終焉の場所
床に魔法陣が浮かび上がり、一人の男が現れる。
クラークが予め設置しておいた転送陣を使って、巨大鎧の操縦室に転移してきた。
「ちっ、もう終わりかい」
ホークが、おもちゃを取り上げられた子供のような表情で男を見る。
「もう、十分楽しんだでしょう。楽しい遊びの時間も終わりですよ。お三方。」
「お前さんの方は準備できたのか?御曹司」
話している間にも、水温計から目を離さずにいるルイが確認する。
「その呼び方は、やめてくださいと言ったはずです」
憮然とした表情をするクラーク。
「間違いではなかろう?伝説の大魔術師ダネフの後継者なんじゃから」
フヒヒと笑いながら、主機の様子を監視するヤフーが指摘する。
三人はそれぞれ、彼と最初に会った時のことを思い出していた。
『あなた方は間違っている!僕は、祖先の名誉を守りたいんだ!』
まだ、十代の少年でしかなかったクラークが、すでに三賢者と呼ばれていた3人を前に堂々と主張した。
「あの時は、ずいぶん、鼻息の荒い小僧がやってきたもんだと呆れたわ」
ホークが懐かしさに目を細める。
「私も若かったですから。。。」
気恥ずかしさから言葉を濁すクラーク。
「それで?算段はついたんじゃろ?」
「やはり、ご存じでしたか。。。」
「儂らを誰じゃと思っとる、これで決着がつかんことくらい、とうに気付いておったわ」
ルイが、魔鋼グリッドの魔力供給量を調整しながら、「ふん」と鼻を鳴らす。
アリーシャの基本計画では、この戦いで全ての精霊が消滅し、原初にリセットされるはずだった。
だが、その後の計算を何度も繰り返した結果、一つだけ足りない要素が見つかった。
堰き止めていた精霊の襲来をどう止めるか?
壁の消失で精霊が通る道が閉ざされても、新たな道でやって来るのではないか。
これまで堰き止めてた分、その数がどれほどのものか想像もつかない。
「そもそも、壁が作られる前の道は塞がっておるんじゃろうな?」
ヤフーがバルブを閉じる手を休めずに聞く。
「それは問題ありません。ダネフの残した口伝では、壁以前のものは塞がっている事が確認されています」
それは、子孫に伝えられてきた言い伝えだった。
魔術師評議会は、それを千年の間に消失した。
「しかしのぉ、あの小賢しい娘がそれに気付かんかのぉ?儂は、まだあの娘に、何か隠されている気がしてならんのじゃ」
ホークは顔をしかめて考える。
「お主は、よく女に騙されておったからのぉ」
ルイが、からかい口調で軽口をたたき、ヤフーもフヒヒと笑っている。
「何度も検討を重ねて、これが由一の結論だったのは事実です。私たちに選択の余地はなかったでしょう。あの魔女の掌で踊ることになろうとも、その結末は私たちが創造ることはできます」
クラークの内心に祖先の名誉を回復する目的があっても、世界を救うという行動は称賛されるべきものだ。
「!!!」
急に操縦室全体が揺れ、クラークが慌てて手すりにしがみつく。
戦獣との力の押し合いでバランスを取っていたが、支えを失い体がぐらついた。
「おっと、始めるようじゃぞ。では、こちらも、応えようか。前よ後のことは頼むぞ」
ホークから役職名で呼ばれたクラークが身を引き締める。
「お三方、おさらば。。。」
転移魔法で消えるクラークを三人が見送る。
「来るぞ!魔力グリッド強制排出!魔鋼装甲緊急パージ!空間スライド始め!」
戦獣の突進を避けるために、ホークが緊急回避を指示すると、ルイとヤフーが慌てて操作盤に体を向ける。
全魔鋼の1%を犠牲にし、魔鋼グリッドから、魔力変換した膨大なエネルギーで空間を捻じ曲げ、その場から瞬時に移動した。
戦獣の拳は空を切り、バランスを崩してよたついている。
「続いて、全魔鋼グリッドから腕部収束機へ!魔力充填!」
ルイが魔鋼グリッド制御盤に指を走らせる。
全身にちりばめられた魔力が、腕に集まり光りだす。
「手部、指部、耐魔力障壁展開!魔力放出開始!形状維持魔法発動!」
手の先に魔力が集中し、剣の形に集まっていく。
「魔力充填80,100!。。120!励起状態を維持!」
光の剣が大きく成長し、まばゆい光で辺りを照らす。
「放て!終末の黎明刃!」
ホークが、決議レバーを前方へ思いっきり押し出すと、巨大鎧の腕が振り下ろされた。
両手で掲げもっていた巨大な光の剣が、自らも月弧の斬撃となって大地を割る。
光の斬撃は、その先に横たわる山脈の胴を切り裂いていた。
「さて、ここからは、どちらかが消滅するまでの戦いじゃ。派手に死に花を咲かせて見せるとしようか!!!!」
三人の老人が、ここを終の地に定めたのだった。




