」


「お菓子が食べたいと、言われまして……」


「……何言ってるんだ?」

理解が、追いつかない。


上級魔物は、真面目な顔で続ける。

「私たちも調達しようとは思ったのですが」

「人間界に出入りするのは、あまり望ましくなくてですね」

「別に揉めたいわけではないのです」


「……」


「なので、自分たちで作ろうとしたのですが」

深いため息。

「これが、なかなかうまくいかなくて」


俺は、しばらく言葉を失った。


奥の方では、何かが騒いでいる。

その光景を見ながら、ふと思い出した。


――母さんが作ってくれたもの。


「……パンケーキくらいなら、作れるけど」

気づけば、口にしていた。


「え?」


上級魔物が、身を乗り出してくる。


「それは、何ですか?」


「簡単なやつだ」


材料を借りて、作ってみせる。

小さいころ、何度も見ていた。

何度も食べていた。

体が、覚えていた。

甘い匂いが、ふわりと広がる。

周りの魔物たちが、手を止めてこちらを見ていた。

焼き上がったそれを、そっと皿に乗せる。


上級魔物たちは、それを口にして――

一瞬、固まった。


そして。

泣いた。


「うまい……」


「甘い……」


「こんなものが、この世に……」


なぜか、全員号泣だった。


「……そこまでか?」


少し引きながら聞くと、上級魔物はハッとしたように顔を上げた。


「すみません……ですが、実は他にも問題がありまして……」


「……まだあるのか」

思わず呟く。


「魔王様は、森の秩序のために研究もされているのです」


「魔王も考えてるのか」


「ええ。決して悪い方ではありません」


一拍。


「ただ……最近、試薬が爆発したらしく」

「それもあって、機嫌があまり良くないのです」


「……そうか」

もう、それ以上の言葉は出なかった。


上級魔物は、少しだけ目を伏せる。


「魔王様も、良くしようと頑張っているのです」

「ただ……どうにも、うまくいかないことが多くて」


静かな声だった。


「ですので……」

少しだけためらってから、続ける。

「魔王様の話を、聞いていただけませんか?」


「……なんで俺なんだ?」


上級魔物は、言いにくそうに答えた。

「私たちでは、もう話を聞いていただけないのです」


「新しい相手でないと……」


深く、頭を下げる。


「本当に、迷惑な話だとは思っておりますが……」


沈黙。


――どうする。

森の異変。

魔王のストレス。

全部、繋がっている気がした。


俺は、小さく息を吐いた。

「……わかった」

「一度、会ってみる」


上級魔物が、ほっとしたように息をつく。

「ありがとうございます」


俺は、焼き上がったパンケーキを見た。

まだ、温かい。


「これ、持っていく」


「はい……きっと、喜ばれます」


俺は、それを持ち上げた。

甘い匂いが、かすかに残っている。


――少しだけ、懐かしかった。


俺は、魔王に会いに行くことになった。

パンケーキを持って。


――話を聞くために。


……多分、それだけじゃ終わらない気がした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、森の異変の“原因”に少しだけ近づく話になりました。


強い存在や、恐ろしいものというよりも、

どこか人間くさい事情が積み重なって、少しずつ歪んでいく。


そんな空気を感じてもらえていたら嬉しいです。


魔王という存在も、まだ輪郭がはっきりしないままですが、

少なくとも「わかりやすい敵」ではなさそうです。


そして、パンケーキです。

なぜか泣かれましたが、あれはあれで真面目です。


この森は、優しい部分と面倒な部分が、わりと同時に存在しています。


次は、いよいよ魔王と対面です。

話で終わるのか、それとも別の形になるのか。


よければ、もう少しだけ見届けてもらえると嬉しいです。


ありがとうございました。

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