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第2話:十年の封印、解かれる時

商店街の賑やかな音が遠ざかり、入り込んだ路地裏は妙に冷ややかだった。

耳の奥で、シャン、と清らかな鈴の音が鳴る。


「……やっぱり、ここだ」


十年前、忽然と消えたはずの古ぼけた神社。

そこには、あの日と同じ石段が闇に浮かび上がっていた。吸い寄せられるように足を一歩踏み出すと、足首にまとわりつくような重い空気――霊気が、肌をチリチリと刺す。


石段を登り切った拝殿の前。

月光を背負って、それは鎮座していた。


雪のように輝く白い毛並みに、金色の瞳。

十年前よりもずっと大きく、神々しくなっているけれど、その優しい眼差しには見覚えがあった。


「……あ! あの時の、狐さん……?」


私が思わず声を上げると、その狐の背後から、ゆらゆらと九本の大きな尾が立ち上がった。一振りするだけで空気が震えるほどの圧倒的な存在感。

狐はふわりと宙を舞い、着地すると同時に眩い光に包まれた。光が収まった後、そこに立っていたのは、銀髪を後ろで緩く束ねた、人外の美しさを放つ青年だった。


「……遅かったな、ひより。待ちわびたぞ」


低く、けれど心の奥底まで響くような美しい声。


「いかにも。我が名は白耀びゃくよう。お前に命を救われ、この十年間、陰ながらお前を見守り続けてきた者だ」


白耀は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

私は後退りもできず、その圧倒的な存在感に見惚れていた。けれど、ふと疑問が口をついて出る。


「……見守ってたって、どういうこと? 私、あの日からずっと妖が見えなくなってたんだよ。お父さんやお兄ちゃんは今でも戦ってるのに、私だけ何も分からなくて……」


寂しかった、という言葉を飲み込む。

すると白耀は、愛おしそうに私の頬に手を添えた。


「それは、我がそうしていたからだ。お前の目を封じ、その霊的な気配を隠蔽していた」


「えっ……白耀が、私の目を?」


「そうだ。当時の我は傷つき、力を蓄える必要があった。我と深い縁を結んだお前の存在が他の妖に知れれば、奴らはお前を喰らい、我を誘い出す餌にしただろう。……お前が自らを守る力を得るまで、我は世界からお前を隠し、その影で害なす者共をすべて屠り続けてきたのだ」


彼の言葉に息を呑む。

私が見えなかったこの十年間の平和は、彼が人知れず守り抜いてくれた結果だったのだ。


「だが、お前も今日で十八。器は完成した。……もう、隠す必要はない」


白耀が私の額にそっと指先を触れる。

その瞬間、パリンッ、と頭の中で何かが砕ける音がした。


視界が、一気に極彩色に染まる。

今まで何もなかった境内の隅々に、うごめく影、空中を漂う光の粒、そして屋根の上でこちらを品定めするように見つめる異形の姿が、鮮明に浮かび上がった。


「っ……! 見える、全部見える……!」


「さあ、契約を交わそう。我はお前の力となり、お前は我の傍に。……二度と、その瞳を曇らせはしない」


白耀が差し出した手。

そこには、十年間の重すぎる執着と、確かな守護の意志が宿っていた。

私はその手を力強く握り返した。


「……わかった。私、もう守られるだけは嫌なんだ。白耀、私に力を貸して!」


これが、九条家の見えない末娘が、最強の物理系祓い屋へと変貌を遂げる、運命の瞬間だった。

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