それぞれの思い
ナージャは少年と少女に看取られて逝った。
カイル、リタ、アイシャも後から合流し、老魔術師の死を知る。
「婆さん。。。」
「嘘でしょう」
「。。。」
「皆、言葉が見つからず、押し黙っている。
横たえられ、眠っているようなナージャを見ながら、俺は彼女のことを思う。
(婆さん、あんたは救われたい、逃げ出したいって言ったな。成り行きかもしれないけど、俺たちは、あんたのその弱さに救われてきたんだ。ありがとうな)
ナージャは口では自分のためにと言ったが、俺にはそう思えなかった。
(本当はあんたも、誰かを。。。この世界を救いたかったのか?)
もう、その問いに答える者はいない。
「!」
魔女の短刀がミリーの手から離れ、彼女の目の前に浮かび上がる。
そして、魔女の継承が始まった。
短刀が輝き、命を奪った相手の知識と経験、思いを受け継ぐ。
ミリーの目が光を帯び、輝きだす。
ぶわぁ
そのまま儀式が進むかと思われたが、異変が起こる。
黒い瘴気が集まりだし、少女の体に纏わりつく。
「っ!」
ミリーが苦悶の表情を浮かべる。
「何が起こってるの!?」
ミリーの苦しむ姿に異常を感じてリタが叫ぶ。
だが、それに答えられる知識を持つ者はいなかった。
そのうちに、剣の輝きが失われ地面にポトリと落ちた。
儀式が終わったようだ。
「はぁ、はぁ」
ミリーが膝をつき、肩で息をしている。
「ミリ姉ぇ!」
「ミリー!」
皆が駆け寄る。
「う゛ぁああ!」
ミリーが急に苦しみもがき始めた。
「しっかり!何があったの!?」
「来ないで!」
リタがミリーに駆け寄って近付こうとするが、少女は拒絶した。
「私に触れてはだめ。障りがあってはいけないわ」
皆が心配そうに少女を見る。
「こんな苦しみに、お師匠様は耐え続けてきたんですね。。。アリーシャさん、貴方は何故そこまでして。。。」
ミリーは天を仰いで師の強さを尊敬し、アリーシャに呪詛の言葉を吐いた。
「ミリ姉ぇ。その呪い、剣の力で消せないのかな?」
アインが理を曲げてでも救いたいと申し出るが、ミリーは首を振る。
「師匠の記憶を引き継いで判ったの。これは誰かが受け継がなければいけない」
少女はこの呪いに意味があるかのように言う。
アインの目を見て言う。
「この呪いは、貴方のためでもあるの」
アインが困惑する。
「。。。何を言っているの?」
ナージャの記憶が見せたものを、ミリーが解釈した内容を話し始めた。
「師匠は、この呪痕を自らの罰のためと言ったけど、本当はそうじゃない。これは、生まれてこれなかった転生者の魂を留めておくためのものよ」
異世界の転生者は、まれに覚醒者としての力を持って生まれてくる。
何世代もの間、転生者がこの地に生れ落ちることで、より強い力を持って生まれる事があるという。
先代の王は、その力が強い時期に覚醒者となった。
しかし、千年前の戦争で、その力は失われた。
そして、その後の魔術師評議会の愚行から、受容体の子供を排除し続けた結果、力の蓄積が途絶えた。
「これに気付いたのは、アイン、貴方のお母さん。。。アリーシャさんよ」
「。。。」
何となくそんな気がしていたのか、アインは驚かなかった。
覚醒者が死ぬと、その力は次代の覚醒者の能力を引き上げるギフトとして受け継がれる。
アリーシャはそこに目をつけた。
これまで犠牲となった転生者の魂を、呪痕に閉じ込めることで、ギフトを得る資格を手に入れられるのではないかと。
転生者の魂はこの世界の異物であるため、この世界に受け入れられなかった場合、行き場がなくなる。
世界に拡散した魂に、呪いという方向性を持たせて集め再利用する、それがこの呪痕だという。
「なんで、そんなことを。。。」
「この世界の根源である黄金律。転生者にしか扱えない、その力を、この世界で生まれた魂に与えるため」
ミリーの哀しそうな目が、それは誰かを物語っていた。
「それが、僕?。。。」
アインの声が震える。
「アリーシャさんが、そこまでする真意までは判らないわ。初めは、お師匠様を救うことが目的だったのは本当だったと思う。けど、その行動は、いつからか目的が変わった様に見える」
「。。。」
「お師匠様は、白の塔と呼ばれる施設の、ゾルダという人に呪痕のことを聞かされたの。そして、あえて自分がそれを受けることを決めた。。。」
「ぐっ!」
話している最中に、ミリーが胸を押さえて苦しみだす。
「ミリ姉ぇ!。。。ごめん、ごめんね。母さんが何をしたいのか僕にはわからない。でも、今、ミリ姉ぇを苦しめているのは僕のせいなんだよね。。。」
アインが涙を流してミリーに謝るが、彼女は手をかざしてそれを止める。
「大丈夫。それに言ったでしょ、これは、必要な事なんだって。。。」
安心させるように、少年に微笑みかけるミリー。
「呪痕が無くなれば、貴方の力も消える。それでは、この世界を救うことができなくなっちゃうよ。貴方の願いと誓いを叶えるためには必要なことなの」
ミリーは決意を込めて、救われることより救うことを選んだ。
「でも!」
アインはそれでも食い下がり、少女を説得しようとする。
「わかって。私はあなたの力になりたいの。でも。。。私では、お師匠様のように耐え続けるのは無理。だから。。。」
ミリーが力ある言葉を唱えた。
「石化」




