噂
世界が異変に包まれて、人々の生活は一変した。
これまで蔑んできた魔物化した人々と、同じ境遇になる者が後を絶たず、元の姿のままの者が少数になった時、立場が逆転した。
蔑まれる者から支配する者へと成り変わると、それまでの仕打ちによる恨みは、姿変わらぬ者へと向かった。
いくつもの、蛮行が繰り返された。
だが、混乱する人々の中にも、人類同士の争いが無益であることを知る者は多かった。
滅びを迎える世界で自暴自棄になる者。
静かに運命を受け入れる者。
この世界に希望が失われたと、人々は思い始める。
そんな時にある噂が流れた。
魔術師評議会と新たな魔王が、争いを始めようとしている。
こんな時に何をしているんだと、怒りと呆れの混じった声を上げる人々。
だが、それと同時に別の噂が流れる。
この戦いの趨勢によって世界の命運が決まる。
今の状況は魔族の千年前の復讐だ。
いや、魔術師共が大規模な魔術に失敗したんだ。
様々な憶測が飛び交い、不確かな噂が溢れかえる。
そして、誰かが言った。
「あの、金髪の少年は、俺たちを星炎竜から助けてくれたよな」
それに、人々が気付く。
「そうだ、俺も見た。赤い軌跡が北へ向かったのを確かに見た」
「その後、黄金の剣が現れたのよね。そして聖竜が去っていった。。。」
金髪の王が何とかしてくれる。
そう人々が考えるようになった時、彼を魔王と呼ぶ者はいなくなっていた。
対して、これまで人類を管理してきた魔術師評議会には、失望する声が多くなった。
評議会への評価が下がると、必然的に王への期待が上がる。
何時しか、魔族の王とされてきた少年王は、人類の救世主と呼ばれるようになっていた。
だが、これが、魔術師評議会の周到な情報認知操作だと知る者はいない。
。。。
「使者殿、具体的に、わが王に何をさせるというのですか?」
エラランが皆の疑問を代表して聞く。
「そちらでも、掴んでいると思うが、我らの魔導兵器と戦ってもらう。そして勝ってもらう」
「。。。」
一同が沈黙する。
『えぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!』
全員が、一瞬遅れて驚きの声を上げる。
「無理、無理、無理、無理!あんた正気か?!」
カイルが正直な感想を述べると、皆が頷く。
「。。。どうやって?何か策が有って言ってるんだよね?」
リタが聞くとジンライが答えた。
「特にない。王に頑張ってもらうとしか聞いてないな」
悪びれる素振りも見せず、とんでもないことを言う。
「だが、手立てが全く無い訳ではないんだろ?俺は、先の戦闘でその兆しを見させてもらった」
ジンライがニヤッと笑い、アインの顔を見る。
「?」
少年はぽかんとしている。
(。。。坊主、俺と変われ)
「白さんが、話したいって」
「?」
今度は、ジンライが怪訝な顔をする。
俺はアインと入れ替わって考えを話した。
「方法は、ある」
使者の一同が、急に口調の変わった少年を驚きの目で見る。
「そうか、こんな仕組みがあったのか。。。」
ジンライが何かを納得してつぶやいた。
「あんたの言う兆しとは、魔人化のことだな?」
俺は、ドールと合体した状態をそう呼び、確認した。
「ああ、だが、精霊との魔人化はだめだ。王の力、つまり、黄金律の力のみで魔人化する必要がある」
「。。。」
それを可能にする遺物も在る。
そして、俺の考えではその方法も存在する。
だが。。。
「これが最後になるってことでいいか?」
「ああ、それは確かだ。この戦いで人類は救われる」
ジンライが力強く保証してくれた。
「なら、全力を尽くそう」
そう言って、坊主と入れ替わった。
話は、いつどうやって接触するか。
実行段階に移った。
「ねえ、白さん?」
アインが、先ほどのやり取りが気になり俺に聞いてきた。
「何か心配事があるの?」
(俺が魔人化する方法なんだがな。。。俺を、坊主の使役人形として契約する。それによって、俺の人格がどうなるかわからない。これまで通りか、ヴァルカがそうであったように自由意思を失うか。。。)
「!?」
(まあ、どっちにしろこれが最後だってことなら、もう俺が出る幕はないだろうしな。その後はよろしく頼むぜ、主人)
「うん、大丈夫だよ。僕が白さんを縛るようなことは絶対無いから」
そして、話の流れはあの巨大な魔導兵器の正体に向かう。
「あの兵器は、一体何なのですか?」
「あれは、正確には兵器じゃなく演算機だ」
ジンライが、その無謀とも思える壮大な計画を明らかにした。




