生きている証
アインが自室に引きこもってから、1週間が経った。
「ごめん、一人にして」
少年が最後に口にしたのは、その一言だけだった。
以前、ジルが犠牲になった時と同じだ。
だが、今回は俺も近くに居ることを拒絶された。
それはそうだろう。
最後にミリーを救う機会を奪ったのは俺自身だ。
坊主が許せなく思うのは仕方ない。
俺は、あの時に他の選択肢が無かったのか、あれからずっと自問自答している。
アインの自室の扉の前で体育座りをしていると、アイシャが現れた。
「ちょっと、どいて」
(なあ、今はそっとしておいてやれないか?)
俺は、また強引に連れ出すつもりかと警戒した。
少女はそっと目を閉じ静かに話す。
「分かってる。でも、アインには立ち直ってもらうしかないの。たとえどんな手を使ってでも。。。」
再び開いた少女の真剣な目に気圧されて、扉の前から退く 。
俺は、静かに扉を開け入っていく少女を、見送るしかなかった。
。。。
アインは、自室でミリーとナージャと過ごした日々を思い出していた。
それは、少年の人生の殆どの時間を占めている。
両親との記憶は薄れ、その代わりに彼女等との思い出が鮮明に残った。
机に置かれた黒水晶の耳飾りと、煙管を見る。
なぜ、止められなかったのか。
ああなる前に、やれることは無かったのか。
この一週間、そればかり考えていた。
答えは見つかっていない。
白の選択が間違っていたとは思わない。
でも、それは理屈の上でだ。
感情に逆らえない自分がいる。
大人になれない自分に腹が立つ。
そこに、自分と同じ金色の髪をした少女が現れる。
「。。。アイシャ。また来たの」
「。。。」
少女は少年の憔悴した姿を見ても、驚かずに静かに佇む。
「ごめん。今回はね、ダメみたい。人々を救わなきゃいけないのに。。。そんな余裕が無いんだ」
「。。。」
ふぁさ
布が落ちる音がして、少女の方を見る。
「。。。なにをしているの?」
白い素肌の上に、キャミソールのような薄い布地のみの少女を見て、少年がどぎまぎして立ち上がる。
「私が出来ることで、あなたの悲しみを一時でも忘れさせてあげる方法が、これだけって聞いたから」
顔を真っ赤にさせているアイシャが、スッとアインに近付く。
そのまま顔を寄せる。
少年が驚いてよろけ、二人でベッドに倒れこんだ。
思わず抱きしめた少女の体は、華奢で柔らかく、少し力を入れると、脆く崩れそうな儚いもの思えた。
「。。。」
アイシャが震えている。
普段、勝気な彼女の意外な姿に困惑する少年。
「う、うぅぅ」
「アイシャ?」
自分の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす少女に、声をかける。
「あんただけじゃない。あたしだって悲しいの。ミリーさんは私を私として見てくれた初めての人だった。私もお姉さんって呼びたかった。。。」
少年は、涙を流し続けるアイシャを見て、悲しいのは自分だけじゃないと気付く。
自分だけが特別に彼女等と過ごしたわけじゃない。
カイルもリタも、白さんも城の皆だって悲しいのは同じだ。
自分だけが苦しいと思っていた事に、少年は恥ずかしくなった。
「アイシャ。。。」
少女の目を見る。
二人はそっと目を閉じて、唇を重ねた。
。。。
「あんた、そこで何してんのさ?」
ヴァルカが俺に声をかけてきた。
(。。。扉番)
「。。。ふーん」
ドールが横に腰かける。
(しょうがないだろ。俺は坊主の傍から離れられないんだから。お前こそ何しに来たんだよ?)
「べつにぃ。ご主人が、なんか面白いことになってる気がして、覗いてやろうと思ってさ」
(悪趣味だからやめてやれ)
デリカシーの無い発言に釘をさす。
「冗談だよ。まあ、面白いものは見れたけどね」
落ち込んでいる俺を見てカラカラ笑う。
(ふんっ。。。あぁーあ。ついに先を越されたかぁ)
「何のことさ?」
俺はふてくされた。
。。。
唇がそっと触れるような口づけを交わした、アインとアイシャ。
顔が離れると照れたように頬を染める。
少年が、困ったような顔になる。
「。。。この後どうするんだっけ?」
「。。。わかんない」
二人が、この先の知識がないことに気付く。
「「ぷっ」」
二人で吹き出してしまった。
お互いに顔を見合わせ笑いだす。
ひと仕切り笑いが収まると、お互いの体を抱きしめた。
体を預けお互いの体温と重さを知る。
「初めて知った。こうしてると安心するね」
「うん。あたしも」
二人一緒にいることが、この上なく愛しい。
「僕たちはまだ子供で、何も知らない。知らない事の方が多いんだ。生きていれば、これから、いろんなことを見て聞いて知ることができる。これってすごいことなんだよね」
生きていること、それがどれだけ尊く喜びに満ちているか、少年は気付いた。
一人の少女の重さと暖かさが、この世界に、一人ひとり生きているという事を少年に教えた。




