旅支度
姉妹についていった先は、街のはずれにある水車小屋だった。
「こっち」
姉の方が手招きする。
水車小屋の端に置いてある箱をずらすと、人一人が通れる穴が開いていた。
そこを通って中に入る。
ガッコン、ガッコン
水車が動く音がうるさい。
大きな箱が山積みにされていてその一角に人が暮らしている形跡がある。
「ねえ、君たちここに黙って暮らしてるの?」
「。。。」
図星か。
事情は察するに余りある。
親がいない孤児なのだろう。
「もう何も聞かないよ。一晩休ませてくれればいい。お礼もするから」
姉はほっとした様子で妹と一緒に隅に座った。
俺は寝床に横になって体を休ませた。
憑依していた体から抜けると、少年の体から寝息が聞こえてくる。
姉妹は何も言わずにじっとしている。
(何かするようなら俺が見てるし大丈夫だろう)
そのまま、夜を迎える。
姉妹は寄り添いながら眠りにつき、何かをする様子はない。
(てっきり、盗みでも働くかと思ったが何もなさそうだな。それにしても。。。)
こんな所に幼い姉妹だけで暮らすのには訳もあるんだろうけど。
どう考えても生活が楽には見えない姉妹に同情してしまう。
いかんいかん。
深入りする前にこの街を離れよう。
すべての不幸を抱えるには、俺の手は小さすぎる。
『立派な王様になってね』
ジルが最後に言った言葉を思い出す。
坊主が王になる頃には、こんな不幸な子たちは居なくなって、皆が幸せに暮らしているだろうか。。。。
夜明け前に坊主に憑依して小屋を抜け出す。
そこに、黄色の石を一つ残して。
。。。
睡眠を十分取ったおかげで、アインは元気を取り戻した。
朝市が始まる時間まで広間のベンチに腰を掛けていた。
「昨日、何かあったの?」
(何でもないよ、さあ出発の準備をするぞ。地図を探そうか)
「うん!」
朝の活気の中、坊主と俺は旅の準備を行うために走った。
小欠片1つで1日分の食料を手に入れることが出来た。
地図は中欠片一つで手に入れた。
それには詳細な道のりが描かれており、ここから王城へは一月程度はかかることが分かった。
氷の季節が本格的にやってくる時期だ。
防寒用に衣服を揃える必要がありそうだ。
朝食の弁当を食べながら、坊主に話す。
(なあ、意識があるまま交代することは出来るかな?)
「わかんないけど、試してみる」
俺が憑依するために近づくとスッと坊主の視点に変わった。
「なんか出来たみたいだな」
(本当だ、不思議な感じ)
初めて意識を保ったまま憑依した。
これなら、交渉の時に交代できそうだ。
坊主に取引をさせると路銀がいくらあっても足らない。
素直な性格が災いして、すぐに詐欺まがいの手口に引っかかってしまう。
(買い物のときは交代するからな)
「うん、わかった」
そうして、子供用の防寒着を一式揃え、背嚢も買って食料と一緒に詰め込む。
残りの路銀は僅かになったが、これで旅立てそうだ。
王城に向けて街の出口に向かうと、あの姉妹が見送りに来ていた。
「あ、ありがとう」
「?」
少年は見知らぬ少女に礼を言われて不思議に思う。
「やっぱり、何かあったの?」
(何でもないさ)
俺はあの姉妹に幸せが訪れることを密かに願っていた。




