伏兵
岩盤を投げつけられるという経験をしたアイン達は、その場から避難もせずに留まっていた。
天変地異もかくやというほどの岩の襲撃を受けて尚、目の前の男の脅威は揺るがない。
隙を見せればやられることを、アイン達三人はこれまでの経験から察していた。
戦場が破壊され岩だらけになったその場所で、いまだに戦闘が続いていた。
平地だった砂漠に岩陰が多くなったことで、アインの戦い方が有利となる。
「翠脚鞭!」
「憤!!」
影からの強襲を繰り出すが、ゴウライも自身の特殊能力を使いこなし相殺する。
必殺の技が封じられたと知り、アインは狙いを変えた。
一撃を防がれると、くるくると旋回しながら後方へと下がる。
ゴウライが向かって来ると、再び翠脚鞭の体制を取り蹴りを放つ。
「無駄よ!!」
同じことを繰り返す少年に、軽く失望しながら身体属性を変化させる。
しかし、アインの狙いはゴウライではなく、そのすぐそばにあった岩だ。
翠脚鞭を受けた岩が、粉々に砕けゴウライに襲い掛かる。
ぶわっ!!!
「!」
不意を突かれた男はそれを避けきれず、一瞬視界を奪われた。
アインはその一瞬を見逃さず、技を繰り出す。
「翠狼牙!!」
両足で放つ翠脚鞭。
下から蹴り上げ、ほぼ同時に上から踵落としを喰らわした。
狼の咢を思わせるその攻撃は、上下から襲う衝撃波で、たちまち相手の体は粉砕される。
「つくづく度し難いな、慢心というものは。。。」
しかし、その相手は砂煙の中に立っていた。
ゴウライは、未だに驕る心を持つ自分に呆れていた。
アインは、信じられないものを見る目で男を見上げた。
この技は、以前の戦いから対ゴウライ用に編み出したものだ。
身体属性が変化して、技の威力が素通りするなら、体の中から逃げられないようにすればいいとドザンから助言され、死に物狂いで会得した。
二つの衝撃波は、男の体内でぶつかり爆発するはずだった。
アインは、落胆のあまり、体が一瞬止まった。
ゴウライが、その隙を見逃さずに襲い掛かる。
ぱっ!!!
二人の目の前で光が爆発し視力を奪う。
その間にカイルがアインを救出した。
「大丈夫か?アイン」
眩んで見ることが出来ないアインが、目をこすりながら礼を言う。
「ありがとう、カイル兄ぃ。。。でも、だめだったよ」
「そうでも無いぞ」
カイルの見立てでは、ゴウライの動きが明らかに鈍っていたと言う。
「あれは、とんでもない、やせ我慢だな」
武人は相手にそれと悟らせないために、表面上は平気なふりをする。
戦いにおいて、自身がダメージを負ったことを相手に悟らせることが、その後の展開で不利に働く事を知っているからだ。
劇的な効果を期待した技だが、相手を苦しめる程度だったのは事実だろう。
だが、それを積み重ねることで、活路を見出すことは正しいと思えた。
しかし、アインは暗い表情をしたままだ。
「次も、同じ奇襲が通用するとは考えにくいよな。だから、次は俺たちを使うんだ」
カイルがアインの考えていることを読んで、自分たちが囮になることを提案する。
ゴウライと真正面での立ち合いが、歴戦の戦士であるカイルをもってしても難しい。
だが、勝つためではなく凌ぎ、隙を作るのであれば持たせることは可能だろう。
そう計算してのカイルの提案に、アインは一瞬嫌な予感がしたものの、仲間への信頼が勝った。
簡単な打ち合わせを行ってから、分散する二人。
「よう、大将。次は俺の相手をしてもらおうか」
フラっと岩陰からカイルが姿を見せる。
「。。。貴様に用は無い」
「つれない事言うなよ。アイン共々長い付き合いじゃねぇか」
眼中にないことを隠しもしない男に、プライドを傷つけられた思いをしつつ、軽口を叩きながらも、油断なく相手を見据えるカイル。
「俺が剣使いだからって、侮るのは早いと思うぜ」
カイルが、ずらっと鞘から抜いた剣は魔法の光を纏っていた。
「っ?!」
魔術師はいない。
付与魔術を使える者もこの場にいないはずだ。
白磁の門で村長に譲り受けたドワーフ製の剣は、その後リタが得た知識によりミスリルで作られたものと判明する。
そして、同じミスリルで作られた武器をリタも所持している。
そのことが、二人に新たな力を目覚めさせることになる。
「じゃあ、始めるぜ」
純粋な魔力の光を帯びた剣がゴウライに迫る。
斬撃無効は物理的な特性であるため、魔法剣には別の対策が必要だ。
ゴウライは、全ての魔力属性を均等に体に巡らせ、魔力による斬撃を相殺する。
カイルは、相手の微妙な感情の揺らぎを感じ取り、煽る様に揺さぶりをかける。
「どうした?何時もの余裕が無くなってるぞ。やはり、魔力を帯びた剣には少しは警戒するかい?」
「。。。」
挑発に乗らずに無言で捌くゴウライ。
ゴウライにとっては対処法を知る戦法であっても、何か隠し玉を持っている可能性がある。
それに、姿を見せないアインの存在が、より警戒心を強めていた。
この状態では、瞬時に身体属性を合わせることが困難なためだ。
ここであの一撃を喰らうわけにはいかない。
その心が、今、立ち会っている男への注意をほんの少し揺らがせた。
カイルがその微妙な心の揺らぎの隙をつく。
スッとバックステップで退き、後方から向かってくる一本の杭を、手に持つ剣で弾くと、純粋な魔力を帯びていた剣が炎に包まれた。
バックステップからの強襲。
瞬時に行われたその挙動に隙は無く、流れるような動きで炎に包まれた剣をゴウライに叩き込む。
「ぐ!!」
魔力属性を均等に配分したために、特質した属性への防御が疎かになった。
腕に炎で傷を受けたゴウライが初めて後退する。
カイルは、リタが投擲した螺旋の尖針を弾くことで、付与魔術と同じ効果が得られることを知った。
その時発動した魔術で、その効果はどのようにも変化することも。
だが、こんな神業とも言える芸当を、この二人以外がやろうとする者はいないだろう。
下手をすればカイルの体に穴が開く。
二人の息が完璧に合うことでこの技は完成した。
ゴウライは、目の前の戦士への警戒レベルを上げつつ、この後の戦闘に備えた。
「土竜洪!」
力ある言葉が唱えられる。
すると、今度は直接魔法による攻撃が彼を捕らえた。
かつてナージャが使ったほどの規模ではないものの、土石流が男に襲い掛かる。
リタが投擲した、螺旋の尖針から発動した土魔法だ。
ゴウライが足場を求めて、突き立った岩へ飛び移った、その時!
「翠狼牙!!」
息をひそめて身を隠していた、アインの一撃が放たれた!




