闘いの日々
戦闘が始まってから5日が経過していた。
魔術師の攻撃は苛烈を極め、戦獣の力を確実に奪っていった。
暗黙の了解として、夜の間は戦闘行為は中断している。
戦闘を重ねるうちに、お互いに力を蓄える時間が必要なことに気付き、いつの間にか、そのようなルールが出来上がっていた。
夜、元の大きさに戻ることのできない俺は、静かに座り込み、力の回復を行う。
眠るように目を閉じる。
その時にだけ、坊主と会話することが出来た。
坊主は、眠る必要のない俺の気を紛らわすように、いろいろな話をしてくる。
これまでの冒険の日々の事、二人で旅した事、出会った人のこと、居なくなった二人の事。
坊主が眠るまで話をした。
辛かったこと、楽しかったこと、時には口論し、時には泣きながら、二人で一緒に過ごした日々を懐かしみながら話しをした。
それは、俺がこの世界に来てからの全てだった。
坊主と過ごした、何気ない日常の一つ一つが愛おしい。
きっと、この世界に生きる人々が守りたいのも、こんな、小さな思いの欠片なのだろう。
坊主が眠りの淵に落ちていった後も、俺は考えに耽っていた。
ーー僕たちの世界を救って欲しいんだーー
あの灰色の世界の住人。。。精霊も同じなんだろうか?
意識が世界に呑まれ、現象としての存在になっても、思いは残るのだろうか?
二つの世界の行く末を思い、揺れる思いを引きずったまま朝を迎えた。
。。。
世界中の精霊を消滅させるために、7日間は闘いを続ける必要があった。
それは予め決まっていた事で、そのための準備も行っていた。
7日分の食料は定期的に、アイシャが届ける手筈になっていた。
戦場から距離があるとは言え、その余波は余人を近付ける事を阻んだ。
時折起こる暴風や磁場の乱れから、生存したままたどり着ける事のできるのは、唯一、遺物を纏った少女のみだった。
「アインは寝ているの?」
アイシャが心配そうに尋ねる。
結界を施した野営地に荷物を降ろし、テントに入ると少年の姿を探した。
「ああ、さっきまで何時ものように、あいつと話してたよ」
カイルが荷物を確認するため、入れ違いに外に出る。
アイシャが、リタの膝枕に頭を預け、寝息を立てている少年に少しムッとする。
視線に気付いたリタが、人差し指を口に当てて、眠りを妨げないように注意した。
「がんばってね」
少女は、それ以上は何も言わずにテントを出ていった。
翌朝、日が昇るとそれと同時に戦闘が再開された。
アインは、その前に起きて食事を済ますと、いつものように座禅を組む。
こうすると、戦獣の状況がよくわかり、周囲を把握することが出来た。
目覚めた戦獣がゆっくりと腰を上げる。
対する巨大鎧も、暴風を引き連れて歩いてくる。
お互いに、頭を突きつけてから、勝負の開始とすることが習わしになっていた。
「じじい共。今日はこっちがその装甲ひっぺがしてやるからな。覚悟しろ」
「ふぉふぉふぉ。口先だけなら何とでも言えよう。丸焼きにしてくれるわ」
お互いに会話ができることを知ってから、戦いの前の儀式として罵り合いが常となった。
それが終わると、お互いに距離を取る。
6日目の戦いがこうして始まった。
。。。
これまで、魔術師側が放った魔法の数は100を超えた。
千年の研鑽において、大魔術と呼べる戦略級魔法は、ほぼ出尽くしたといえる。
「儂らは幸せ者だのお。この時代に生を受けた事に、これほど感謝したことはない」
「何じゃ、藪から棒に?」
ルイが、ホークが突然口にした言葉に、不審そうな顔を向けた。
「まあ、言いたいことは分かるがな」
ヤフーが、にひひと笑う。
今まで、実践したくても出来なかった魔術を行使し、その効果を自分の目で見ることが出来ることに、三人はそれぞれに喜びを感じていた。
ーーまったく、魔術バカなんだからーー
幼馴染の彼女の声が聞こえた気がした。
「儂らは儂らのやり方で、この世界を救うてみせようぞ」
戦闘球に入ったホークが詠唱を開始した。
「収束せよ。万象を圧せ、熱を畳み、極微の中心核を鍛造せよ。
斥力の壁を突き破り、原子の檻を食い破り縮退せよ。極点にて弾け、反転の波条を解き放て。
星の脈動を聞け!」
「星炎・縮退反跳核!!!」
力ある言葉が発せられると、世界の音が消えた。
限界まで高められた内向重力圧が、周囲数キロメートルの大気を中心の一点へ猛烈な速度で引きずり込む。
光さえもゆがめられ、その場が夜になったと錯覚させる。
周囲の大気が急激に中心へ吸い込まれ、瞬間的に気温が氷点下まで急降下し、地表が一瞬で白銀に変わる。
爆心地から半径数キロ圏内に存在した物質は「燃える」事すら許されず、表面の水分・油分・有機分子が一瞬で気化・プラズマ化し、影だけを地面に焼き付けて消滅する。
反跳した超高密度プラズマの壁が、音速の数十倍で大気と大地を押し潰しながら疾走。
ズゥゥゥン。。。ドガァァン!
大地そのものが骨折したかのような、重い地響きが地殻を伝って大陸を震わせた。
地上のあらゆる物が、見えない質量に叩き潰されたかのように粉砕され、平らなクレーターの底へと押し均される。
クレーター中心部では、岩石がドロドロのマグマを通り越して、サラサラとした液状の溶融ガラスへと相転移し、衝撃波が削り取った巨大なすり鉢状の窪みを満たしていく。
その後の大気の変化は、気象に深刻な影響をもたらした。
爆心地の空気が数千度に熱せられたことで、巨大積乱雲(火災積乱雲)が発生。
爆心地の超低気圧を埋めるため、外周数十キロメートルの冷たい大気が超大型台風を凌駕する風速で爆心へ向けて逆流。
吹き荒れる風そのものが火炎と火の粉を巻き込み、巨大な炎の竜巻(火災旋風)へと自身を組み替える。
その魔法は、想像でしかなかった地獄の風景を一瞬で作り出した。




