開幕
その日、少女と妹はお使いを頼まれて外に出ていた。
空の色が変わっても、いつも通りの生活がある。
不思議な現象も、いつの間にか日常へ溶け込み、誰も気にする者はいない。
ぅわん!
「な、なに!?」
「お姉ちゃん!」
突然、空気が重くなるような気分の悪さを感じる。
街中のガラスがカタカタと揺れる。
ごぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!
遠くで低く地鳴りのような音が聞こえてきた。
空を見上げると、さっきまで浮かんでいた雲がなくなっている。
少女は、何かが始まったことを感じた。
二人は、地面に跪くと祈り始めた。
「どうか、私たちを助けてください。王様。。。」
見ると、街の人たちが同じように跪いている。
今日までの日常は終わり、明日の日常がどうなるか誰もわからなかった。
。。。
巨大な鎧が歩みを始めると、その巨躯が気流を生んだ。
一歩ごとに地表の濃い空気が足に絡みつく。
水たまりを歩くように足を進めると、そこに在った空気が押しのけられ、乱気流を生む。
小規模な台風並の風の渦を引きずりながら鎧が前に進む。
そして、一歩その巨大な足を降ろすごとに、地面が地震のように揺れた。
巨大鎧から離れた位置にいたアイン達も、暴風と地揺れが同時に起こると見物気分ではいられない。
自らの身を守るため、理力を用いて結界を張り、周囲で起こる自然の脅威に耐えていた。
これが、たった一歩、歩いただけの結果だとは、実際に目にしても信じられない。
カイルが真剣なまなざしで周りの様子を見る。
そして、距離が近すぎる事に懸念を口にする。
「想像以上だな。。。ここでも危ないかもしれないな」
「ごめん、二人とも。僕が、これ以上離れると白さんが自由に動けないから。付き合ってもらうよ」
アインの言葉から、覚悟を決めてこの場にいることを知る。
「わかってるよ。俺たちはお前と一緒にいるって言ったろ」
ナージャとミリーが居なくなった時にカイルは、アインに言った。
「何があっても、俺たちはお前と一緒にいる」
それは2人の誓約であり、決して破られることはないとリタと共に誓った。
アインはその言葉を信じて、この場への同行を許したのだった。
。。。
俺は、歩き始めた鎧の圧力にビビっていた。
なんだこいつの存在感は。。。
さっきまで、霞のように存在感がなかったが、動き出した途端、目の前に山が現れた様だ。
地上付近では、こいつが起こした乱流で、すごい風が巻き上がっている。
動いただけでこれかぁ。
つまり、俺も動くとこうなるってことか?
坊主たち、大丈夫なんだよな?
敵を前に、意識をそらしたのがまずかった。
巨大鎧とは、まだ距離があると油断した俺は、目前に迫った拳を避けられなかった。
「な!?」
あの巨体で、何つう速さで移動してやがんだ!
一撃を受けてよろける俺の視界には、急激な移動で発生したダウンバーストと、断熱圧縮によるプラズマの光が鎧の体をバチバチと流れるさまを見た。
体の表面から、ばらばらと余剰装甲をまき散らしながら、拳を打ち込んできたそれを見て、俺は覚悟を決めた。
あいつらのことだ。自分たちで何とかするだろう。俺は俺の役割を全力で全うする。
気合の入った拳をもらい、やっと戦いに集中することができた。
。。。
「稼働率、60%ってとこじゃな。歩くだけでこうも周りに影響が出るとはな。本気で暴れたら、この星が持たんのじゃないか?」
ホークが稼働状況をメーターから読み取ることで忙しい中、自分たちの作った鎧の成果ににやにやする。
「そのために、相手がおるんじゃろ。あ奴の力が及ばなければそういう最悪の未来もありえるかものお」
ルイは魔鋼グリッドからのフィードバックの様子を見ながら、相手の力を計りかねている。
「それにしても、奴さん。吠えた切りぼーっとしとるようじゃぞ」
ヤフーが、主機関の安定稼働をチェックしてポロっとつぶやいた。
「どれ、一発気合でも入れてやるかのぉ」
「気合って。。。何をするつもりじゃ?」
ホークの言葉にルイは嫌な予感がした。
「出力100%!超高速移動の後、一発ぶん殴る!」
「あほかお主は!この質量でそんなことして、どうなるぁあああああ!!!」
すでに、ヤフーが機関を全開するレバーを引いていた。
瞬間、音速を越える速度で走り出すと、0に近かった質量が増大した。
鎧の後方には、巨大なクレーターが出来上がり、巻き上げた砂が、そのまま成層圏まで上がる。
高速移動による衝撃波が前方へ扇状に走り、大地に亀裂が走る。
切り裂かれた大気は真空をつくり、流れ込んだ空気による吹き戻しが暴風となる。
あらかじめ動作を入力していたため、戦獣の目の前に現れた鎧は、プログラム通り一発拳を見舞った。
操縦室の中では、席からずり落ちたホークが目を丸くしていた。
「。。。たまげたぁ」
「当り前じゃ!あほぉ!超巨大質量で殴り合いするな!」
ルイの突っ込みは真っ当だ。
本来は。魔術戦闘でお互いに消しあう事を目的に作成された機械だ。
どう考えても格闘戦を行うサイズではない。
「向こうの方が冷静みたいじゃぞ」
ヤフーが監視鏡と連動した水晶玉を見ると、白い獣はゆっくりと距離を取ろうとしていた。
ここからが、本当の戦闘になることに3人の老人は年甲斐もなくワクワクした。




