再会
こぽっ
どこかわからない、どこでもない所に俺はいた。
いた、というのは正しくないか。
俺としての存在は限りなく希薄になり、そこに溶け込んでいた。
海の中で漂いそのまま溶けてしまったような。
何も無い。何も感じない。
こぽっ
泡がたつ。
微かで小さな泡が。
こぽっ こぽっ
少しずつ増えて集まって大きくなる。
その泡に真剣な顔の金髪の少年が映る。
。。。誰だっけ?
あ、
かつての誓いを思い出す。
ーーこの子をずっと守り続けよう
その言葉が、思いが、何でも無い自分が何者かを思い出させた。
泡が白く輝き出す。
。。。
山間の街道を一台の馬車が走る。
「なあ、婆さん。まだ連絡は来ないのか?」
御者台に腰掛けた青年が何度目かになる問いを口にする。
瞑想していた老婆が煩わしそうに答える。
「お前さんも辛抱が足らんのぉ。そんなに相方が心配か?」
「そ、そうじゃねぇよ。こんな魔物の巣窟に、子供二人が放り出されて心配してるんじゃねぇか」
慌てたように言う青年、カイルは図星をつかれて話を逸らすように仲間の安否を気遣った。
「そう心配せんでも、3人ともそれなりに経験を積んでおるんじゃ、死にゃあせんよ。。。ん?」
「どうした?」
「静かに。。。」
再び瞑想に入った老婆ナージャが、念話に集中する。
(お師匠様、やっと繋がった)
(ミリー、無事か?)
(はい、大丈夫です!みんなは元気ですか?)
(それが、合流できたのはお前が最初じゃ)
(。。。)
(とにかく、いまは無事を祈ろう。今いる場所を教えておくれ)
(はい、隠蔽を解いて10数えたら探信波を打ちます)
魔力探知から身を隠す魔法を解き、相手の位置を知り、こちらの位置を知らせる魔法を使う。
これは、魔物にも知らせることになるため短い時間に限られる。
ミリーが杖を地面にトンと打ちつけ力ある言葉を発した。
「精霊探信」
コォォォン
音ならざる波が周囲に反響する。
ナージャはミリーが発した波の発信源から位置を割り出し、虚空に立体的な地図を映し出した。
(よし、そちらの位置は把握した。そこから北に頂上が尖った山が見えるじゃろ)
(はい)
(そこを目指せ。街道に出るはずじゃからそこで合流しよう)
(わかりました)
念話を終了し、ミリーとの合流場所を目指す。
「お師匠さまぁぁぁ」
走り寄る愛弟子を迎えてほっと安心するナージャがいた。
「やれやれ、ようやく一人目か」
「後はアインとリタか。。。まったく、転送門でバラバラにはぐれるとはなぁ」
カイルが愚痴をこぼす。
「何かが干渉したようじゃったな。大方あやつのせいじゃろうが。。。」
「あぁ。。。あれね」
「あれって、あれですか」
3人とも、何かは分かっているが実際に見たことのない存在を思い出す。
「あやつが憑いていれば、小僧の方は心配なかろう。性質は善良なようじゃしな」
一度話しているナージャは心配はしていないようだ。
「。。。私は信用できません」
ミリーはまだ安心できない。
「いずれにしろ、城の方向に進むしかないんだ、いずれ会えることを信じようや」
カイルはミリーを元気づけるように言い、馬車を走らせた。
。。。
こぽっ こぽっ こぽっ
泡が集まって形になる。
俺は泳ぐように漂ううちに、元の形を取り戻していた。
坊主の戦う様子がはっきり分かる。
こちらの世界と、あちらの世界。
境界で分かたれた二つの世界に、俺と坊主がいる。
お互いに手を伸ばし境界越しにその手を握る。
俺は坊主に引っ張られるように、世界の壁を越えた。
(すまん、坊主。遅くなった)
急に周りの景色が鮮明になった。
目の前に黒い瘴気を出し続ける石がある。
これを何とかしないといけないと、とっさに感じた。
(坊主!それを取れ!)
はっきりと意思を伝えると、アインはその声を聞いた。
黒く汚れたその存在に触れると感情が流れ込んできた。
憎い、悔しい、哀しい、死にたくない。。。寂しい。
すべての感情を浄化する。
ーー後は、おれにまかせろ。もう苦しむことは無いんだ、眠れ。
黒い瘴気は収まり、石は白く色を失い砕けて虚空に消えた。
(坊主、ただいま)
「うん、おかえりなさい」
(え?聞こえるの?)
アインはそれには答えず、目の前の少女の嗚咽を聞いていた。
少女と別れたアインは、声に出して話しかけた。
「やっと話すことが出来たね」
(やっぱり聞こえてたのか。。。)
「うん!これまで助けてくれてありがとう。。。やっとお礼が言えた」
(ああ、うん、まあ。。。どういたしまして)
どぎまぎと、歯切れの悪い返答を返してしまった。
「これからも、よろしくお願いします」
(応、まかせろ!)
って言っても、ほぼ見てるだけなんだが。。。
初めて二人の意思が通じ合うことが出来た。
これからどんな困難が待ち構えていても、二人なら乗り越えられる。
そんな友情に似た何かを感じて、俺たちは旅を続けるのだった。




