表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話:九条家の流儀

駅前のショッピングモールは、週末の賑わいとは裏腹に、異様な静寂と冷気に包まれていた。

一般客はすでに避難誘導され、建物の周囲には九条家が張った「とばり」が下ろされている。一般人の目には、ただの「臨時休業」にしか見えないはずだ。


「ひより、いいかい。お前は無理に前に出る必要はない。まずは俺と晴明の動きをよく見て、戦場の空気を知るんだ」


父・陣が、いつになく低い声で命じる。その手にはすでに、十枚以上のお札が扇状に広げられていた。

ショッピングモールの吹き抜けロビー。天井のガラス屋根から差し込む月光が、床一面を這い回る「澱み」を照らし出す。それは、数えきれないほどの低級妖――「這い出し」の群れだった。


「……数だけは一丁前だね。でも、九条の庭を荒らした報いは受けてもらうよ」


お兄ちゃん、晴明が冷徹に告げると同時に、その指先が踊った。


「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう! 炎陣、展開!」


お兄ちゃんが放り投げた数枚のお札が、空中で円を描くように配置される。次の瞬間、お札から噴き出した青白い業火が鎖のように繋がり、群がる妖たちを包囲した。

「這い出し」たちが悲鳴を上げて逃げ惑うが、お兄ちゃんの術からは逃げられない。彼は眼鏡の縁をクイと押し上げると、印を結んだ。


はぜろ」


一言。その言霊と共に、青い炎の円陣が内側に向かって爆発した。熱波が私の頬を掠める。けれど、建物には一切傷をつけず、妖の存在だけを焼き消す緻密なコントロール。これが「天才」と呼ばれるお兄ちゃんの、計算され尽くした祓いの術だ。


一方、父さんは対照的だった。


「おおおおおおっ!!」


気合一閃。父さんはお札を自らの両拳と両足の甲に貼り付けると、巨体を弾ませて妖の群れのど真ん中に飛び込んだ。

父さんの戦い方は「術」というより「武闘」に近い。けれど、私のような純粋な物理攻撃ではない。


「金剛・破邪突こんごう・はじゃとつ!」


父さんが拳を振るうたびに、貼り付けられたお札が黄金の閃光を放ち、衝撃波が周囲の妖を塵へと変えていく。回し蹴り一閃で、背後から迫った影を真っ二つに引き裂く。

父さんの動きは重戦車のようでありながら、その実、一挙手一投足にお札の守護と強化が組み込まれた、伝統的な「祓い屋」の完成形だった。


「……すごい」


私は圧倒されていた。

十年間、私はこの光景を「見ること」さえ許されなかった。父さんもお兄ちゃんも、こんなにも激しく、美しく戦っていたのだ。


「ほう……。九条の人間にしては、なかなか骨のある戦い方をする。特にあの巨漢、古風な強化術だが、練度は高いな」


私の背後で、白耀が腕を組んで品定めするように呟いた。その声には、少しだけ、本当に少しだけ、認めざるを得ないといった響きが混じっている。


「でも、きりがないよ! ほら、エスカレーターの奥からもっと出てくる!」


私の言葉通り、吹き抜けの二階から、さらに数が増した「這い出し」が雪崩のように落ちてくる。さすがの父さんとお兄ちゃんも、この物量には顔を顰めた。


「晴明、奥の『核』を叩くぞ! 雑魚は俺が引き受ける!」

「了解。父さん、三秒だけ道を空けて!」


二人のコンビネーションは完璧だった。

お兄ちゃんが道を作るための大規模な術を唱え始め、父さんがそれを守るために最前線で拳を振るう。

けれど、狡猾な妖の群れは、その隙を突こうと、横の通路から私――つまり一番「弱そうに見える」獲物へとターゲットを絞った。


「……あ」


数十匹の妖が、黒い波となって私に殺到する。


「ひよりっ!!」

父さんとお兄ちゃんの悲鳴のような叫びが響く。


「くくっ……。案ずるな、過保護な連中よ。……ひより、見せてやれ。お前の、そして我らの力を」


白耀の冷ややかな笑みが耳元で聞こえた瞬間、私の右拳に、爆辞するような神気が宿った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ