最終局面
俺は、その魔術による破壊を間近で見る。
世界を破壊するのは、奴らなのではないかと錯覚させるほど、加減のないやり口に呆れた。
あらかじめ、理外に身を置いていた俺自身にその力は及ばず、仮想現実の空間で起こった事のように現実味を感じない。
だが、この風景がまぎれもない現実であり、放置しておけば、アイン達にも被害が及ぶことは分かり切っている。
「初めからこれかよ。。。爺さん達、えらく張り切ってんな。。あれを使うか」
俺は、事の惨状を見て一つの方法を選択した。
度重なる常識を超えた魔法の影響を打ち消すうちに、浮かび上がってきた言の葉。
それを紡ぐことで生まれた、黄金律の究極の姿。
俺は謡う。
魔術のような詠唱により、理力をある方向へ導く祝詞を。
「掛けまくも畏き 黄金の理の前に白さく
編み綴られし 因果の頁を ここに展き
裁定の鋏を以ちて 記されし刻を断ち切らしめ給へ
顕はれし万象を消し去り 結びし結果を棄却て去りて
白紙の頁を敷き満たし 世界の調和を繕ひ給へ」
「汝が記せし軌跡は 初めよりこの世に無く
在りし日のいまも 偽りの夢と消え失せむことを
恐み恐みも白す」
「黄金律最奥:事象剪定・改訂」
カタカタカタカタ 。。。
これまでの時の流れが、映画のフィルムのように映りだす。
俺は、悲惨な結果を切り抜き、何も起こっていないフィルムに差し替える。
重大な環境被害をもたらしていたはずの時が無かったことになり、因果は書き換えられた。
知覚できる範囲という制限はあるが、結果としての今を書き換えるこの力は、理力の消耗も激しいため1度しか使えない。
相手も、あれほどの大魔法を使ったのであれば、今日は大した術は使ってこないだろう。
中規模の魔法なら、体のみで凌げると踏んでの選択だ。
次はこちらのターンと鎧の方を見れば、腕を上げ、指が天を指し示していた。
上空に視線を向けると、金色の亀裂が見える。
「あれが。。。世界の壁」
千年間、この世界を守ってきた壁の崩壊が、始まろうとしていた。
。。。
事象を反転させられた当の魔術師たちは、大喜びで次の魔術を何にするか思案していた。
「ふぉふぉふぉ。何度見てもすごい力じゃのお」
「じゃが、こちらの球はもうないが、どうする?」
試すべき魔術が打ち止めしたことで、頭を悩ます。
「おい、お主ら、空を見よ!」
ふいに、ヤフーが声を上げた。
上空に監視鏡を向けると、空の一部が崩れ亀裂が見えた。
「おお!とうとう来たか!」
「予定より、早くないか?」
「お主らが、バカスカ大魔法を撃つからじゃろ」
「他人事のように言うな!お主こそなんじゃ、あの氷結魔法はアレンジなどしおって」
ヤフーが披露した「七罪氷獄・断罪の七晶氷」が、この辺一帯を、氷河期の気候に変えたことをルイが突っ込む。
度し難いことに、生みだされた氷は結晶構造が変化して、熱を与えても溶けないというおまけつきだ。
「覚えておらんなぁ」
ヤフーが、明後日の方向を見て白を切る。
「いよいよじゃな。お主ら、覚悟はよいか?」
「誰に聞いておる。そんなもん、とうに済んでおるわ」
「ふふ」
三人の老人が不敵に笑う。
ホークは、穏やかな眼差しで、幼い頃から共に歩んできた友の顔を見る。
「では、世界を救うてみようかの」
軽い用事でも済ませるような口調で、最終段階の宣言をした。
。。。
「誰か。来る。。。」
アインが世界の異変を察知したと同時に、何者かがこちらに向かっている事に気付く。
アイシャ以外に、こんな危険区域に足を運ぶ者の目的は二つしかない。
協力か、敵対か。
単独行で、しかも連絡なしに接触しようとする人物。
その手の関係者に、碌な目に合っていない3人は、警戒を強めてテントの外に出た。
闘いの余波で暴風が吹き荒れる中、人影が見えてくる。
結界の外は砂塵が舞い、まっすぐ進むにも苦労する状況にもかかわらず、正確にこちらに向かっている。
人影が形を結び、何度も会った男の姿となる。
剃髪の大男。
動きやすさを重視するため、関節と首筋のみ部分鎧を仕込み、鍛え抜かれた肉体は露出している。
特異な体質とその肉体で、防具を必要としないスタイルを獲得した崩山拳の闘士。
東の英傑:ゴウライ
男のその目は、必勝の覚悟の光を宿す。
アイン達が、これまで出会った最強最悪の敵が、この地に現れた。




