追記:村長の息子
祖父の家から戻った翌日のシーンです。
アインは宿屋の近くの広場にいた。
ここは、祭りの準備で賑わう大広場と違い、中心部から離れているせいか人が居ない。
広場のベンチに座り、見上げると白磁の門がよく見えた。
ここから見上げる門はとても大きくて、自分がちっぽけに感じる。
アインはここ数日ふさぎ込んでいる。
実の祖父から叩きつけられた言葉が気になって落ち着かない。
「作られた子供かぁ。。。」
母のやさしさが嘘だったとは思えない。
でも、祖父が嘘を言っているようにも見えなかった。
ずっと言われたことを考えているが答えが出ない。
ベンチに座って下を向いたまま考えていると、子供が声をかけてきた。
「おい。。。そこ俺の場所」
いつの間にか目の前に、どこかで見たことのある男の子がいた。
見るとアインを指さして「ん」といいベンチを譲る様に主張している。
「あ、ごめん」
と言って、もう一人座れるように席をつめるアイン。
目の前の男の子は、すこし不服な顔をして隣に座る。
たしか、村長の家で会った男の子だ。
「前に、村長の所で会ったよね」
アインは記憶を確かめるために声をかけた。
「うん、俺はサム。お前は?」
「僕はアイン」
「アインはこの村の子じゃないよな。どうしてこの村に来たんだ?」
「お爺ちゃんに会いに。。。お父さんがこの村で育ったんだ」
「ふーん」
会話が途切れ、話題を振るためアインが口を開く。
「サムのお父さんはこの村の村長なんだよね?」
「そうだぞ。一番偉いんだ」
サムは誇らしげに自慢する。
「お父さん強そうだよね」
「わかるか?!父ちゃんはこの村で一番強くて一番カッコイイんだ」
そこから、サムの父親自慢が始まった。
闘技大会では無敗を誇ったことや、村の近くに出た魔獣を退治した話など。枚挙に暇がない。
自分の父親の自慢話がエスカレートしていって、だから自分も偉いんだと言い始めた。
「でも、それって村長が偉いんで、君が偉いんじゃないよね。。。」
実の祖父に拒絶されている自分と比べ、うらやましくて、つい意地悪を言ってしまった。
「。。。」
サムは気持ちよく話していた所に水を差されて、急に不機嫌になる。
「俺は村長の息子だぞ!偉いんだ!いずれこの村の村長にだってなるんだぞ!」
「それは違うよ。村長になれるかどうかは。。。」
「うるさい、うるさい、うるさい!よそ者のお前に何が分かるんだ!」
「っ?!」
「お前なんか大っ嫌いだぁ」
走り出して広場を出ようとするサムの前に3人の少年が立ちふさがる。
「っ!」
「よぉ、嘘つきサム。こんなとこで何やってんだよ」
一番体の大きい子が、サムを手で押して転ばせる。
「また、大ぼら吹いてたんだろ。お前みたいな弱っちいのが村長になんかなれるわけねーだろ」
取り巻きたちも笑ってバカにする。
サムは言い返さずに、へへっと卑屈に笑う。
どう見ても体格では勝てそうに無い相手に、立ち向かう勇気が出ない。
さらに手を出そうとするいじめっ子とサムの間に、アインがかばうように立つ。
「なんだ、こいつ」
いじめっ子をにらみ、仁王立ちするアイン。
どん!
「余計な事すんな!!」
立ち上がったサムがアインを突き倒し、そのまま逃げ出した。
助けに入ったはずなのに、逆に突き倒されたアインは、何が起こったのか分からずポカンとした。
気まずくなった3人組は「いこうぜ」と言ってその場を去っていった。
残されたアインは「なんなんだよ!」と怒りが込み上げてきて憤慨した。
サムは駆けながら泣いていた。
くやしくて。
なさけなくて。
自分にできないことを見ず知らずの少年がやってのけた。
そんな自分が恥ずかしい。
。。。
アインが、めずらしくぷりぷり怒って帰ってきた。
「どうした?」
カイルが物珍しいものでも見る様に聞いて来た。
「聞いてよ、カイル兄ぃ」
そうして、先ほどの事を話す。
「そうか、でもアインはそいつを助けたくてしたんだろ?」
「うん」
「なら結果的に、助けることが出来たじゃんか。それでいいんじゃないか?」
「。。。」
釈然としない少年だったが、礼を言われたくて助けたわけでは無いので、それもそうかと納得した。
。。。
闘技大会当日、サムは父親からあの少年が参加することを聞き、会場で観戦した。
いつも落ち込んだ時にあの公園に行く。
白磁の門がよく見えるあの場所はサムのお気に入りだった。
そこでたまたま出会った少年がどうなるか気になった。
すぐに逃げ出すと思った。
しかし予想は覆り、大きな対戦相手に怯まず果敢に闘う少年に驚くと共に、いつのまにか夢中になって応援していた。
昼休みになり、あの時のことを謝りたくて、話す機会を探していたが、あの惨劇が始まった。
サムは、逃げ惑う村人に隠れて、闘技会場の隅でアインとゴウライの戦いを覗いていた。
それは、さっきまでの大会とは比べ物にならない本気の闘いだった。
(なんで。。。あいつ、すげぇ)
サムはその場にいることの危険を忘れて、勝負に見入っていた。
カ、カカッ!!!ゴッゴォゥン!!
そして、戦いの余波を受けて吹き飛ばされ、そのまま気絶してしまった。
気がついたら、すべてが終わった後だった。
村の惨状を見て、サムは自分が生きていることが、偶然に過ぎないことに気づき身震いした。
。。。
村中で喧嘩が起こったあの日を境に、村の復旧がどんどん進んでいった。
サムは、あの広場に来ていた。
もしかすると、あの場所に少年がいるかもと思い足を運んだ。
すると、アインの前に例のいじめっ子3人組とその兄らしき男が居た。
「お前魔王の生まれ変わりなんだってな。親父たちが悪魔だって言ってたぞ」
あの喧嘩の後、大人たちは皆、アインの事を悪く言うことはなくなった。
この男は喧嘩に参加せず隠れていた卑怯者だ。
「。。。」
アインは男に言われたまま何も言い返さずにじっと耐えていた。
その、拳は握られて白くなっても、男の言葉に耐え続けている。
「翠脚鞭!!」
サムは見様見真似で蹴りを放った。
「うぉおぅ?!」
どさぁ
その不格好な蹴りは男の膝に入り、男をひっくり返す。
「なんだぁ!?あ?サムだ!」
「こいつなにすんだ!!やっちまえ!」
サムは泣き叫びながら、怯まずに立ち向かう。
「お前らにこいつを侮辱なんかさせないぞ! お前なんか村の喧嘩にも出てこなかった臆病者じゃないか!」
サムを囲んでいたいじめっ子たちが徐々に押されていく。
「うぉ、こいつ、噛みつきやが、いってええ」
「やべえ、いてえ、くそっ。行くぞ!」
しつこく喰らいつくサムに辟易して、いじめっ子たちは退散した。
助けられたアインは困惑している。
「君、なんで?」
「。。。謝ろうと思って」
アインは本気で自分を助けようとして、ぼろぼろになった少年を見て、涙があふれてきた。
「ぼろぼろじゃない。。へへ」
「なんだよ、お前が泣くなよぉ」
「だって、だってぇわぁぁぁぁぁぁん!」
サムは痛みを思い出し、アインの泣き声につられて自分も大声で泣きだす。
「わぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
お互いに、思いっきり泣いた後で話をした。
「そうか。もう行っちゃうのか」
「うん、みんなに迷惑かけちゃったからね」
サムは勇気をふり絞って言う。
「なあ、俺の友達になってくれないか」
「え?」
同じ年頃の子との交流が初めてのアインにとって、それは思いもよらない言葉だった。
「僕でよければ!」
そしてアインとサムは初めての友達になった。




