追記:ミリーの修行(その2)
ミリーがカーラに治癒魔法を教わるシーンです。
じゃららら
カーラが革袋から様々な色の宝珠を机に広げる。
こと。。こと。。
色ごとにより分けて、整理する。
「わぁ」
ミリーは大きさも色も違う宝珠に見惚れている。
「私たちの使う魔法は、宝石魔術と言って君ら魔術師の使うものとは系統が違う」
もともと魔力の元である精霊を体に宿すため、大きな魔法を使うことは、その身のみで容易に発現可能なのだそうだ。
「私たちは体に宿った精霊に縛られるため、使える魔法の性質が限られてしまう。たとえば私は火の性質が強いため、火の魔法以外は使えないというようにな」
そのために、他の性質の魔法は宝珠に頼ることになった。
「精霊核を集めているのはそういう理由なんですね」
「ああ、それもあるが、私たちの国では貨幣の代わりとしても扱われている」
大きな精霊核はそれなりの価値で取引されるということだ。
色のグループ分けを終えてカーラが言う。
「ここにあるもので、一つを除いては全ての色がそろっているので覚えておきなさい」
「一つ足りないんですか?」
ミリーは、ここにある以外の色の宝珠があることに興味を持った。
「ああ、だが、それはこれまで一つしか見つかっていないものだから考えなくていい」
「それはどんな色なんですか?」
「紫焔と伝説では伝わっている。王の剣に一つだけ納まっていたそうだ」
そう聞いて納得したミリーは改めて机の上の宝珠を見る。
色の濃いもの薄いもの、精霊色以外のものなど様々だ。
ふと気になったのでカーラに聞いてみた。
「白は無いんですね」
「ん?ああ、そうだな白い宝珠があるとは聞いたことが無い」
そういえば、気にしたことが無かったがなぜだろうと、カーラも不思議に思う。
黒の宝珠は机の端の方に離して置いてある。
「あの黒い宝珠だけ離しているのはなぜですか?」
カーラがミリーの質問に答えて話す。
「黒は特殊なんだ」
黒の宝珠は混沌竜という竜の精霊核だという。
通常、精霊核を持つ魔物は、他の精霊核を持つ魔物を襲わない。
しかし、混沌竜は好んで精霊核を持つ魔物を捕食する。
精霊核を持つものが他の精霊核を取り込むと、精霊核同士の色が交じり合うそうだ。
そうして、いくつもの精霊核が交じり合って、黒の精霊核が出来上がる。
「この宝珠は、他と違って魔力を放出せずに、逆に魔力を奪うんだ」
「え?それって危険なんじゃ。。。」
「こういうものにも使い道はあってね。。。君は精霊化が進んだらどうなるか知っているか?」
ミリーは、急に話題が変わったように感じた。
「いいえ?」
「精霊化が進むと、人は精霊そのものになって。。。いずれ消えてしまうんだ」
「えっ?!」
精霊とは、この世界の現象そのものであり、精霊化の先に待っているのは消滅だという。
「私たちは、それを「渡り」と呼び死と同じように受け入れてきた」
渡りの日を迎えた人は、姿を土塊に変えたり水や炎、風となって消えてゆく。
それは人としての死の迎え方ではなく、ただ消え去ってゆくのだという。
「黒の宝珠は、精霊化を抑えることが出来る。「渡り」の日を引き延ばす事も。。。私はお役目のため、出来るだけ長くこの姿を維持する必要があるので、この宝珠を与えられている」
カーラはそう言って黒の宝珠を大事そうに革袋にしまう。
あまり長く外に出すものではないのでと言って、奥の引き出しに片付けた。
「もう一つ、黒の宝珠を手に入れる方法もあるんだが。。。」
それは禁忌に触れるため教えられないという。
。。。
「では、基本から始める」
そうして、修行が始まった。
「まず、正しく宝珠を見分けることが必要だ。これとこれは同じものに見えるか?」
カーラは緑色の宝珠を2つ見せた。
「すこし、こちらのほうが青みが強く見えます」
鮮やかな緑色をしたものと比べ、それは淡い青竹色をしている。
「そうだ、これは土と水が混じったもので、生命の宝珠といい、これが治癒魔法の基になる。色の違いによって性質がまるで異なるので、正確に色を見分けることが重要だ。覚えておきなさい」
「はい!」
「つぎはこれだ」
カーラは透明な宝珠を取り出した。
「色がついてませんね?」
「この宝珠の特徴は、他の色の宝珠に似せることができることだ。やってみよう」
青い宝珠を取り出し近くに置く。するとみるみるうちに、透明な宝珠が青く色付いていった。離すと透明に戻っていく。
「不思議な現象ですね。この宝珠も貴重なものなんですか?」
「いや、これはありふれたものだ。精霊核が大きく育っていない幼生体から出てくるものだ」
これを使って、先ほどの土と水の宝珠を造ることができるとカーラが実演してくれた。
透明な宝珠を挟んで、水と、土の宝珠を近づけると、青と黄色に染まり始め、だんだん中心から緑色に染まっていく。
先ほど見た生命の宝珠の色になる。
そこで、カーラが力ある言葉を唱える。
「固形」
宝珠を離しても色は戻らず生命の宝珠がそこにあった。
「生命の宝珠は単体でも回復魔法の効果を上げる」
そう言い、カーラはナイフを取り出して腕に傷をつける。
「ひっ」
躊躇のなさに驚くミリー。
「宝珠を当てて、回復魔法を唱えてみなさい」
「はい」
ミリーは基本となる回復魔法を唱える。
「癒しを」
スッと傷が塞がり、元に戻った。
「早いです」
「そう、それに、これは患者の体力を奪わずに治療が出来る」
回復魔法は対象者の体力を使い、自然治癒力を高める魔法だ。
そのため、瀕死の状態では使うことができず、体力を奪うことで逆に死に至る危険がある。
「大きな治癒魔法はこの石を基準に他の石の性質を利用する。火傷なら水を、凍傷なら火という風に」
「土は欠損した部位を修復し、風は壊死した細胞を取り除く」
「アインに施したあれは?」
「坊ちゃんの場合、特に右腕の損傷が大きかったため再生を行った。あれは、体の破壊と修復を同時に行うことで、元の姿まで再生を繰り返す魔法だ」
あの時少年の体は、無事な部分が見た目よりもはるかに少なかったため、かなり危ない状態だった。
一度体を作り直す必要があって、あの魔法を使ったと言う。
再生を行うためには、ミリーの持つ中型竜の精霊核程ではないにしても、性質の異なる大きな宝珠を4つ必要とする。
それを東西南北に置き、生命の宝珠と他の小さな宝珠を、複雑なパズルを組み合わせるように配置する。
この組み合わせ方によって修復する個所や、損傷の回復具合を調整する。
そこに、技術や知識と経験がいるのだという。
「この組み合わせは数百にもなるが、系統立てて覚えればそう難しくはない。今日から勉強だな」
「はい、必ず覚えて見せます!」
気合の入った返事をするミリーを眩しく思い、技術のすべてを伝える準備を始めるカーラだった。




