ある少女の夢
ミリーは自らに石化の魔法を掛けた。
徐々に体の自由が利かなくなる事を自覚する。
「ミリ姉ぇ!なにを!」
「安心して、死ぬわけじゃない。いつかこの子たちの呪縛が無くなれば元に戻ることができる」
それがいつになるのか、少女は口にしない。
話しているうちに徐々に体が石に変わっていく。
「そんな。。。」
「アイン。あなたがこの世界を救い、皆が笑って過ごせる様になればきっと戻ってくる。。。」
石化がゆっくりと進行している。
「。。。私、本当は怖いみたい。。。勝手に魔力制御してる」
ミリーが声を震わせて告白する。
魔術師が自身でかけた魔術だ。その進みを無意識に遅らせてしまっていた。
ミリーが仲間に声をかける。
「カイルさん、リタ姉ぇと仲よくね。リタ姉ぇも喧嘩ばかりじゃ嫌われちゃうよ。ほどほどにね」
「ミリー。。。」
「ばかぁ。何であんたが、こんなことになるのよぉ」
リタが両手で顔を覆って泣いている。
「アイシャちゃん。アインを。。。私の大切な人をお願いね」
「ミリーさん。私、貴方に家族だって言われたのが嬉しかった。。。また会えるよね?」
アイシャの問いに、ミリーが「うん」と頷く。
それが気休めだと分かっていても、アイシャはそれを信じて笑顔で涙をこぼした。
足先から進んでいた石化が、胸まで進み白くなっている。
「アイン、ごめんね。お姉ちゃん最後まで一緒にいてあげられなくて」
「いやだよ。ミリ姉ぇ。もう会えないなんて言わないでよ!」
「言わないよ、きっと、また会える。だから、悲しむ必要なんてないの。いつか、また会えたら。。。きっと。。。」
ミリーの姿が白い石像へと変わっていた。
「ミリ姉ぇ?」
石化した少女の像の前に、黒く輝く水晶のイヤリングが落ちていた。
ミリーは最後の瞬間、夢を見ていた。
ナージャに助けてもらい、新しい名前をつけてもらったこと。
魔法の修行で、いつも失敗ばかりして、師匠に呆れられたこと。
アインと会った時のこと。
皆との冒険の日々。
アインとの口づけ。
それらが、暖かい陽だまりの中にいるような気持ちで思い出されていく。
(ああ。私は幸せだったんだなぁ。いつかまた、会いたいなぁ)
それを最後に、意識を失った。
「。。。ミリ姉ぇえええ。。。やだよぉ!剣よ!」
アインが剣を呼び出した。
「王命!、僕の愛した人を返して!」
「。。。」
俺はそれに答えなかった。
「白さん!」
アインが生まれて初めて、俺に険しい声を上げる。
「。。。だめだ」
俺は冷たく突き放した。
「白さん!了承して!」
坊主が怒りを込めて言う。
「だめなんだよ!この力は自分のために使っちゃいけないんだ!」
俺は、坊主に嫌われようとも、これだけは曲げることができなかった。
「なんでだよぉ!なんでぇ。。。うわぁあああああああ!」
少年の慟哭が山中にこだまする。
親代わりの恩人と、姉と慕い愛した少女を一度に失った。
その悲しみが、彼の誓いを鈍らせかねないと知りつつ、掛ける言葉が見つからない。
俺たちは、少年が泣き続ける姿を、ただ見つめることしかできなかった。
。。。
村の子供たちが、何人か集まって冒険と称して遊んでいた。
森の奥に入ってはいけないと大人たちに注意されたが、そんなことを守る子供はいない。
普段、近寄らないせいか、暗い森の中は不気味で薄気味悪かったが、誰も帰るとは言いださなかった。
森の奥に進んでいくと、石造りの立派な祠があった。
子供の一人が、これ知ってると自慢げに語る。
「この中に、女の子の石像があるんだって。昔の王様の恋人だったとか、呪いで封印されたとか。そんな話を聞いたよ。近くにいると良くないことが起こるんだって」
子供たちの顔が青くなる。
「行こうぜ」
子供たちは、我先にと村へ引き返していった。
小さな祠の奥で魔法使いの少女が眠っている。
その傍らには、翠の宝玉を冠した杖と、黒い水晶の耳飾りがそっと置かれていた。
少女は眠り続ける。
いつか、目覚めることを夢見て。。。




