戦いの予感
遺瓦礫の機械鎧では三賢者が、悠々と戦いの時を待っている。。。はずだった。
「おーい、右のぉ。13番の圧力が下がっとるぞ」
頭のホークウッド、ホークが計器に異常を示す数値を読みとり指示を出す。
蒸気機関の操舵席で、全体の状況を監視するのに余念がない。
「わぁかっとる!今、手が離せんのじゃ。気付いたなら手伝え!」
右のルイドルド、ルイが眼鏡を頭に乗せ、魔鋼グリッドの出力調整に掛かりきりになっている。
次々と大きくなる各部に合わせて、古くなったパーツが廃棄される度に、出力調整弁で魔力供給を一定に保つのはなかなかに難儀なようだ。
「しかし、この蒸気連動格子制御機関を遺跡から掘り出したはいいが、どうも大雑把で慣れんな」
左のヤファイエ、ヤフーが主機である精霊捕食炉の主缶圧力計、水面計を監視しながら愚痴をこぼす。
巨大鎧のさらに奥に、本体の鎧が様々な部品といっしょに押し込まれている。
数日前から、停止したルデラ・エクス・マキナの内部では、機体維持のため3人の魔導士が悪戦苦闘していた。
魔法という精緻で効率的な技術に卓越していても、物理と魔導科学を融合し蒸気で動力制御を行う、過去文明の遺物には手こずっていた。
「こうなったら、早く敵が来てくれんことには話にならんぞ。このままじゃと、廃棄した部品でこの辺りが山脈になっちまう。。。」
ホークが、13番圧力弁を操作しながら文句をたれる。
精霊を捕食し、体を大きく組み替える過程で、利用できなくなった部品を廃棄する。
そのため、時折、巨大なパーツが、軋み音を上げながら地上に落下していた。
設計段階で、すべての部品を再利用するようになっていたが、技術的にこれが限界だった。
評議会の工部班は、連日の徹夜続きで倒れる者が続出し、これ以上精度を上げることは不可能と判断した。
現場での調整をすることにしたが、これほど頻繁に、巨大部品を入れ替えるとは想定外に過ぎた。
「そもそも、減らせなければ、際限なしに増え続けるってのが設計ミスじゃろ?」
ルイが、設計統括を務めたホークに嫌味を言う。
「何を言うか。止まってしまっては元も子もないではないか。儂らは進むしか選択肢はないんじゃからな」
アクセルはあってもブレーキは無いと言ってのけた。
ルイとヤフーがため息をつく。
「知っとるか?カシラの。儂ら、若い魔術師からは暴走老人と呼ばれとるんじゃぞ」
「まだまだ、若いもんには負けん!」
ホークが鼻息荒く応じる。
「そういう意味で言ったんじゃない」と、ルイは、ぶつぶつとつぶやきながら仕事を続けた。
「ん?」
外部監視鏡が、赤い軌跡を捉えたことをホークが知る。
「ふぉっふぉっふぉ。おい、二人共、やっとこの退屈な作業から抜けられそうじゃぞ」
ホークの言葉に顔を上げる二人。
外の情報を視覚に映す、投影魔法を施した鏡に、赤い鎧にしがみつく、金髪の少年の姿が映る。
「いよいよじゃのぉ。さあ、二人とも配置につけ!」ホークが指示を出す。
「いい年なんじゃから、興奮すると体に悪いぞ」ルイが落ち着くように諭す。
「言うても聞かんよ。稼働準備、始めるぞ」ヤフーが冷静に仕事を始める。
3人の老人は、これから始まる途方もない規模の戦いに向けて、かつてない高揚感の中にいた。
。。。
順調に飛行していたアイシャの魔導鎧だったが、巨大鎧に近付くにつれ、様子がおかしくなる。
「ちょっと、ヴァルカ?!高度が落ちてるわよ!」
「。。。御主人、ここから先はあたしは行けねぇ」
ルデラ・エクス・マキナから、50kmの手前で鎧は降下した。
地面に、跪くように着地したエクサは、それ以上動くことができないようだった。
「そうか、あの鎧は精霊を捕食するんだったな。ヴァルカはその影響で動けないのか」
カイルが、これ以上の進行が難しい理由を察した。
「アイシャ、ヴァルカ、ありがとう。ここからは僕たちだけで行く」
アインがそう宣言し歩き始める。
「じゃあな。姫さん」
「ここで、お別れね。元気で」
カイルとリタが別れの挨拶を済まし、アインに続く。
砂煙に着てゆく仲間を見送る。
「みんな。。。」
鎧の中のアイシャが、胸で手を組み皆の無事を祈る。
(誰でもいいから、皆を助けて。。。)
こんな時に誰かに願いを託す事ができれば、どれだけ気が休まるだろうと少女は思う。
この世界に存在しない神が、荒野に一人、戦場に向かう仲間を見送る少女には必要だった。




