ドール:イグナ・ヴァルカ
ぞわっとした感覚に思わず手を出してしまったという様子だが、ドールにとってこれはあり得ない行動だった。
使役人形は主に支配されている限り自由意志では動けない。
それが、今この白い何者かに触れられて、アイシャのドールが勝手に動き出したのだ。
それに気付いたドール:イグナ・ヴァルカは歓喜した。
「うぉぉ、なんだぁ?動けるぞ!? ぃやっほぉぉ!」
「ちょっと、待ちなさいよ。どうして勝手に動いてるのよ?!」
アイシャは焦ってドールに話しかけた。
ちらっと流し目で少女を見るヴァルカ。
「そういやぁ、仕返ししてやりたい奴がもう一人いたっけなぁ」
「ひぃっ!」
その目を見てアイシャが小さく悲鳴を上げる。
「主人に歯向かうって言うの?!いいわ、あんたなんか消してあげる」
強気な発言で相手を脅迫するが、顔が青ざめているのがよくわかる。
「こんの、クソガキがぁ。このヴァルカ様をさんざこき使ってくれたなぁ」
「どどどドールなんだから、当たり前じゃない。この、あたしが呼んであげたんだからね!あんたなんか、こっちに来ることも出来なかったんだから!」
ヴァルカは顔を引きつらせて言う。
「ああ、呼び出してくれたことには感謝してるさぁ。だがなぁ、日がな一日、あーしろ、こーしろ。お使いやら部屋のかたずけやら。。。私は召使いじゃねーぞ!」
ナージャがあきれて口を開く。
「なんとなぁ。精霊を使役するという意味をはき違えてりゃせんかのお」
「精霊ってもっと荘厳な感じじゃないでしたっけ?」
風の祠を思い出しミリーが聞く。
「まあ、もともと精霊に自我はないんじゃが、あれはあの娘の性格が基になったんじゃろうな」
(だから、がさつなのか。。。)
「「誰がだ!」」
俺は両方に突っ込まれてびくっとした。
「結局、あんた何者なのよ。こいつがこうなったのも、あんたのせいじゃないの?」
「だれがこいつよ、このガキ」
また、にらみ合う。
(あー、それでそこの、おっぱいと幼女はうちのアインから俺を取り合いたいんだっけか?」
キッ!と主人と従者が俺をにらむ。
俺は、胸を揉むしぐさで手をワキワキさせて挑発した。
「あああ、あんた、何するつもりよ!」
なぜか二人がシンクロして胸を守るように隠す。
仲良しかい。。。
アイシャが汚いものを見る目でいう。
「あんなのやっぱり欲しくない。。。なんかむかつく」
「ご主人、奇遇だな私も今無性にぶん殴りたいやつがいるんだが」
二人の敵意がこちらに向いた。
「白さぁぁん。。。」
アインがあきれて不服そうな声を上げる。
(このままじゃ収集つかないだろ)
俺はこの状況を収めるため、あえて敵になることにした。決しておっぱいの感触が忘れられずに言い間違えたわけではない。
幸いにして、客のほとんどは広間から避難している。
残っているのは仲間と執政官数人にカーラだけだ。
エラランが泣いて懇願する。
「お二人とも、お止めくださぁぁぃ」
フアラはケタケタ笑い、ゴージは興味深げに戦いの行方を見守る。
(来るぞ!)
「纏え!白霧!」
俺とアインは纏いを自在に行うための掛け声を予め決めていた。
俺の付けた名は、白霧の羽衣
新たに得た力を表す名前だ。
少年の体を透明な薄衣が幾重にも覆い隠す。
「はぁああ!」
ヴァルカの炎弾が俺たちに降りかかる。
大きな一発ではなく、無数の散弾を撃ってきた。
一つの威力は低くても足止めには十分な威力だ。
俺たちは火の雨を搔い潜り、ヴァルカの足元に迫る。
回転から一気に蹴りにつなげて、足を払う。
薙ぎ払ったと思った瞬間、手ごたえがないことに驚いた。
ドールの姿は消え、いつの間にか後ろにいたアイシャの傍らにいた。
「しまっ。。!」
予測のつかない動きについていけずに隙を作った。
ヴァルカの蹴りがアインを襲う。
「炎蹴!」
炎を纏った蹴撃が少年を焼く。
咄嗟に氷の盾を展開したが間に合わず、その勢いで砕かれた。
数メートル先まで吹き飛ばされる。
「へぇ、やるじゃん」
ヴァルカが称賛の声を上げる。
何とか炎は防げたが、蹴りのダメージはもろに食らった。
「アイン!」
仲間達がはらはらしながら見守る。加勢しようにも、武器は預けたままだった。
実体化した精霊の力は獣人と同等か、それ以上の膂力を持つように感じた。
「ぐぅ」
何とか立ち上がった少年は、どう戦うか頭を巡らす。
向こうは二人で位置を共有しているから、すぐに避けられてしまう。
こちらの攻撃は一方向だ。
だが方法はある。
(坊主、俺があのねぇちゃんを抑える。お前はあのクソガキをふん縛れ)
「わかった」
俺たちは攻撃に移ると見せかけ、ヴァルカの目の前で二手に分かれた。
一瞬どちらを追うか迷った隙に、俺はその豊かな胸に顔をうずめてしがみついた。
「ぎゃぁぁぁ!はなせぇぇぇ」
(行け!坊主!)
アインは、アイシャに向かって走り、勢い余って平手打ちを少女の頬に見舞った。
何が起こったかわからない顔をしていた少女が、頬の痛みに徐々に顔を歪ませる。
「び、びぇぇぇぇぇんんんん!」
「え?」
突然泣き出した少女にアインが呆然と立ちつくす。
「えぇぇぇん、いたぃぃぃ! わぁぁぁぁん!」
初めての痛みに心を乱し、幼い子供に戻ったように泣き出す。
ぼぉぉぉおおおおおお!
しがみついていたドールから勢いよく炎が上がった。
(わ、びっくりした)
思わず離れると、表情が消えて白目をむいたヴァルカが突っ立っている。
ドールの体から炎があふれ出し周りを焼き尽くす。
そして、広間は炎の地獄と化した。




