救世機:始動
「ほぉおおお?!あれが例の白いのか?わしの目にも見えるということは実体化しおったか!」
監視鏡にかぶりついて様子を見ていたホークが、興奮した声を上げた。
「あれが、使役契約か。。。この歳で初めて見たわ」
精霊使いの数は少ない。ルイも興奮した様子で話す。
「こうしてはおれんの、窯に火を入れるか。ほれ、お主ら!仕事の準備じゃ!」
ヤフーに急かされ、しぶしぶ持ち場につく二人。
「よぉし、お主ら。はじめるぞい。儀礼的手順は省略して最短で稼働じゃ!」
「おうよ」
「わかっとる、はよせい」
ホークが手順を指示すると、二人がそれに合わせてレバーやスイッチを操作し始めた。
「主アンカー、減圧。抜錨!」
静止質量がほぼ無いため、重量が限りなく0に近い鎧を、大地に固定していたアンカーが外される。
「骨格トラス・可動リンクへの自然自重へ移行」
ルイがずらっと並んだスイッチを一斉にオフにする。
体全体がゆらゆらと揺らめいた。
形状維持のための剛体ロックを解除し、自重を利用した稼働クリアランスの確保を自然形成してゆく。
「キャブ密閉・高度圧規定圧力へ」
ヤフーが3重に作られた重そうなハッチを密閉する。操縦室内の気圧が戦闘気圧へ自動調整された。
「吸気インテーク定常開放・主機:精霊捕食炉安定稼働確認、戦闘モードへ!」
ホークがレバーを下げると、精霊の取り込みを行う吸気弁を開放し整流された渦を形成した。次に、形状維持モードから戦闘モードへと移行するためのレバーを下げると、表示されていた文字が、カシャカシャと音を立てて「維持」から「通常」を飛ばし「戦闘」という字に変わる。
「魔鉱ボイラー段階的熱励起を維持」
ヤフーが舌で唇を舐めて、魔鋼ボイラーの調整ダイヤルを慎重に回す。
魔力を注入し配管を熱衝撃に晒さないよう注意が必要な作業だ。
調整が終わり、超臨界蒸気を均一生成することに成功する。
「主蒸気ヘッダー自動予熱・ドレン自然排出」
暖機バイパス弁を開け、配管内の結露水をゆっくり蒸気圧で押し出し、ウォーターハンマーを完全防止する。
「復水器真空引き・定常冷却ライン確立」
ヤフーが、外部気流の取り込みで、蒸気サイクルの完全密閉循環を安定確立した事を報告する。
「タービン定速スロースピン安定しておるぞ!」
ホークが計器を見て、滑らかに高速回転に移行していることを確認した。
「主油圧ポンプクラッチ接続・低圧循環暖機正常」
魔力粘性(ER)作動油を低圧で全身の配管へ行き渡らせ、油温を最適作動温度まで均一上昇させる。魔力によるオンオフにより、鎖のように硬化するこの油が筋肉のような働きをする。
「主油圧アキュムレータ定格蓄圧を確認」
ルイが連成圧力計を見て順調に圧力が蓄積された事を報告した。
続いて、魔鉱グリッド自動バス結合と浮動モード確立具合を見る。
「魔鋼グリッドからの魔力供給も一定してる、浮動モードへの移行可能範囲だぞ」
「よぉし。垢を落として動き出すとするか」
ホークの掛け声で微動稼働へ進む。
「脱皮パーツの低圧スチーム剥離始めるぞ。投棄開始!」
ルイの手が掴んだレバーを押し込んだ。
ばっしゅぅぅううううーーーーーーー!
キン、シャラシャラ、パリン
シャラシャラ、パリン、カン、キン
シャー、キン、シャラシャラ
蒸気が鎧を形成する装甲の隙間から吹き出すと、表面の薄い殻が割れて剥がれ落ちた。
カラカラになった旧装甲を爆砕ではなく、低圧スチームで静かに「脱皮」させると、足元に無数の薄膜が降り積もる。
6000mを越える高さから降るそれは、巨大な氷の結晶を思わせた。
「各関節アクチュエーター微小連動同調状態」
各関節に取り付けた振動計で受けた、微細な振動をインジケーターで確認する。
「ER流体感度チェック」
ホークが魔気パルス応答を一回だけテストし、半固体化のトリガー感度の適正化を確認。
ヤフーの手が、バルブ弁を開け閉めするレバーを操作する。
「過熱蒸気ブロー弁テスト・背圧抜き問題なし」
しゅぅっ
安全弁を動かし配管の固着がないことを確認する。
「逆転機ハンドル、定常ギア噛合も具合はいいぞ」
ホークがホイールを回し、歯車のかみ合いに満足した声を上げる。
「主缶圧力・油圧定常レッドライン到達確認!いつでもいけるぞ!」
ボイラー圧が戦闘高気圧まで達したことを、ヤフーが珍しく興奮した声で言う
「加減弁定常開放! 戦闘機動開始!」
ホークが、逆転機ハンドルを操作しギアを戦闘段に叩き込む。
「救世機:遺瓦礫の機械鎧《ルデラ・エクス・マキナ 》、拘束解除!!」
人類史上類を見ない、巨大な魔術具が歩き出す。
敵として待ち受ける戦獣が、咆哮を上げたのは、まさにその時だった。
その轟咆は、一瞬にして周囲の雲を霧散させ、空には一面何も無くなった。
今は紫と化した空が、一気に晴れ渡ると、世界中の人々が最後の戦いを知ることになる。
そして、人は思い思いの願いを込めて祈り、決着の時を待つのだった。




