危険地帯
「しっ!」
初撃はリタの放ったナイフだった。
カイルが会話で気を逸らしている間に、疾風加速陣の配置を完了した。
螺旋の尖針で出番を失った感もあるが、予備としてディンプルを刻んだナイフは常備している。
使い捨ての武器として、人間相手なら十分な殺傷力を持つそれを、魔法の加速器に向けて投擲した。
だが、その相手はただの人間と比べて頑丈過ぎた。
ガッ! パン
ゴウライは瞬時に肉体を土へ形質変化させ、身体を岩の硬度へと変化させた。
ライフル弾と同じ射速で衝突したナイフは、衝撃に耐えられずに砕け弾ける。
リタの初撃を目くらましに使い、アイン達が散開。
男の目的がアインなら、狙いを定めないうちに動き回り攪乱する。
リタとカイルが陽動と攪乱を行い、アインがトドメを刺す。
リタが配置した疾風加速陣が戦場の到る所にあり、研ぎ澄まされたナイフが、四方から敵に襲い掛かる。
カイルは、ゴウライが投擲に気を取られた隙に切り込む。
斬撃無効の特異体質を相手に、剣でのダメージは期待せず、打撃で集中を乱すのが目的だ。
そして、アインは王式格闘術の死角に入る動きで姿を隠す。
これまで培ってきた3人の戦術は、その練度による有機的に繋がり、見事な連携を見せた。
「ちっ!」
数年前ならあしらえていた、その攻撃は、ゴウライをもってしても捌ききれず苛立ちを覚える。
だが、この男には戦況を有利にする技があった。
極技:砕踏崩地
すり鉢状に地面をえぐり、敵に体制を整える暇を与えないこの技は、特に高機動を得意とする相手に効果的だ。
ゴウライが、まさに、その技を繰り出そうとしたその時、突如として轟音が鳴り響いた。
見上げると、上空にいくつもの巨大な岩盤が浮かび、空の一部を切り取っている。
それが、こちらに向かって落下する。
その場にいた全員が、戦闘行為を放り出して逃げ出す羽目になった。
四人はそれによって思い出す。
ここが、安心して闘いに没頭できる、穏やかな戦場ではなく。
世界の命運を決めるために用意された、人がその場に身を置くことすら、死と隣り合わせの煉獄だということに。
。。。
「なんじゃ?足元で何やら始まったようだぞ」
周囲を観測していたヤフーが、生体反応に気付いて注目する。
足元と言っても、距離にして50キロメートルはある。
それでも、この巨大鎧にとっては目と鼻の先だ。
「危ないから、一般人は離れとくように言うたのにな」と、ルイ。
「いや、あれは少年王の一行だな。片方は。。。おぉ。思い出した、あの無頼漢じゃ。ゴウライとか言ったか?ジンライの血を分けた兄弟だったな。前め、仕込みが過ぎたんじゃないか?」
ゴウライを唆し、少年にけしかける様仕向けたのはクラークだが、動きが読めないため計画からは除外したはずだった。
それが、この場にいるということは、彼自身の執着によるものと、だれもが予想ができた。
「呑気に決闘などされては迷惑じゃ。どれ、気付かせてやろう」
「何をするつもりじゃ?」
ホークの言葉に嫌な予感がして、冷や汗が一粒垂れるルイ。
ふいに、巨大鎧を屈ませ、地面にゴリっと指を突き入れる。
地面の表層から、300メートルほどの岩盤を引き上げ、戦闘を行っている辺りに放り投げた。
「まあ、あの程度じゃ死なんじゃろ」
「おい!」
人のスケールをはるかに超えた嫌がらせを行っておいて、無責任な発言をするホークにルイが頭を抱える。
かろうじて、戦獣の動きが間に合って、数十メートル規模まで砕かれた。
生き残る可能性はあるが、それでも天変地異レベルであることに変わりはない。
「おぉ。しぶといな、あ奴ら。大したもんじゃ」
ヤフーが全員の無事を確かめて感心する。
「おっと、今度はこっちが危ないかもしれんぞ」
先ほどのやり方に、ご立腹の戦獣がこちらに向かって突進してきた。
。。。
突然しゃがみこんだ鎧にあっけにとられている間に、地面をひっくり返したかと思うと、それをアイン達に投げつけやがった。
「なにしやがる!!!」
怒りよりも焦りが先に立ち、体が勝手に動いた。
上空に放り投げられた岩盤を、某昇竜なんとかみたいなポーズで砕く。
なんとか、生存率は上がったがそれだけだ。
俺は、そこにいる四人の人影を見て安心し、その内の一人の顔を見て戦慄する。
なぜ、奴がここに?!
坊主の力は、ほとんどが俺に譲られ無防備なままだ。
早く決着をつけて戻らなければ。
焦りと怒りが俺の中を駆け巡り、足早に巨大鎧の元へ急いだ。
この時俺は、これから始まる巨人同士の闘いが、さらなる混乱を引き起こすことに気付いていなかった。




