二人の戦い
「アイン!おい!しっかりしろ!」
カイルが、気を失った少年の頬を叩いて呼びかけたが返事がない。
しばらく、目を覚ましそうにない。
そう判断したカイルは、安全な場所を探して移動した。
リタに先行してもらい、安全圏まで移動しようとしたその時、遠くから轟音が響いた。
ごごごごごごぉぉぉおおおおお!!!
その音が響くと同時に地面が揺れ、足場が崩れる。
音の元をたどり視線を向けると、遠く連なっていた山脈の一部が消えていた。
「無茶苦茶だ。。。」
驚きよりも呆れが増した言葉がこぼれる。
カイルは、この地に安全な場所などないことを、いまさらながら思い知らされた。
この不安定な足場で、少年を抱えたまま動き回るのは不利だ。
一旦、野営地の結界内にアインを運ぶことにした。
ゴウライに居場所を知られることになるが、ここに放置するよりは安全だ。
アインが目を覚ますまでの間は、二人で時間を稼ぐ。
リタに目配せしてすぐに行動に移った。
勝算は。。。無い。
だが、今あの男は新たに得た力に酔いしれている。
そこに活路を見出せるかもしれない。
黄金律を得たゴウライは無敵と言っても過言ではない。
しかし、初めて手に入れた力を使いこなすには、時間がかかるだろう。
どれほど強大な力も、使いこなせなければ枷になる。
そして、力を得た者は往々にし、それを試したくなるものだ。
戦士としての嗅覚がカイルに確信を持たせる。
他人から見れば、蜘蛛の糸を渡るようなか細い希望に過ぎない。
だが彼らはその一点に賭けた。
。。。
ゴウライはアインから奪った力に魅了されていた。
これまで修行で得た力とは、比べ物にならない可能性を感じた。
身体強化、防御力いずれも桁違いだ。
さらなる頂へと至るために、この力を我がものとする。
そのためには。。。
男は歩き始めた。
手にした力を、振るうにふさわしい敵を求めるその眼は、理性を失った獣のようだ。
同じ力を持つ少年の気配を探り歩みを進める。
しばらく歩くと、両腕を組んで立ちふさがる、男女の冒険者が現れた。
「お前たちだけか?」
ゴウライにとって二人は、敵に値しない存在としてその目に映っている。
「気持ちは分かるが付き合ってもらうぜ。肩慣らしにはちょうどいいだろう?」
カイルが低い声で言う。
自らを卑下した台詞だが、その眼は肉食獣のように獰猛な光を携えていた。
リタがスッと気配を殺すと、存在感が限りなく薄くなる。
路傍の石
以前、カーラが教団の潜入時に使った魔術だ。
見たものは目の前から人一人が消えたと感じたはずだ。
しかし、ゴウライは豪胆にも眉一つ動かさない。
目の前の男が、敵手たるかを見定めている。
「。。。遊んでやろう」
一瞬、ゴウライの姿が消えて目の前に現れる。
瞬歩の域を超えて、その動きは縮地に到達していた。
頭を狙った手刀をカイルが寸で避け、抜きはなった剣を振るう。
ナージャとの経験が彼を初撃から救った。
逆袈裟で振られた剣はゴウライの体に当たらず、滑るように流れていった。
「!?」
以前との感触の違いに戸惑いつつ、距離を詰めるカイル。
剣士であれば距離を取ると狙っていたゴウライが、虚を突かれる。
左手で逆手に持ち直した剣を、拳のように叩き込む。
今度は流れるような感触は無かったが、一瞬で遠ざかったゴウライの頬に一筋の線を残すだけだった。
間髪入れずに螺旋の尖針がゴウライの背後を襲う。
避けるそぶりも見せず、背中を直撃した。
しかし、鋼の鎧を敵を打ち抜く威力を持つはずの一撃は、ゴウライの体に張り廻らされた金色の障壁に阻まれた。
カイルはしっかりその様子を捕らえて記憶した。
瞬間的に現れた、金色の障壁がその直後に消えるところを。
アインの使う守護者の黄金律とは違う。
ゴウライの絶対守護領域は攻撃を受ける瞬間に展開されるようだ。
防御される時間は数秒が限度。
それを確かめるために、リタと代わるがわる波状攻撃を仕掛ける。
(1,2,3,4,ここ!!)
時間を計って攻撃を繰り出すと、ゴウライが障壁を使わずに避けた。
連続で使用できる時間は5秒前後と見た。
この戦闘のもう一つの目的は情報収集。
ゴウライの力を探るために、あえて自分たちが捨て駒になる。
そして、目覚めたアインに引き継ぐことを二人は考えていた。
戦闘は敵の情報を、どれだけ把握できるかで勝敗が分かれる。
(アインが目覚めるまでの間、どれだけの情報を得られるかが勝負だ!!)
戦闘は激しさを増し、巨人達の闘いも加わり、さらなる混迷を極めていった。




