脱出
洞窟の奥で男の声がする。
「あの少年はご指示通り幽閉しました」
「。。。」
「え?次の贄はあの少年ですと? いや、しかし。。。これで最後。。。」
複数の動揺が伝わる。
声はしないが、そこには相当数の村人がいた。
「それで、村が救われるなら。。。」
暗闇に、静寂が訪れた。
。。。
ジルは自宅でアインの帰りを待っていた。
「アイン、どこいったのよ。。。」
父親の様子を見に一人で家に戻ったその間に、少年は姿を消した。
そこにいた村人に行方を聞いたが誰も知らないという。
そのうちの一人は、もう関わらない方がいいといった。
どういう意味か問い詰めるも、ジルのためだからとしか答えてくれない。
明らかに、何人かは事情を知っている。そう感じた。
一体、この村に何が起きているのか。
ジルの知らない村の姿に、言いようのない不安に駆られる。
「じぃーるぅー」
今日も、またあの男が来た。
この男なら村の事情を知っているだろうか。
「ねぇ。あなたアインがどこにいるか知らない?」
いつもの弱気な表情が消えた少女に男は強い口調で言う。
「な、なんだ、し、知らねぇよ」
明らかに動揺を隠せていない男に詰め寄る。
「知ってるなら教えなさい」
「くっ。生意気だぞ!この売女が!」
少女はひるまず、その男の手を取る。
男は勘違いして、肩に手を回そうとする。
急にがくんと男が跪いた。
少女は生命の力を持つ精霊を宿していた。
それは人を癒すことができる力と知られていたが、逆に命を奪う性質もあった。
少女はそんな力を人に向けて使うことは一生ないと思っていた。
でも、今この力を使う時だと、アインのためにそう決心した。
男は徐々に生命力を失い、やせ細っていく。
「や、やめて、やめてくだ。。さい」
「アインがどこにいるか話しなさい」
「は、話すから、もうやめてくぇ」
男の生命が失われる前に手を放す。
男は床に這いつくばり、命乞いを続ける。
「た、たすけ、てくださぃ」
ジルは奪った生命力を話ができるようになるまで還す。
「あの子供は、今地下牢に捕まってる、ます」
怯えながら答える男にその場所を聞く。
「あなたは家に帰って、もう顔を見せないで」
恐怖でジルの顔を見ることもできず、男は逃げ出した。
「アイン、無事でいて」
夜の深い闇に向かって少女は駆けだした。
。。。
「?」
叫びすぎてぐったりしていたアインが外の喧騒に気づく。
だれかが、こちらに向かっている。
「アイン!」
「ジル?!」
「待ってて、すぐ開けるから」
「ジル、どうして」
ジルは泣きながら牢屋を開け、許しを請う。
「ごめん、ごめんねアイン。村の人たちが酷いことして」
「おおい!こっちだ、だれか倒れてるぞ!」
人が集まってきて外が騒がしい。
「こっち!」
ジルはアインを手招きして、牢の奥へ向かう。
「ここは、本当は牢なんかじゃなく物置なの。小さいときにかくれんぼでよく隠れるとき使った。。。あった」
ジルは奥の石を見て印を見つけた。
石を向こう側に押すと子供が通れるくらいの穴が現れた。
「ここから抜け出せる。先に出て」
アインを先に通らせ、ジルは懐から油を取り出した。
それを振りまき火をつける。
「火よ」
精霊に侵されていても、簡単な生活魔法であれば使える。
燃え上がった地下牢を後に、ジルも抜け穴から脱出した。
牢から煙が上がっていることに気づいた村人が殺到した。
「ここか!」
村人が扉を急に開けると、炎が噴き出し地下牢が吹き飛んだ。
急に扉を開けたことで、低酸素状態の密室に空気が流れ、一気に爆発的に燃焼する現象(
バックドラフト)が発生したためだ。
近くに居た村人は爆風に巻き込まれて倒れている。
ジルとアインは夜の闇に紛れて村を逃げ出した。
「何処に行くの?」
土地勘のないアインがジルに聞く。
「川の向こう側にある洞窟の先は、谷の上まで抜けているって聞いたことがある。あそこから出て村を出ましょう」
村の方を見ると、赤く燃え上がる建物が見える。
しばらくは追ってこられそうにない。
少年たちが向かうその洞窟は村人が集まって話していた場所だ。
そこに向かうということは、そこに巣くう何者かと対峙することになる。
二人はそんな危険に向かって進んでいるとは知らず、ぽっかりと空いた闇の咢へと入り込んでいくのだった。




